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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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異端の黒猫:契友

――トンッ――


「所で、何故〝魔人〟が此処に居るのかのう?」


――シャンッ――


「私は此処の教員だからね、魔人が学び舎で働いては行けない何てルールは無いだろう?」

「ルールは無くとも魔人と人とが同じ場所で暮らす事など有り得ん事じゃろうよ」

「そうは言っても私は生徒に〝危害〟を加えるつもりは無い…ソレは君の眼が良く理解している事だろう?」

「…ふむ……成る程、〝確かに〟そうじゃな」


――ペシペシッ――


私を見据える〝黒猫〟はそう言いながら尚も警戒は解かず、その三又の尾で疲労に崩れる少女の顔を叩く。


「うぇぇッ…き、気持ち悪い…」

「何じゃ、魔力切れか?」

「四度魔術式が破綻したからね…流石に限界だったのだろうさ」

「ふむ…」


私の言葉に黒猫は己の背後で顔を青くする少女の顔に肉球を押す。


――ブワッ――


「……うむ、コレで良し……どうじゃ小娘、魔力は全て元通りに補填したぞ?」

「うーん……何か、楽になった気がする……?」

「過度な魔力消費による〝魔力切れ〟、ソレが及ぼす肉体的疲労感、倦怠感はそう単純では無いよ、君の魔力が由美君の物に馴染むまで数分は掛かる筈だ」

「そうじゃったかの?…長い間人間と関わりを持たなかった故、その手の副作用は覚えておらんのだ、すまんな」


私はそう言う黒猫と由美君の魔力が繋がっている事を確認し問う。


「――所で、君の名前は何と言う?」

「フッ、魔術師がそう簡単に名を語る物か」

「ふむ…では私の名と交換でどうかね?」

「……ふぅむ、で在れば我が〝渾名〟…いや〝忌み名〟でも在る物で良いなら教えてやろう」

「構わないよ、黒猫と言い続けるのも味気ないだけだからね」

「我が忌み名は〝ルイナ・ソルシエール〟…〝破滅の魔女〟と呼ばれておった」


〝破滅の魔女〟ね…物騒極まる名前だねぇ。


「宜しく〝ルイナ〟…私の名は〝不身孝宏〟…見ての通り、〝魔人〟で有り、〝教員〟で有り、君が契約した少女の師をして居る…私の弟子を宜しく頼むよ」

「〝タカヒロ〟のう……成る程、東洋の大地なワケか…うむ、まぁ良いとも、任せておけ」

「…ん、んん〜!……身体が軽〜い!」

「「あ、起きた」」


黒猫…否、ルイナと談話に耽っているとその内に由美君が目覚め、また騒がしくも微笑ましい空気が満ちる。


「良〜し!…それじゃあ〝ルイナ〟さん、契約を賭けて勝負だよ!」

「……」

「……のう、タカヒロよ…此奴…」

「……良く言えば天然、悪く言えば馬鹿と言うか…うん…一応フォローしておくと魔力切れの疲労と怠さで聞き逃したのだろう…うん」


気の抜ける我々とは反対に、その少女は得物を出してヤル気に満ち溢れていた…別に戦う必要性は無いのだが…しかし。


「――クククッ…良いじゃろう…年季の違いと言う奴を見せてやろうではないか♪」


ルイナはそう言うと、その身から溢れんばかりの魔力を噴出させ、金の瞳を由美に注ぐ。


「――おぉ、何これ、師匠よりも多いね!?」

「これでも1000年越えの大魔女じゃぞ?…高々五百そこらの魔人…人を食った事も無い魔人被れと一緒にするで無いわ」

「ふむ……成る程、肉体に複数の魔力貯蔵庫を…魔石を己の身に埋め付けたのかい?」

(魔石を複数適合させて人工的に魔力貯蔵庫を増設したのか…成る程)

「それじゃあ行くよ〜!」

「うむ、来い!」


私が〝ルイナ(興味深い実験体)〟を観察していると、その瞬間に二人は〝試合〟を開始する。


「フッ!」


――ザッ――


瞬間、由美君の姿が消え――。


――バコンッ――


「――ニャフッ♪」


ルイナがそんな楽しげな笑い鳴き声を上げて悠々と進む…その〝落とし穴〟へ。


「ニャッハッハハッ!…魔術師相手に搦手を警戒せぬのは行かんぞ〝小娘〟!」

「グヌヌヌゥ、こんな、古典的なトラップで…」

「その古典的なトラップこそ、時に盲点と成り得るのよ良い勉強に成ったのう!…ニャッハッハッ!!!」

「……もう良いかな?」


ーーパチンッ――


私はそう由美君を見て笑うルイナと、由美君を引っ張り出し、落とし穴を修復する……他の生徒達も使い魔との契約が済んだらしいし、そろそろ次の子達に場を回そう。


――パキンッ――


「今回も無事、全員契約出来「アレ!?契約出来てる!?」…出来たね、今回は其処まで闘争的な使い魔は出なかった様で此方としても助かるよ……さぁ、後十数人、手早く回そうか♪」


――ジィッ――


「ッ…さ、次の五人、前に」


私は新たな五人をまた散開させて結界を構築する…そして……。


「――それで?…態々講義中に顔を出す何て、随分と〝焦っている〟らしいじゃないか…〝字波君〟」

「ッ……流石ね、ちょっとした緊急事態よ」


――パタンッ――


グラウンドに面する校舎の最上…其処の理事長室から此方へ強い視線を送る字波君の背後から声を掛け椅子に座る…。


「どうやら私の〝手助け〟が必要な事態と見受ける…詳細を話し給え」


○●○●○●


「……昨夜の事よ」

「〝蛇〟の事だね…その様子から〝潜伏エリア〟は絞れたものの、何らかの〝攻撃〟、〝妨害〟を受けたと見るがどうかな?」

「……えぇ、そうね…合計で〝11人〟…行方不明よ」

「おやまぁ…それはそこそこの被害、封印されていた者の脅威度から推定金剛級、そこら辺りの魔術師が11名行方不明……いや、いやいや…そうじゃないな、確定的だ〝喰われた〟んだろう?…11名喰われた…確かに、緊急事態だ…今頃蛇の腹の中でサッカーでもしてるのかな?…いや、それじゃあと11人足りないか……兎も角〝蛇〟に殺られ、蛇君の詳細な位置関係は分からない…分かるのは潜伏エリアと金剛級以上の脅威と言う事だけ…君が動けば良いのでは?」


眼の前の友人はそう言いながら、飄々とそう言い視線を此方にやり…そしてふと思い出したとその提案を否定する。


「そうだ、そうだ…君は日中だと他の魔術師と同等まで能力が落ちるんだったね…成る程、これ以上被害を拡散させず、尚且つ金剛級以上の実力を持つ者か…となれば、成る程君の中で私が〝候補〟に上がる事は理解した……宜しい、二十分程時間を貰おう、先ずは生徒達全員に使い魔を使役させねば成らないからね」

「分かったわ…それじゃあ私は〝黒縄妬蛇〟が潜伏してるエリアを絞るよう伝えておくわ」

「良し、後のお楽しみも予定に生まれた所で…早速戻っておこう…どうやら〝月人〟君がこれまた珍しい使い魔を召喚したらしいからね」


そうして、孝宏はその身に相応しい行動力でそのまま私の部屋を通り抜け、結界の中に消えてゆくのを、私は見届け――。


「――さぁ、仕事の続きね」


眼の前に積まれた書類に目を通し、携帯で八咫烏局長に情報を伝達する〝作業〟を再開した。

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