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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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造生の賢梟:契縛

どうも皆様こんにちは、泥陀羅没地です。


本日の投稿どうぞ。

――ダダダダンッ――


風の獣達を撃ち抜いてゆく…かれこれ数分、以前獣の数は減らず、寧ろ増えている…単純に、僕一人では対処が間に合わないのだ。


(なら、狙いを変えよう…)

「〝術式装填(リロード)〟…〝圧縮〟…」


――カカカカッ――


少年の持つ猟銃の形をした〝魔術〟から、幾多の文字が蠢き、其処に一つの魔術陣が組込まれてゆく。


「『ッ※※※※※!!!』」


その一瞬の隙に、熊の様な風の獣が肉薄してくる…それは脅威で有り――。


「〝――〟」


同時に〝彼と僕〟を隔て隠す壁としては非常に〝都合が良かった〟…。


――ズドォッ!――


猟銃から一発の弾丸が放たれる…その弾丸は風の熊の頭部を容易く吹き飛ばし、その速度を殺すこと無く彼へ差し迫る…此処までは良い。


「この距離なら、〝防郭魔術〟の展開が間に合うか…」

「『狙いは悪く無い…だが甘いな…!』」


僕の推測通り、着弾する少し前には彼の梟の周囲を半透明の膜が覆い、害有る物を弾く結界と成る……だが。


「〝問題無い〟」


コレで良い…相手の方が全ての〝スペック〟は上だ、経験、知識、魔力、魔術…其れ等全てと張り合えば勝ち目は無い…ならば、どうするか?…。


「〝一点突破〟だ…!」


力の配分は一極集中、圧縮による魔力規模の収縮、其処に軽度の偽装を施した。


アレの魔力感知は誤魔化せない、弾幕の中に紛れさせようと数多の囮の中から〝本命〟を嗅ぎ分けるだろう。


一瞬の判断を〝遅らせる〟だけで良い…圧縮されたこの〝弾丸〟の効果を一瞬〝見抜けなく〟するだけで。


――ズゥッ――


衝突と共に、弾丸が減り込み…〝潰れる〟…先から、慣性に乗り…ゆっくりと拉げ、割れ、その形を壊してゆく。


「『残念だったな…〝不合格〟だ!』」


そして、その弾丸が脅威足り得ないと判断した〝梟〟はそう良い、僕を見る…いや、僕の〝背後〟を。


――ズオォォッ――


僕を包む陽光が陰る……その背後には、先程頭を吹き飛ばした筈の〝風の獣〟が…魔術が〝残っていた〟


「ッ――何故!?」

「『※※※※!!!』」


――ドゴォォッ――


驚きも束の間に、僕は宙を舞う…全身に凄まじい衝撃と、脇腹の骨が鈍い音を立てる感覚、喉を駆け上がる異物の不快感と肺の空気がすべて抜けた様な〝息苦しさ〟と共に…結界に衝突し…今受けた全てのダメージが僕の身体を侵食する。


「カハッ――!?」


酷く痛む…痛みの余り気が動転し、僕は思わず〝詰めの一撃〟を早めてしまった。


「――〝貫通〟!」

「『ッ――!?』」


――キィィィィンッ――


途端、彼の防郭に阻まれクシャクシャに潰れていた魔術の弾丸と防郭の狭間から凄まじい異音が耳を劈く。


防郭の一点を、〝弾丸〟が突き進む…一点、ただ一点に接する魔術の壁を引き裂きながら。


――バシュンッ――


その…造られた獣の片翼を撃ち抜いた。


――ポタポタポタッ――


「ハァッ、ハァッ………ッ、クソッ!」

「『機転は良い、術の制御も素晴らしい…成る程、自らの運用を熟知しているな』」


身体中が痛い、今直ぐにでも気を失いそうだ…吐き気もする、何より肌身に〝死〟を感じ、震えが止まらない…だが、それ以上に〝僕〟の身体を疑問の荒波が飲み込んだ。


(何故あの〝魔術〟は残っていた!?…頭を飛ばされながら、何故〝動いた〟!?)


有り得ない…僕の様な〝本命と囮の二重構造〟では無い、本当に〝単一の魔術〟だった筈なのに。


(〝人造幻獣〟、〝幻獣との融合〟、〝消えずに残る魔術〟、〝非人道の研究〟――)

「――〝記憶〟の……〝複製〟……」

「『ッ……』」


成る程、そうか…そう言う理屈か…。


「〝生命〟を魔術式にしたんだ……〝自己意識を持つ獣〟…肉体の性質すら〝変えられる〟…〝イかれてる〟よ…!」

「『……そうだ、それが〝あの男()〟の咎だ…故に、繰り返してはならんのだ!』」


……嗚呼、そうか、そうだ…〝コレ〟が彼を呼んだ〝原因〟だ。


我が身ながらに〝悍ましい〟…禁忌を理解した、狂気を知り得え、〝ソレ〟に対し〝興味〟を抱くこの〝欲〟が原因か。


「ハハッ…冗談じゃない…!」


こんな研究、死んでも御免だ…ソレはもう〝人間の範疇〟を越えている、〝越えてはならない一線〟だ。


「僕を〝そんなもの〟と一緒にするんじゃない!……〝不愉快〟だ!」

「『〝あの男〟もそう言った!……だが、結局はこのザマだ!…奴は〝人間を恐れ〟、そして〝堕ちたのだ〟!』」


僕は叫んだ、それに梟は叫ぶ様にそう言う…その声には、傍目から見て分かる程に深い〝憎しみ〟と、〝怒り〟に満ちていた。


「『さぁ!…お前はどうする!…この〝不死身の獣(殺してやれぬ獣)〟共にどう〝応える〟!?…』」


迫る獣の〝憎悪〟を肌身に感じる…凍り付いた様な身体の硬直に、僕は思わず〝先生〟を見た。


「………」


しかし、ソレに対して…先生は何一つ語る事は無かった…ただ僕を見て、微笑んでいた…いや。


(このままじゃ〝死ぬ〟だろう!?)


僕は唯一動く視線だけで先生にそう語る、すると先生は目を閉じ肩を竦ませてから僕を見る。


(良いや、〝死なない〟さ)


その視線にはそんな呑気な意思が宿っていた。


(アレは〝殺す〟つもりだぞ!?)


その返答に僕は更に返す。


(その様だね?)


それに、先生は何の躊躇いもなく肯定する。


(助けてくれないのか、それでも〝教師〟なのか!?)

(まだ〝死なない〟だろう?)

(〝もうすぐ〟死ぬ!)

(今直ぐじゃない、後〝6秒〟有る)

(6秒だけじゃないか!)

(違う、〝6秒〟も、だ)


先生はそう言い、その視線で僕を射抜いた。


(コレは君と彼の勝負だ、そして彼は問い掛けた…ならばその返答は君が返さねば成らない、そうでなければ道理が通らない、此処が〝ターニングポイント(勝負の分け目)〟だ…ならば当然、私は手出しする事は出来ないよ、さぁ……後〝5秒〟)


其処まで言うと、先生は指を折り始め、僕を強制的に〝勝負の場に引き摺り出す〟


(クソッ…後5秒でどうする!)


そして、僕の全身が危機の中で全ての情報を掘り起こす…さながら、いや、さながらでは無く〝本当の走馬灯〟の様に。


流れ出す僕の記憶と言う〝知識の海〟から〝解法〟を探す。


守りには入れない、先ず間違いなくあの〝精度〟の術式を防ぎきれない…〝死ぬ〟


逆に攻める……それも無理だ、頭を飛ばしても動き続ける獣達を、術式化した〝化物〟をどう対処すれば良い?…これも〝死ぬ〟…。


避ける…死ぬ、交渉、死ぬ、命乞い、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。


〝何をしても死ぬ〟……〝生きようと藻掻けば死に〟、〝死を受け入れれば死ぬ〟…どん詰まりだ。


「『――※※※※※…!』」


迫る獣達の息使いを肌身に感じる…怒りが、憎悪が、殺意が、悲哀が…〝殺してくれ〟と、〝赦すものか〟と叫んでいる…。


そして…ソレを行使した〝彼〟もまた…〝罰〟を求めて居る…。



「『※※※※※※!!!』」

「――〝アドラの梟〟」


そして、〝解法〟を得た…と同時に、獣達が静止する…いや、獣達を操る者が〝止める〟…。


「君は〝罰〟を望んでいるか?…君の記憶が為に、無関係にも、ただ〝諸悪の根源〟の記憶を有していると言うだけで、君は〝君への罰〟を求めるのか?」

「『……だとすれば何だ』」

「……君の望みを〝叶えよう〟……同時に、〝彼等〟を救う手を〝見付けた〟」

「『ッ―――!?』」


そう、〝見付けた〟…考えてみれば単純な話だった……きっと、〝彼〟はソレを知っていた……そして〝僕〟にそれを〝やらせようとした〟…。


呆れる程単純で、呆れる程〝罪深い〟。


借り物の〝知識〟、複製された〝自我〟…そして、どうあっても〝他者を食い物にする〟しか出来ない〝アドラの本質〟…そんな下手物の外道に存在しない純粋で的外れな〝贖罪意識〟…死なず死ねず、永劫に魔術式として生き永らえざるを得ない獣達への〝死の贈り物〟…其れ等を一挙に叶える〝最悪〟で、何処までも〝愚かな一策〟…。


「君は……〝酷い奴〟だな」


僕を止めに来たと嘯いておきながら、実態は僕に手を汚させる腹積り何だから…本当に〝酷い〟な。


「まぁ良いだろう……代わりに、君には〝永遠の地獄〟と〝僕の従僕〟と成る事を要求させてもらおう」


術式化の対象を、〝彼一人〟に収束させる業を、背負わされる事に成るなんて。


「『………〝済まない〟』」

「今更謝罪するなよ、〝アドラ〟…君の謝罪には、価値なんて無いだろうに……〝先生〟」


僕の言葉が言い終わるよりも早く…僕の視線の先で、〝先生〟は術式を拡げる。


――キュィィンッ――

――カカカカッ――


「――オーケー♪…〝出来るよ〟♪」


そして、その巨大な…魔術陣からは、無数の〝鎖〟が獣達を絡め取り、一挙に纏め、〝術式の集合体〟と化す。


「……良し、それじゃあやろう……」

「〝補助〟はしてあげよう……術式の維持は任せ給え…〝アドラ〟君、君の魔力を拝借するよ」

「『嗚呼…好きに使え』」


そうして、術式は稼働する……獣達が雄叫びを上げ、その姿を〝霧散〟させると、其処から一本の〝手〟が伸び…〝アドラ〟を掴む。


――ズオォォッ――


その瞬間……アドラを掴む〝手〟は凄まじい勢いで収束し、魔力の暴風雨と共にアドラの中へ回帰する……コレで、〝術式化〟は済んだ、そして。


「〝契約成立〟だな?」

「『嗚呼……その通りだ、〝我が主〟よ』」


僕は、僕達はそう言い…空に霧散する何十の〝獣達〟を見送っていた…。

思ったよりも話が膨らみ、個人的に満足度の高い話に成って作者は大満足です。


〝無価値な贖罪〟は中々どうして救われないのでしょうね、悲しくも愚かで不謹慎ながら〝滑稽で面白い〟ものです。

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