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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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造生の賢梟:邂逅

生まれは単純にして悍ましい物で在った。


いいや、その悍ましさ等…本来の〝私〟には認識出来よう筈も無かった。


私を実験体に捕らえた愚者は、事も有ろうに獣の理を越えた者すら汚そうとした。


愚かだ、馬鹿だ、邪智にして暴虐とはこの事だ。


……今でも、鮮明に思い出せる…あの〝光景〟を。


無垢な〝精霊〟と〝人間〟の融合…〝人の境界を越えた不死〟…即ち〝永劫の生命〟に手を出した〝愚か者(一人の男)〟…。


その男を思い起こすと同仕様もなく〝不愉快〟だ…そんな阿呆の〝記憶〟を、〝性格〟を、〝精神の断片〟を――。


「『――この〝肉体〟に宿している事が、殊更不愉快だ…』」

「……成る程、つまり君は…そんな君と〝波長が合った〟僕を止めに来た、或いは殺しに来たと言う事かな?」

「『うむ、〝正解〟だ…若き〝賢者〟よ』」


一人と一匹が邂逅する…しかし、その雰囲気は決して良いものとは言えなかった…。


――ゴゴゴゴゴゴッ――


「『その歳にして恐るべき〝知識〟、〝知識欲〟…魔術師、賢者、数多名を持つ〝知を求める者〟の中で君は〝逸材〟とすら言えるね』」

「そう褒められるとこそばゆいね」


明確な殺意と、ソレに対抗する為の防御反応…そして、その瞬間。


「――残念だ……こんな若者を殺さねば成らぬとは…!」

「ッ―――!」


菅野月人はその光景を、生命が消えゆく刹那の〝風景画〟を目に瞠目する。


其処に有るのは〝死〟だった…真っ直ぐに此方を焼き殺さんとする〝死〟…ソレが何条にも溢れ、眼に移る空間全てを覆う様に飽和して迫っていた。


(防御…〝無駄〟、回避…〝不可能〟、何処を削る?…片目は良い、左腕も構わない、胴部は駄目だ、足は残したい…左腕を〝飛ばす〟――!)


その死を目前に、彼は良く動いた事だろう…並み居る者ならばこの一瞬の〝詰み〟に〝諦め〟てしまっていただろう…。


しかし、結果として彼の行動は〝無駄〟と成る…いや、決して無意味だと言う訳ではなく――。


――パァンッ――


「〝収束〟、〝圧縮〟…簡単な話が〝光条(レーザー)〟か……それも中々の御手前で…♪」

「ッ――  」

「…先生」


その光条の尽くが一瞬の内に〝破壊〟され、霧散したが為に。


――タッ――


「君の知略を褒め称えよう…あの刹那の攻防においては、君の判断に間違いは無いと…腕を犠牲に他を守る行為は〝最善〟だった…少なくとも〝君だけ〟ならね?」

「……コレ(使い魔の使役)は〝当人と使い魔〟だけの〝勝負〟だと言っていたのでは?」

「うん…でも私は〝教師〟で君は〝生徒〟だ…〝生徒〟を守る為なら、私はどんな手をも惜しまないよ…例え、君の望まない結末で在れ、君に相応しい使い魔を殺す結末に成ろうとね?」


――ヒュンッ――


「『貴様……この〝化物〟めが!』」

「おっと!…人のプライバシーに口を突っ込むならば死を覚悟して貰おうか…人の〝中身〟を無遠慮に〝知れ〟ばどうなるか…結論から言えば〝酷い事に成る〟が…どうする?…ねぇ、〝人造幻獣(ホムンクルス)〟の梟君?」

「『……ッ!?…貴様…!?』」


その言葉から先を、その梟が紡ぐ事は無かった…月人の眼には、一人の青年の〝背中〟が有り、その前に相対して居る梟の表情等は欠片も…〝欠片〟も見る事は出来なかったのだ。


「〝アドラ・ルプスラン〟…かつて人と神世の転換期、その最後の時代に生きた魔術師…その〝最後〟にして〝最悪〟、〝最低〟と研究…知識欲?…〝研究者の宿命〟?……馬鹿を言うな、ただ〝生命が終わる〟事を恐れただけの存在の癖に…アレは数有る〝不老不死〟、〝永劫〟の中で最も最悪な部類に手を出した…即ち〝生命の融合〟による生命の超越だ」


そんな彼の視線を受けながら、その人物の口からはツラツラと言葉が綴られてゆく。


「君はその融合の過程に生まれた〝人造幻獣〟だろう?……文献では〝合成獣〟は良く出てきたが、〝魔獣と幻獣〟に〝人間の情報〟を組み込んだ者は見たことが無い…だから、〝面白かった〟よ…もう、満足した♪」

「ッ!」


――グイッ!――


そう言うと、その人物は背後の月人を引っ張り、己の手を月人の肩に乗せて言う。


「――だからほら、〝月人〟君の使い魔に成ってくれると助かるよ、君が彼の舵取りをすれば、月人君は道を踏み外すことは無い…それに、少なくとも若い芽を摘む必要も無くなるだろう?……〝ねぇ?〟」


その言葉は普段と変わらず単調で……しかし、月人はその身近で聞いていた為か、そのこえが普段よりも幾らか〝冷たい〟様な錯覚を覚える。


「おっと!……流石に出しゃばりが過ぎたかな!…月人君の意見を尊重する事を忘れていた…君は彼と契約を結びたいのかい?」


その言葉に月人は少し沈黙し、その横で此方をじっと見る教師に答えを返す。


「……はい、僕は彼と契約したい」

「その〝意〟は?」

「僕は〝知識〟を手にしたい、全ての知を知りたい…その過程は果てし無く長い…だが、〝彼〟が居ればその過程が〝短縮〟出来る筈だ」

「…との事だが?」


月人の答えに、その男は止まり木に止まる梟を見て楽しげに頬を緩ませる…その男に鋭い視線を向け、やがては少年へとその目線を移し、梟は告げる。


「『…良いだろう、君を契約者と認めよう』」


その言葉に、〝少年〟が眼を輝かせたその時。


「――しかし、契約に差し当たり、君を試させて貰うぞ?」


凄まじい魔力を放ち、梟が臨戦態勢に入る…それを見て、その教師は少年から手を離し、其の場から離れる。


「さぁ月人君、コレで君と彼との〝勝負〟に成った…私は手を出さないよ?…少なくとも死ぬ一歩手前まではどれだけ叫んでも手を出さない…良いね?」

「フゥゥゥッ……はい、問題有りません」


そうして一度取り戻された平穏に、再び闘争の〝火花〟が奔る。


「『――本気で〝防御〟しなさい、でなければ生命の保証はしないよ』」

「――問題無い……君を見縊る様な真似はしないよ」


そして、誰が何を言うでも無く…一瞬の空白の後――。


――バチンッ――


「『〝森駆ける風獣〟』」

「――〝無尽の猟銃(アンリミット・ハント)〟」


菅野月人に風の肉を持つ獣の群れが肉薄し…勝負の火蓋は切って落とされた。

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