退屈な決着
どうも皆様泥陀羅没地でございます。
本日2本目、何とか間に合いました。
――コレは夢か?――
今…〝僕〟の眼の前に居る人間を見て…僕はそう心根に問う、否…コレは〝現実〟だ。
――シャリンッ――
「――あぁ、うん…良し、ちゃんと動くな…」
今眼の前で軽く氷の武器を振るう…その人物を僕は、僕達は知っている…知らぬ筈もない、魔術師の血統…現当主の息子の3人目…〝巌根〟の血筋。
彼と僕が今…こうして相対している……あぁ…遂に…!
「――僕は…此処まで来たんだ…」
肌身に感じる…僕を散々と小馬鹿にした〝奴等〟の驚愕が、非才と詰った奴等の〝動揺〟が…!…。
……良い、気分だなぁ…本当に。
「――おい」
そんな僕を、その男は現実に引き戻す…よくよく見れば周囲の空気も既に高まり始め、試合開始を告げる口上が始まっていた。
「もう始まるぜ……〝さっさと構えろ〟」
その瞬間…眼の前に居るその男から、凄まじい〝重圧〟が放たれる…。
――ザッ…――
「ッ……」
「?……まぁ良い、試合は試合だ…〝油断はしない〟…」
「『ッ――それでは学年別競技大会!…〝一年生優勝決定戦〟…〝開始〟!』」
――ピィィィッ――
そして、笛の音が鳴り響いた瞬間…。
「〝ロックバッ――」
――ズガンッ――
僕の胸に氷の槍が直撃した。
「ッ――遅え!」
そして、吹き飛ばされるその瞬間……僕は見た…。
「カッ――ァッ!?」
砕けた氷槍を払い除け、肉薄する……〝化物〟を。
●○●○●○
――ドガガガッ――
「『えぇ…あ、嘘ぉ……ハッ…コホン、な、何と言う事でしょう!…決勝戦開幕に肉薄した氷太郎選手が理人選手を攻め立てる!』」
それは、決勝戦に勝ち進んだ者達と呼ぶには…余りにも一方的な蹂躙だった。
「ガハァァッ…!?」
そうだろう、当然の帰結だ…肉体の強化?…魔力の増強?…それは生命すら擲つに足る物なのかはさておき、その本質は〝過ぎた力〟に他ならない。
代償は重く、与えられる力は絶大…雑兵一匹を強兵とするには十分だろう…だが。
「舐め腐っている…うむ、そうだ」
そう、力は適当に振り回せば良い物では無い…見合った場所、然るべき条件、適切な状況下で行使されて初めてその真価を発揮する…無論ただ強過ぎる力を振るえばそれはある種の脅威だろう…だが。
そんな紛い物の強兵等、一騎当千の〝英雄〟には遠く及ばない。
彼等は真に魔術へ向き合ったのか?…否だ、憧れに目を焼かれた彼等はソレに帰属した…それの上辺だけを真似、真意を見なかった。
彼等はソレに見合う努力をしたのか?…〝否〟…努力の定義を履き違え、精神論や無知のままに振るわれるソレの何が努力な物か…そんな物は所詮真似事に過ぎない。
魔力を適切に扱う技術を持たず、肉体の動かし方も知らず…それでどうして〝彼等〟を追い越せようか?…。
「ハァッ…ハァッ…何で、何で何で何で!……狡い、狡いなぁ!」
「口より手ェ動かせや」
叫ぶソレに氷太郎は無慈悲に追撃する、その生命が放つなけなしの抵抗を切り捨てて。
「巫山戯んなよ…〝努力も知らない天才〟が僕に命令するな!」
「〝努力も知らない天才〟…ね」
――愚か――
この手の手合は直ぐに叫ぶ、〝天才だ〟、〝秀才だ〟、才能、才能、才能…〝自らの不足〟から目を背ける、手の届かない耳心地の良い〝免罪符〟にその嫉妬を募らせる。
「全く……不愉快な事だよ」
「……随分と厳しいのね」
「――君は私を何だと思っているのかな?…私は全能の神でも機械でもない…良くも悪くも不完全な〝人間〟だよ?…肉の方は微妙だが……兎も角、君に気に入る気に入らないがある様に、私にもその手の好悪は存在する…それがあの手の輩と言う話さ」
……しかし、それはそれだ。
「字波君、〝試合終了〟を進言するよ……アレでは彼が延々と嬲られるだけだ、凌辱と不名誉は双方の毒だろう」
「……えぇ、そうね」
私の言葉に字波君はそう頷き右手を上げる…すると、解説席の二人はその動きの意味を理解し、観衆に向けて声を続ける。
「『たった今、〝字波理事長〟より〝試合終了〟の号令が出されました!』」
「『試合終了の際の勝者決定は舞台に設置された計測器による〝記録〟から判定されます…』」
そう説明されると共に、散りばめられた巨大なスクリーンには二人の顔写真と其々のパラメータが表示される。
『消耗魔力割合…〝巌根氷太郎〟……〝18%〟……〝高原理人〟…〝32%〟』
『損耗体力割合…巌根氷太郎…〝8%〟…高原理人…51%』
『ダメージ及び、損耗生命力割合…巌根氷太郎…〝0%〟……高原理人…〝40%〟』
羅列されていく数字の羅列…それが表すものはどれを取っても一目見て理解出来る物だった……そして。
『以上、総合計算による勝者判定……勝者、〝巌根氷太郎〟』
余りに呆気なく、決勝戦に似つかわしくない淡白さと、他の試合には無い〝特異性〟と言う意味においては人に衝撃を与えた……私の評価からすれば酷く〝退屈な試合〟は異例の短さで幕を閉じた…うむ。
「彼の憂さ晴らしには後で付き合ってやるとしよう」
教師としても、一観客としても彼には同情するよ。
○●○●○●
――パキンッ――
「…チッ――くっだらねぇ…」
俺はそう言い、眼前で倒れ込むボロ雑巾の様な其奴にそう言う…戦いを勝ち抜いたにしては、とんだ〝雑魚〟だった。
「コレなら、寧ろ戦わねぇ方がマシだったぜ……テメェ、本当に〝鍛えた〟のか?」
「ッ……黙れ…黙れよ…!」
「……フンッ、糞ムカつくぜ…」
止めだ止め……こんな優勝なんざ死ぬ程嬉しかねぇ……あ?…。
「……」
「先公…丁度良い、憂さ晴らしに行くとするか」
そう言う意味じゃあ、この試合も悪く…いや、どちらにしろ糞だったな。
続々と、決勝戦は続く…観客達は心に巣食った失望を直ぐに退かせ、また熱狂に浸るだろう……。
そうして、彼等選手達の激闘は幕を閉じ……学年別の優勝者達を発表し、閉会式が始まるといった…丁度その時だった。
「――さて……大会終わりの〝後始末〟…やって行こうか」
〝事件〟が起こったのは。




