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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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ごめん字波君、バレちゃった☆

「う〜ん…無味!」

「でも食べるのね」

「そりゃまぁ、栄養には成るし」


さて、学園の新学期が始まるまで後二週間と言った所、コレクションの解析も済ませた私は字波君と昼食を食べていた。


「しかし意外だね、何時もはインスタント食品で済ませていた君が食事を作る習慣を取り入れるとは」

「ッ〜失礼ね!私だって偶には料理するわよ!」

「そうかね?……しかし残念だ、久し振りの友人が作った料理を真の意味で楽しめないのは」


私は唐揚げを1つ口に放り込み、字波君を見る。


「昼食ありがとう、私はそろそろ消耗品を買い漁るとしよう……何か掘り出し物でも見つかるかもしれない」

「そう…孝宏、分かってるとは思うけど」

「私の正体は隠す事……勿論理解しているとも」


もし仮に魔人とバレたら面倒だ……最悪脳味噌を弄り回して記憶を抹消――。


「貴方って悪い事考えると分かりやすく笑うわよね……」

「……ナンデモナイヨ?」


呆れ返る字波君を背に、私は目的の場所へ向かう事にした。



●○●○●○


「お〜、流石魔術師御用達の専門店、見た目にそぐわない広さだ」


私がやって来たのは“魔術師専門“の店で構成されたアパート、勿論飲食店も用意されてるよ。


この世界の情勢を調べている内に見つけたこの店だが中々面白い。


何せこの店のほぼ全てが魔術師なのだ!


「この世界で魔術が広く知られる様になり、その魔術師は既に世界人口の2割と言われている」


まぁ魔力が一般人と大差ない魔術師も居るらしいが。


「それはそうと早速見て回――」


――ドンッ――


「んぉ?」

「キャッ!?」


私が早速店へ入ろうとしたその時、ふと横から誰かがぶつかった。


――キュィン――


「痛――くは無い?」

「大丈夫かねお嬢さん」

「あ、はい…コチラこそすいません……」

「む、君は……」

(そう言えば数週間前に見たあの少女では無いか)


其処にはあの時出会った空飛ぶ魔術師の少女が空に浮いたまま止まっていた。


「まぁ良い、取敢えず立ち給え…衆人環視の状態でその姿は非常に不味いと思うが?」

「へ?……ッ〜〜!?」


私の言葉に少女は下を見下ろし、慌ててスカートを抑える。


「……見ました?」

「不可抗力だ、それに私は君に欲情する程若くないよ」

「え?…失礼ですがお幾つで?」

「38だ(五百年前はね)」

「嘘!?だってどう見ても二十歳ですよッ、もしかしたら十代に見間違えられる位若く見えますよ!?」

「そういう体質でね」


私は少女の荷物を全て纏めて少女に渡し、少女の純粋な言葉に苦笑いを浮かべる。


「さて、それじゃあ私はコレで……運が良ければまた会えるだろう」

「あ、はい!ありがとうございます!」


そして、私と少女は別々の……では無く同じ店に入った。


「「……」」


ま、まぁ…其処は置いておくとして……此処はどうやら魔術の触媒を置いている店の様だ。


「ほほぉ、銀に樫の木、杖に指輪に札に……コレは楽器か」

「うぅむ、た、高い…」


私が店に並ぶ魔術触媒を見ているととある品棚の真ん前で悔しそうに、ともすれば怨めしそうに銀の美しい指輪を覗く少女を見つけた。


「む?…銀の触媒指輪か……お嬢さん、それは止めて置きたまえ」

「へ?何でですか?」

「この店の魔導具では君の実力は発揮出来ないからだ」


私の言葉に少女は勿論、周りの人間の数人が私へ視線を向ける。


「え!?ど、どういう事ですか!?」

「落ち着きたまえよ、そして、私は此処の店の品が悪いと言っているわけではない、触媒にするに足る十分な性能だと理解しているよ」


私の言葉に幾人かの鋭い視線は勢いを和ぐ……全く。


「私の見立てでは君は射出タイプの魔術は苦手だろう?」

「うぇ!?…そ、そうですけど…」

「そう気落ちする事も無い、見た所君の魔力量は十分高いし、何より癖が無い…私が思うに――」


私は店内を歩き、隅に置いている売れ残り触媒の山から1つを取り出す……それを見た途端、少女は憤慨し、周りの者は声を押し殺して笑い始める。


「な、それは剣じゃ無いですか!?」

「そう、剣だ…“魔術触媒“としての特性を併せ持つね」

「わ・た・し・は・魔・術・師・で・す!」

「?……だから触媒として最適の物をだね」

「それじゃあ丸っ切り戦士じゃ無いですか!」


……あぁ、成る程。


「つまり君は触媒が魔術師のイメージにそぐわない事が気に入らないと?」

「はい!」

「正直だね、そういうのは嫌いじゃないが、君も、周りの君達も1つ認識が甘くは無いかね?」


私の言葉に、空気は一度暗くなる。


「この魔導具は大した物だよ、何故ならば魔術触媒であり、剣としての側面も持っている……良いかい?この手の“武器“として使える魔導具はとても貴重なんだ」


私からすれば何故コレが売れ残っているのか疑問だよ。


「???……どういう事ですか?」

「攻撃可能な触媒を作るのは難易度が高いんだ、何故ならば攻撃によって魔術回路が壊れてしまえばその時点で機能しなくなる、基本的にこの手の触媒を作るのは余程の職人だけなのだが、うん…この職人はまだ若いね、試作か思い付きで作ったのだろう、魔術回路がやや不安定だ、しかし」


――キィィンッ――


「こうして不安定な魔術回路を綺麗に整えてやれば……一級品の魔術触媒と成る」

『……』

「……まだ納得行かないかい?……それじゃあ―」


不満そうな少女と、未だ納得の言っていない彼等の為に、少し実演してやるとしよう。


「済まない、これを少し使って構わないかな、店員のお嬢さん」

「は、はい…」

「ありがとう」

「?お兄さん何を――ッ!?」

『ッ!?』


その瞬間…皆は驚愕する事になる、さっきまで少女と少し離れた場所に居た私が、少女の背後から首筋に剣を添えていたのだから。


「魔術触媒はね、文字通り魔術を行使する触媒として、使用者の魔術を強化する物だ……今かけたのは軽い“身体強化“だけだが、コレだけで君達は死ぬ」

「あ、え?」


私はそう言い少女を離し、少女に触媒の剣を渡す。


「高い物は性能が良い、当然だ……しかしね君、如何に性能が良くとも使い熟さなければ宝の持ち腐れと言う物だ」


心底勿体無いよ、その行為は。


「断言しよう、お嬢さん……君には無意味に高い触媒を使うよりもコチラの方が圧倒的に伸びるよ」


それに、君の懐事情的にも正しい選択だと思うよ。


「むむむぅ……そ、そこまで言われると仕方無いなぁ」


少女は未だ少しの葛藤が有るらしいが、私の力説に従う事にしたらしい。


「それじゃあ私はコレで」

「――待って!」


私が立ち去ろうとした時少女が呼び止めるので、思わず脚を止めてしまった。


「あ、あの〜……良ければ私の買い物に付き合ってくれませんか?」

「?…何故だね」

「え〜っと、実は私…魔術学園の入学者なんですけど、コレから色々と揃えなくちゃ行けないものが有って……」

「成る程、懐事情とさっきの様子を見るに1つに金を使い残りは有り合わせで済ませようとしたと……愚策だね」

「うぐっ…」

「ふむ……構わないよ、どうせ見て回るつもりだったし」


ついでに人にあった物を選ぶ位どうってことは無いさ。


「それじゃあ、それを持って会計へ行って来たまえ」

「はい!」


トテトテトテーッと効果音の付きそうな音と共に少女は会計に駆け込む。


そして、私はそれから少女に合った物を選出し、少女の予算に収まるように買い物を手伝い。




全て見終わる頃には夕暮れと成っていた。



「いや〜、ありがとうございますお兄さん!」

「暇潰しにはなったよ」


夕暮れを二人で歩く……夜道は危険だからね、こんな少女を放ってはおけない。


「いやいや、私は魔術師ですよ?見習いですけど!」

「馬鹿者、夜は魔の時間だよ、油断していると――」


面倒な事になる……そう言おうとした瞬間だった。


「匂う……匂うぞぉ?」


暗闇からそう声が聞こえたと同時に私の眼の前に黒いナイフが留まる。


「人の匂いだァ」

「――こうして、面倒な生き物が寄ってくる」

「え、アレ……悪魔……?」

「だね、それも君よりも数段上の実力だ」

「の、呑気に言ってる場合じゃ無いですよ!逃げな―」


――ゾォッ――


「きゃ…ッ!?」


少女がそう言うと同時に、我々は気が付けば血塗れの薄暗い大地に立っていた。


「ふむ、結界術だね…中々良い練度だ」

「あ、あぁ……そんな」

「案ずることはない、こういう時は銀の十字架を着けて置きなさい、少なくとも悪魔が取り付くことは無くなる」


私は絶望に打ちひしがれる少女を見てそう言う、すると…ふと悪魔が口を開き。


「ンン?……貴様、もしや同族か?」


等と口を滑らせてくれやがった……さらに魔の悪いことに絶望に打ちひしがれた少女は正気に戻り、その言葉を聞いて私に目を向ける。


「え?…お兄さ、悪魔?…え?」

「……失敬な事を言ってくれるねぇ」


全く、余計な混乱を撒かないでくれるかねぇ。


「お嬢さん、こういう局面で大事なのは冷静な思考と判断力だ、今この場で敵が誰で自分の手札は何でどういう状況かを把握しなさい」


少女に差し迫る黒い短剣を障壁で弾く、ふむ。


「結界術の練度はそこそこ、しかし他の戦闘魔術は不得意かね?」

「……何故仲間が人間の味方をする?」

「生憎と君みたいなのと仲間になった事は一度たりともないよ」

「……そうか、ならば――」


――キィィンッ――


「死ね」


そして放たれる……黒い剣の群れ、それは瞬く間に私に降り注ぎ、周囲を破壊の余韻で満たした。


「……さぁ、邪魔者も消えた事だ、久方ぶりの食事と洒落込もう」



悪魔はそう言い、反対の少女へ向き直る…。


「あ……いや…」

「ふむ、良く見れば中々悪く無い雌だな、食らう前に犯してやるのも一興か?」


悪魔はそう言い、恐怖に立ち竦む少女を見て舌舐めずりする……そして、その少女へ手を掛け様とした、その瞬間。



――ドスッ――


「……あ?」

「……え?」


悪魔の心臓に腕が生えた。


「う〜ん……君はあまり唆られないねぇ」


――ブチッ――


飄々とした声の主は、そう言い悪魔の心臓を抜き取る。


「ガフッ!?…ぎ、ギザマ…何故生きて――」

「何でも何も、君の攻撃は単純に魔力に物を言わせただけのゴリ押しじゃないか、そんなんじゃ私の障壁を1枚割れるかも怪しい物だよ」


その男は地面に膝を付く悪魔を見てそう言い…その“心臓“を口に放り込む。


――グチュ…グチュ…――


「ふむ……何となく空腹感を覚えたから食べてみたが、中々どうして悪く無い……それに、少し力が張るね」


そう呑気な事を言いながら、男は少女に近付く。


「怪我は無いかね?…ふむ、無さそうだ」

「あ、え……へ?」

「貴様、聞いてるの――」


男が少女の具合を確認していたその背後で、悪魔が叫び喚いていた、だが。


「煩いね」


男は煩わしそうにそう言うと、悪魔の頭を吹き飛ばす。


「……さて」


空間に亀裂が走り、元の夕焼け空へ戻った後、男は悪魔の骸を回収して……そして。


「ウヌォォォッ…やってしまったー!?」


頭を抱え、しゃがみ込む……それは先程悪魔の頭蓋を吹き飛ばした冷たい眼の男とは余りに掛け離れた姿だった。


「――良し、コレは仕方無い、開き直って報告しよう!……と、言う訳で」


――ガシッ――


「へ?…キャッ!?」

「済まないねお嬢さん、諸事情だが一度寄り道をさせてもらうよ、安心したまえ用が済めばちゃんと元の家へ送り届けるさ」


そう言い、男は屋根から屋根へ飛び移り、1つの場所へ向かうのだった……。




○●○●○●


「……それで?…つまりは?」

「ごめん字波君、バレちゃった☆」

「何してんのよ〜!?」


其処には頭を抱えて椅子に座る学園長と、何が何やら分からない様子の少女と、悪びれず正座をして紅茶を美味しそうに飲む男の姿が有った。


「あ、砂糖を貰えるかい?」

「寛いでるんじゃないわよ!?」

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