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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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氷霊の白狼・契従

どうも皆様こんにちは、泥陀羅没地です。


前話のエピソードタイトルを変えました…何と言うかしっくり来なかったので。

――ジャリィンッ――


「フンッ!」

「『カァッ!』」


――ズドォ!――


雪飛沫が周囲を舞う…重厚な金属音を放つ氷の槍と獣の牙は、その銀世界の至る所に衝突の余波を刻み付けていた。


「『氷結の術理か…それも、かなりの使い手よ……我がまだ〝魔獣〟で在った頃と違い、〝魔術〟は大分に成長したらしい』」

(うむ……此奴ならば、〝良い〟だろう……しかし)


白狼は心内にそう呟き、その視線を一瞬〝あの男〟に向ける。


――トポトポトポッ――


「う〜む♪…やはり、こう寒い時はココアが美味しくなるねぇ…焼きマシュマロなんかも用意したいがそうも言ってられないしねぇ…そこは諦めよう」


雪の煉瓦を積み重ねた建造物の隣で温かい飲み物を嗜む〝青年〟…いや、〝老人〟か…楽しげに笑うその男の瞳は、フラフラと彷徨っている様に見えて〝常に〟此方を見ていた。


その男の匂いを、〝白狼〟は知っていた。


(何故、〝悪魔〟が人を育てる?…此奴を殺しておくべきか?)


少なくとも、コレから主に成るであろう人間を悪魔の毒牙から逃れさせる事は可能だろう…だが。


(……殺し切れぬか)


アレの魔力は己よりも遥か下だ…だが、纏う奇妙な雰囲気は、不明瞭で、不気味に揺らめいていた…ソレが、己の牙を鈍らせる物なのは確かだ。


「フゥ……〝余所見して〟良いのかい?…〝白狼〟君?」

「〝氷武羽衣〟――〝蒼氷方天戟〟!」

「『ヌゥッ――!?』」


一瞬の余所見に、氷の槍が突き迫る……。


――ギリィッ――


「余所見してんじゃねぇよ…〝馬鹿野郎〟が!」

「『クカッ…コレは、済まんな…気を散らした…!』」


――ガッ――


槍を牙で受け止め…白狼はそう笑い、槍ごと氷太郎を投げ飛ばす…。


――パキンッ――


「『――さて…主の力量は十分分かった……良かろう、主の〝従僕〟に成ってやるとも』」


白狼はそうクツクツと笑い…そう言葉にする……しかし、その言葉とは裏腹に世界を染め上げる銀は一層強く成り、積み重なり続けてゆく…。


――ゴゴゴゴゴゴッ――


「『――この〝一撃〟を喰らい、生きていれば…な?』」

「ッ――先生、手ぇ出すなよ?」

「プハーッ♪……それは承服しかねるねぇ…」

「……おい」

「――〝教師は生徒の味方〟だ…例え君の頼みで在れど私は教師で君は生徒、生徒の危機には教師が対応を取らねばならない…君は死なないとも…少なくとも〝私の生徒〟で在る内は……そして、私が君と彼との勝負に関わることを認めないならば、単純な話だろう?……君が彼の一撃を耐えれば良い」


そして、その魔力の迸りに触発されてか氷太郎は身体から凄まじい勢いで〝魔力〟を引き摺り出す。


「『ッ!?――コレは』」


先程以上の〝魔力〟を…それに瞠目する白狼へ、その男は楽しげに紡ぐ。


「巌根氷太郎…日本有数の魔術師一族、〝巌根家〟現当主の三男…資質は十分、努力は十分、基礎能力は雑多な同世代の術師達とは一線を画す…驚く事は無いだろう?……君との〝小競り合い〟で、彼はまだ一度と本気を出していないのさ」


その言葉に、白狼は…己の口角が釣り上がるのを感じるだろう。


「今は君の方が格上だろう、魔力も、肉体も知識も…だが、〝この試練〟においては君と彼は〝互角〟だ…そして、断言出来る…〝互角〟と言う条件下では、君は〝巌根氷太郎〟には勝てないと」


その男の言葉等……最早どうでも良かった……眼の前に佇む…その〝男〟が、予想以上に〝強か〟で在ったが為に。


強敵を前に〝実力を隠匿〟し、欺き…肉体、非肉体の〝闘争〟を〝制する〟……その男の〝戦い〟での〝強か〟さが…〝美味そう〟で在ったが為に。


「来いよ〝白狼〟…〝防ぎ切ってやる〟よ」

「『ッ――小癪!』」


――シュウゥゥゥッ――


その激突の瞬間に、ハッキリと〝認識〟した…。


――ズドオォォォンッ――


己の氷牙を真っ向から受け止める…〝主の姿〟を。


「ガハッ……ハッハッ…〝効く〟ナァ…オイ…!」

「『ッ――クククッ…よもや、我を欺くとは…小癪な小僧よ…』」

「〝勝負〟だろ?…テメェの手札をそう簡単に晒すかよ」

「『尤もだ……コレは一杯食わされた』」


静寂の中で、我々はふらつく身体を起こし我は跪く。


「『我が課せし〝契〟を以て誓わん、貴殿の生命が尽きぬ内は、我は霊界の支配者を降り、汝が下僕と成ろう』」


そして、その額に〝主〟の手を乗せ…その掌に〝主の朱印〟を刻み付ける…その瞬間。


――パチッ、パチッ、パチッ――


「――いやぁおめでとう、おめでとう…コレで五人全員が使い魔を手にしたね…では、次の者達……と言う前に一つ…君達はコレで魔術師として〝一つ上〟へと登ったのは確かだ…かと言って慢心はせぬ様に」


結界は砕け、朝日によって周囲の冷気は焼き消されてゆく…そんな中で、拍手と共に眼の前の男は周囲の生徒達に向けてそう告げる。


「使い魔とのコミュニケーションに失敗した魔術師は、その能力を完全には発揮出来ない…使い魔は君の従属者では有るが本人に〝意思〟が無い訳では無い…だから、丁寧に使い魔を扱い給えよ?」


そう言い、男は生徒達を退かせ次の生徒を五人…前に出す。


「さて、それじゃあ次の者達だ…なぁに、時間はまだ有る…そう焦らなくとも大丈夫さ」


その顔に笑みを浮かべ、男は講義を続けるのだった……。



●○●○●○


――カッ…カッ…カッ…――


「クフフ、フフフッフハッ♪…重畳重畳……至極順調に腹も満ちて来た♪」


異臭を放つ下水道の道を歩きながら、少女は上機嫌に笑い…先へ進む。


「――さぁて…丁度力も多少戻った事だ…少し試して見る事にしよう♪」


――ピクッ――


「ッ――ほぉ?…コレは、何とも都合の良い…よもや我の為に神が与えた〝生贄〟かのう?」


その少女はそう口を引き裂き笑みを作り、己へ迫る複数の気配に〝悪辣〟を滲ませる。


「ッ見付けた…!」

「至急連らk――」


――ギュウッ――


そして、その次の瞬間……少女の前に現れた片手程の魔術師達は鈍い音を首元から響かせ崩れ落ちる…その余りにも一瞬の終わりに、少女は目を見開き…つまらなそうに息を吐く。


「何じゃ…たかが呪って殺っただけで有ろうに……話にならんのう…折角我の力を推し量るという名誉を与えてやったと言うのに…やはり、人間は脆いのう…」


――ククッククククッ♪――


少女はそう骸を嘲弄し、その場を去ってゆく……その十数分後に異変を察知し増援が到着した時には…其の場には何一つの〝痕跡〟も、〝遺体〟も残っては居なかった。

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