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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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五百年越しの復職

――カチャッ――


「「……」」


私と字波君は互いに無言で紅茶を啜る……あ〜久し振りの紅茶は美味しいねぇ、魔人に成って味覚無いケド。


「それで――」

「説明して?」

「おっと、会話をぶった切られた挙げ句主語の無い質問を投げ掛けられてしまった、説明とは何を?」

「……この五百年間何をしていたのかしら?」

「う〜ん、箱に閉じ籠もってた」

「……巫山戯てるのかしら?」

「いや、事実だよ」


私はそう言い青筋を立てる彼女に見える様にその白い箱を机に置く。


「コレは?」

「“王の宝物庫“……ある遺跡調査の時に見つけた魔導具でね、この箱の内部は周囲と隔離された空間になっていて、所有者以外は開けない仕様になってるんだよ」

「……何故箱に?」

「悪魔の肉体を奪う為かな」


私の言葉に、字波君はその顔を驚愕に染める。


「私も驚いたよ、まさか遺跡調査中に案内に捕まえた青年に裏切られた……のはこれまでに有ったが、その青年が開いた箱から悪魔が現れてしまうとは、オマケに私が悪魔の肉体を奪って魔術の研究をしていると五百年の月日が流れたんだろう?」


逆浦島だよ本当に。


「それで、聞きたいのだが……“流水“や“銀“、“十字架“は平気なのかね?」

「ッ、相変わらずの観察眼ね……どうして分かったのかしら?」

「私の記憶では字波美幸は瞳が茶色で牙は無く、蝙蝠のペット等飼う人間では無いと記憶しているが?…オマケにこの世界は可笑しな事に現実と非現実が混じり合い変化している、悪魔と言う非現実が居たんだ、吸血鬼の一人や二人現れても不思議では無いと思わないかい?」

「……」

「それで、質問への回答が聞きたいね」

「問題無いわ、日中は一般人に毛が生えた程度にまで能力は下がるけれどね」

「……吸血鬼になったのは五百年前だね」

「そうね、あの日に悪魔が現れて虐殺した日以降、世界中で吸血鬼や悪魔、妖怪何かが現れるように成った」

「現実に本来あり得ない非現実の生命が入り込んだ、その歪みか、或いは人が無意識にその存在等を恐れたのか……どちらにせよその日以降様々な魔物が現れ、それに抗する為に影に細々とその技術を紡いでいた魔術師達が集結した訳だ」

「そうね、それから1年後に私は“彼女“から吸血鬼の力を受け継いだの」

「ふぅん……中々興味深いね」


私は紅茶を飲み終えるとコレクションを分別していく。


「貴方は自分が化物になっても変わらないわね」

「そういう君もそうだろう、昔の様に美しく、気丈で面白く…そして寂しがり屋だ」

「……」

「私は私だよ、仮令この血肉が人間では無く、人の血肉を趣向品の様に喰らい、魂を求めようとも、私は私、不身孝宏と言う1つの存在だ」

「……フフフッ、本当に、変わらないわね」


彼女はそう言うと嬉しそうに笑い、私の背中に声を掛ける。


「それじゃあ、今日から貴方をこの学園の教員として雇用するわね」

「はい?…急だね?」

「私はこの魔術師養成学園の学園長で、それなりに政府含めた他の魔術師達とも顔が効くし権力も有るのよ、この程度の横暴は許されるわ」

「君は真面目な方だと思っていたが?」

「やっと出会えた私の知り合いなのですもの、逃がしてたまるものですか」

「……ハハッ、良いねその理由、中々面白いよ」


真面目で気丈で、でも少し寂しがり屋な彼女らしい、何とも可愛らしい理由だ。


「構わないよ、私もこの五百年で人間が何処まで魔術を理解したのか知りたいしね」

「契約成立ね?」


こうして、私は五百年の月日を経て復職を果たしたのだった……




…のだが。



「先ずは貴方の実力を試させてもらいます」


字波君に連れられて来た試験会場で、私は試験官から説明を受ける。


「あ〜成る程、それは確かにそうだねぇ」


魔術師の学園で教職に就くのだ、その実力は確かな物でなければ成らないのは理解出来る、しかし……。


「だがね君、何で教員全員が私をマジマジと見つめているんだい?」

「不正防止です」

「それにしたって全方位から調書を取るように見るのは不正防止とは言えないだろう、どう思う字波君?」

「彼の実力は私が保証するわ」

「……可笑しいね、味方が居ないよ?」


「おい、学園長が直々に認めているぞ」

「どんな人間なんだ?」

「字波学園長にあんな言い方出来る程なのか」


(気になる……!)


……はぁ、全く…研究気質と言うか超実力主義と言うか……そういうのは嫌いじゃない。


「それで?私は一体何をすれば良いんだい?」

「簡単な試験ですよ、コチラをご覧下さい」


空中に映像を投影する試験官、その映像には1つの…アスレチックが有った、ただし。


――ヒュンヒュンヒュンッ――


――がガガガッ――


――バタンッ――


明らかに殺す気の様なコースでは有るが。


「貴方にはこのコースを走ってもらいます、道中遭遇する敵役の人形を倒しつつゴールの時間を測ります」

「……成る程」


確かに、状況判断と魔術の精密さを測るには持って来いだね。


「了解した…私は戦闘が得意では無いが」


まぁ、やるだけやってみようか。


「それでは位置について下さい、スタートの合図が出るまでは魔術の使用は禁止です、そして開始の合図はランダムで発生します、勿論説明中も――」


――パァンッ――


「――発生します」


開始の音と同時に私は駆ける、それと同時に索敵を始める。


――コンッ――


(音源は30前後、魔力反応は25、4つは隠蔽魔術で隠されているか)


「十分だ」


――カカカカッ――


魔術とは本当に面白い、1つの術が百の術に変化する、特に私が気に入っているのは。


「“魔弾“」


そう、この何の属性にも染まっていない、初歩的な魔術……コレは素晴らしい、5つの属性で色付けすればその属性に変化し、形状、威力、魔力消費のコストパーフォーマンスに優れている。


「“拡張“……“魔力追尾“……“拡散“」


何よりも良いのは……“構築速度“だ。


「“魔弾の射手“」


――ドゥンッ――


そして放たれる、1つの魔力の弾丸が……そして眼の前の魔術陣に触れた瞬間。


――ギュンッ――


『ッ!?』


総数23の魔力弾が発生し、障害物を躱して標的の中央に突き刺さる。


「反応なし、次」


――キュィィンッ――


そして私は新たに術を掛ける……掛けるのは単純な“身体強化“。


しかし、掛けるのは脚だけだ。


――ダンッ――


瞬間、景色は飛び…私は縫う様にコースを進む……。


「フハッ♪」


罠を避け、障害物を飛び越える…隙間から現れた敵も見逃さない。


そして、コースの奥には見るからに硬そうな岩を纏った大きな魔導人形(ゴーレム)を見つける。


「大きいね」

「――!」


ゴーレムの振り下ろしを躱して、私はゴーレムの胸に触れる。


「だが、防御術式を複数刻まないのは悪手だね」


防御術式を割り、胸部に新たな術式を刻む。


「じゃあね」


そしてそのままゴールへ走り去る……その背後では。


――ボゴンッ――


胸部にバスケットボール程の穴を開けたゴーレムが居た。



「フゥゥッ……タイムは?」

「………」

『…………』

「?…お〜い、呆けているのかね?」

「ハッ…た、タイムは2分21秒です!」

「ふむ、後10秒は早いと思ったが……この出力ではこんなものか」


試験官に礼を告げ、私は字波君に向き直る。


「さて、試験結果はどうかね字波君?」

「文句無しの合格よ……驚いたわね、まさかこのコースを完全踏破されるなんて」

「このコースを作ったのは君か、良いコースだね、判断能力、反射神経、魔術の精度に機動性を確認するには素晴らしいコースだ」


しかし。


「錬金術による破損部位の修復は良いが、コレでは魔力のロスが大きい、再生するだけなら防御術式を剥いで余剰魔力を修復に回した方が良いよ」


私は懐にしまっていた報告メモにコースの修正可能点を記入し彼女に渡す。


「それじゃあ私はコレで――」


――ガシッ――


「待てッ、いや待って下さい!」

「今の術は魔弾ですか!」

「一体どうやってあの魔力量であの威力を!?」

「最後のあの攻撃は!?」

「な、何だね君達、私はコレからコレクションの解析を」

『逃さん!』

「グヌォォォ!?このパワーは!?」



こうして無事復職に成功した私は他の職員に拘束され半日を質問漬けにされたのだった。

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