悪巧みはしかしどうして楽しい物か?
どうも皆様、泥陀羅没地です。
本日は気分が良く活力が余ったので2本目どうぞ。
――コポコポッ――
「500年を生きたとは言え、こうも科学技術が発展していると興奮は冷めやらないと言う物だなぁアル!」
「『知るか』」
其処は薄暗がり、薄暗闇、光届かない私の〝研究所〟…とは言っても此処は私の〝宝物庫〟の中では無い…れっきとした不動産だ。
「冷たいなぁ…しかし、フフフフ…懐かしいねぇこの匂い…以前はまだまだ発展の取っ掛かりとしか言えなかった〝生物学〟…いやいや、生物学だけでは無い…私が知る科学の最先端は最早疾うの昔に追いやられ、〝最先端〟から下落し、〝科学時代初期〟と言う括りに置かれる程に科学は進展しているとは…!」
――コポコポ、コポコポッ――
培養液に満ちた大きな培養室の中に目を向ける…そこの中心で未だ揺れ、〝眠る〟その姿を…。
「〝複製化〟技術、全く人間とは罪深い、自らの創造主を虚構に追い遣って尚、罪過を上塗りするが如く〝神の真似事〟を始めるとは…」
何よりも罪深いのは、それだけ発達した技術を持ちながら、半ば執着的に…未だ地面を這い潜む翼を持てない蛇が如く、地球に張り付いて居る事だが。
「恐るべきは〝怠惰〟だね…いやいや、構わんさ、その〝怠惰〟がお陰で私は忘却から這い出たのだから」
……とまぁ、科学の発展への感嘆、感涙から移ろい行き挙げ句〝人類の罪深さ〟という、〝物質主義〟から〝精神主義〟への思考の逸脱を楽しむ…いや、より単純明快に言ってしまえば〝突飛な思考〟を楽しみながら、私は汎ゆる手段、複数の〝偽名〟と〝口座〟から経由に経由して買い集めた〝培養室〟で一人作業を繰り返す…。
「光は眩しい…〝太陽〟は神々しくも恐ろしい…しかしその強大な力、恩恵にこそ人は惹かれ、神格化し、崇拝し、愛し、受容して来た」
だが、人類はやはり…同仕様もなく愚かなのだよねぇ……本当に。
「光を愛す、正義を愛する、愛を愛する、信頼を愛する、希望を愛する……即ち、〝善を愛する〟…ソレは〝善良〟だ、大変宜しい」
法律、公序良俗、誠実、施し…そんな〝平和〟を私は勿論大事にしよう…だが。
「――私はやはり、〝善悪〟を推し量れども属する事は出来ないらしい…フフッ、何て〝悍ましい〟物か♪」
その〝善良〟と同じ位、私は〝邪悪〟を孕んでいるのだねぇ。
「闇を愛する、悪意を愛する、憎悪を愛する、裏切りを愛する、絶望を愛する…即ちソレは〝悪を愛する〟と言う事だろう…全く、我が事ながら恐ろしい限りだ♪」
しかし、邪悪とて無価値では無い…〝利用〟出来るだろう。
「ならば、私は〝善良〟を守る為に〝邪悪〟を働こう…何、所詮罪人悪人の言い訳だとも…」
しかしそれでも〝善良〟の為に邪悪を消費する事は止めないが。
「さぁて、早速〝造っていこう〟…悍ましく、醜く、悪辣で、外道な〝邪悪の傑作〟を」
手始めに……そうだなぁ……。
「此処は1つ、記念と言う事で少し、〝身を削ろう〟」
――カチャカチャカチャッ――
――ドサモサドサッ――
――サクサクサクサクッ――
――クチュクチュくチュッ――
「〝アル〟…指定の時間になれば私を〝止めてくれ〟……今日の夜は些か面倒な仕事が入っている…聞かぬ様なら殴り飛ばし、腕を食い千切って呼び給え」
「『……』」
「どうかしたかい?」
「『…フン、良かろう…その時は貴様の頭を喰い破ってやる』」
「再生が遅い部位は面倒だ、せめて腕か足にしたまえ、一応でも人間と同じ構造だ頭が潰されると動けなくなる」
「『知った事か…少し散歩してくる、全く…狂人め』」
私はそう言い、私の研究所から出てゆくアルに見向きもせずに〝ソレ〟を加工してゆく。
ソレを、〝三つ〟の培養ポッドに浮かぶ肉片は…脈動と共に見守っていた……。
●○●○●○
下に恐ろしきは〝善意〟で有る。
善意のままに迎え入れ、善意のままに滅び行く…善良である事は悪では無い、しかし〝善良〟も過ぎれば〝悪〟であろう。
――トプンッ――
其処は…土と忘却に塗れた場所であった。
――トプンッ――
「ハァッ…ハァッ……此処が…此処が君の〝お母さん〟が封印されている場所なんだよね?」
本来人目に付かぬ場所、付きようもない場所……薄暗闇の空洞の奥に、一人の少女と一匹の〝蛇〟が居た。
「シィィッ!」
その黒い蛇の様な何かは肯定する様に彼女の周りを回り、少女を先導するように進んでゆく…。
「…」
静寂が、少女を包む…その先頭には黒い蛇は何縫う様に張って進んでゆく。
……その少女は善良だった。
……そして、致命的に〝純粋過ぎた〟…。
〝善良〟の過剰は即ち〝独善〟だ…空回り燃え広がる油を撒き散らしているに過ぎない。
かと言って、彼女等を攻めるのはまた異を唱えられよう…彼女は心優しく、そんな彼女の母親父親もまた、決して純粋と言うわけでもないが、〝善良〟では有った…傷付いた〝生命〟を…そう〝捨て置けぬ〟程に。
「……アレ…かな?」
少女の視線の先には…一匹の蛇の〝石像〟が有った…まるで戒められたかの様に天へ口を開き叫ぶような姿はつい先程まで生きていたかの様な躍動感に襲われる事だろう。
「シャァッ…」
そして…敢えて彼女等を叱責するとするならば、彼女等が保護した生命が〝妖魔〟である事と、〝妖魔とは何たるか〟を都合の良い換えの効く〝愛嬌〟に忘却した事だろう。
悪意に謀られた不幸な、そして回避できよう事故…それは、古今の術師達にも責任の所在は有るだろう。
それは、己等が心血注いで封印した〝存在〟のもしかすればを想定していなかった〝浅慮〟
……そして。
――ペタッ――
「コレを…剥がせば良いんだよね?…」
「シャァ!」
例え善なる者であれど、ソレの封印を解けば呪うとする程に…〝冷酷〟に染まりきれなかった事。
――ビリッ――
成すならば〝非情〟に徹さねば成らなかった。
施すならば線引は刻むべきで在った。
〝善意〟とは、時に最悪を引き起こす物だ。
冷酷な機械に成れなかった過去の愚者と。
無償の愛、純真過ぎたが故に悪意を見抜けなかった現在の愚者。
その捨てられよう筈もない〝人の美徳〟が故に――。
――ギョロッ――
〝悪意の獣〟は解き放たれてしまったのだ。
「『良ぉくやったぞ……我が子孫よ…そして――』」
――ズモォッ――
「『愚かにも出来したぞ〝人間〟…人間は須らく鏖殺するが、貴様の功を捨て置くまい…食い殺しはせぬ♪』」
「ァッ〜〜〜〜!?!?!?」
「『我が力の回復するまでの束の間…貴様の身体を使ってやろう…そして、貴様の魂を束の間の〝快楽〟に浸らせてやろうぞ♪』」
石像を突き破り、少女の身体へ〝黒縄〟が入り込む…その声だけを響かせて……やがて、その溢れん瘴気は即座に収束し…静謐と〝少女〟…そして一匹の小蛇だけが残った…。
「……ふむ…〝1000年〟か…随分と眠っていたものよ…道理で力の回復も遅い理由よ…仕方有るまい…暫くは隠れ潜もうかのう……それよりもこの地を去るぞ〝子〟よ…封の破壊が術師共に知られたやも知れぬ…一先ずはこの娘を装い過ごすとしよう♪」
「キシャー♪」
そして、少女は先程の純朴とは正反対に…邪気に満ちた声と雰囲気を纏い、其の場から駆け去るのだった…。




