蹂躙者と戦術家
どうも皆様泥陀羅没地です。
大分と遅れましたが2本目どうぞ、無茶苦茶に眠いですね…。
「『――只今を持ちまして!〝全学年予選試合〟を終了と致します!…そしてここからが本番、只今より、〝本選進出〟を決定した各学年〝16名〟による〝優勝者決定戦〟の開始を宣言します!』」
――オォォォッ!!!――
「『――それでは、〝優勝者決定戦〟…〝一年の部〟…その出場者を紹介して行きましょう!』」
凄まじくに響き渡る彼等の怒号にも似た絶叫…時刻は昼を過ぎての1時と少し…熱狂と陽の熱が春だと言うのに蒸し暑い中…私は口を硬く閉じ、〝溜息〟を心の内側で吐露する。
(…合計で〝13人〟居るね……)
ソレは、私が現在憂慮するこのイベントの〝ハプニング〟で最も〝最悪な可能性〟を引き当ててしまった事への〝溜息〟…。
〝13人の学生の死〟が決まったと言う事実…そして、〝字波君が13人の死に悼む〟と言う…知人友人として最も不愉快な出来事で有る〝友人の悲哀〟を見ると言う事だからで有る。
「……さて、どうするべきか…」
愚かな生徒に仮初の夢を見せるべきか…或いは、彼等の浅慮を暴いてやるべきか…。
「……〝アル〟――〝追加注文〟だ」
「『チッ…報酬は?』」
「上等な〝キャンディ〟を上げよう……だから〝キャンディ〟を見つけて来てくれ」
「『フンッ……了解した』」
――ギィッ――
アルへ遠隔でそう言い、トイレの個室から出る…そして、近付く舞台の声を耳に入れ…私は己の席へ戻るのだった。
●○●○●○
「『さぁ、漸く解説席の出番到来!…早速舞台に揃った2名の選手の紹介と洒落込みましょう!』」
「…ツイて無いな、まさか初戦から君に当たるとは」
「謙遜ですか?…〝月人〟君、少なくとも貴方は、〝あの人〟が注目する存在…ツイていないのは私の方かも知れないですよ?」
盛り上がる外野の声に包まれながら、相対する二人はそう軽口を言い合う。
片や、古めかしくも気品有る法衣に身を包んだ美女。
片や、灰色のローブを羽織り神秘的な雰囲気を醸し出す青年。
「『〝焔の才女〟、〝彼の高名な陰陽師の末裔〟!…〝偉大なる妖術師の家系〟、予選全てを〝一撃〟で終わらせた〝焔の蹂躙者〟!…〝土御門九音〟!』」
「『対するは彼!――〝搦手の鬼才〟、〝卓越した戦術家〟!…〝合理の尖鋭〟…〝十種百様のトリックスター〟!…〝菅野月人〟!』」
「『片や手札を隠し通した九音選手、片や九音選手に勝らぬまでも深い魔術の理解力と応用力、豊富な魔術の知識で相手を追い込む月人選手…コレは注目の一戦となりますね!』」
その自己紹介に、二人が気不味げに目を泳がせ…しかし、迫る戦いの時間に気を取り直して構える…。
「手加減は無しですよ…!」
「当然だろう」
そして、試合開始を実況席の者が告げた…その瞬間。
「『〝試合開始――ッ!?』」
「――〝召喚〟…〝九尾の狐焔〟!」
「ッ!――」
凄まじい熱炎が舞台を包み込んだ。
●○●○●○
「『な、何と!…試合開始から僅か数秒で九音選手、とんでもない魔術を展開した〜!…え、コレ大丈夫ですよね、月人選手死んでませんよね!?』」
「『問題有りません、この舞台には字波理事長の構築した〝変換術式〟が刻まれていますので、致命傷は全て舞台に内蔵された〝魔水晶〟が肩代わりしてくれます……尤も、その必要は無い様ですが』」
その言葉とほぼ同時に…私は己の〝頭上〟に感じた魔力にほぼ反射的に防御姿勢を取る。
「――ッ、惜しいな…!」
「まさか、上からとは…!」
「『何と言う事でしょう!…爆炎に覆われたかに見えた月人選手がまさかの空から来襲!…虹原先生、コレは!』」
「『飛行魔術…いや、しかし…』」
その私の防御姿勢の上から、月人君はその脚を振り抜き、私を吹き飛ばす…その強靭な脚撃が私の魔術で強化した腕へ確かな痛みとダメージを送り、私はその衝撃に吹き飛ばされる。
――ドゴッ――
「クゥッ……〝飛行魔術〟…ですか?」
――ザザッ――
体制を即座に立て直し、私は少し離れた先に居る月人君へそう言う…半ば時間稼ぎとも言えたその言葉に、月人君は知ってか知らずか首を横に振り、その言葉を否定する。
「生憎、僕の腕ではまだ〝飛行魔術〟を実用化出来ない…そもそもアレは〝複雑〟な上に魔力の消費も凄まじい…僕の魔力量ではまともに飛べやしないさ」
「…ならばどうやって――ッ!」
――バコンッ――
私の疑問が口に出るよりも早く…月人君は私の眼の前に迫り、その〝短剣〟を振るう。
――ヒュッ、ヒュッヒュッ!――
「君を前に距離を取るのは〝愚策〟だ…しかし、僕の〝身体強化〟では大した機動力は得られない…だから異なる手法を試してみた」
「〝衝撃波〟の反動ッ…!」
――ドドッ、ガッガッ!――
「その通りだ…〝衝撃波〟ならば人を吹き飛ばす事も容易に出来る、その上魔力消費も驚く程軽い…その分飛行魔術よりも機動制御は難しいが、何とか間に合った」
「『何と何と、月人選手手の内を明かしつつも苛烈な攻め!…以前の戦いには見られなかった力押しの姿勢に会場もざわめいています!』」
「『まさかの〝衝撃波〟!…理論的には可能では有りますが、衝撃波の指向性とソレを万全に扱えるバランス感覚を考えると通常の飛行魔術よりもその操作難易度は跳ね上がる…それをその年で実戦に組み込めるレベルにまで上げられるとは…素晴らしいですね』」
「そう、褒められると少し恥ずかしいな……さて、どうする〝土御門九音〟…僕は君とこの間合いを離すつもりはない…君の魔術の危険性は理解しているからな」
そう言いながら、月人君はその強化した肉体から鋭い一撃を繰り出す…確かに…私の苦手な近接戦を繰り出すのは間違っていない…だが。
「私を甘く見ないで欲しいですね…〝九尾の狐焔〟!」
私は再度、その名を紡ぎ…荒れ狂う炎を私諸共月人へ差し向ける。
「まだ、勝負は始まったばっかりでしょう!」
「ッ―クソッ…仕切り直しか」
しかしその焔さえも月人君は容易く躱し…また再び私と月人君は相対し、互いに互いを睨み合い互いにそう口にした…。




