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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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花の少女と氷の武人

どうも皆様こんにちは、泥陀羅没地で御座います。


本日の一本目…日付が変わる頃にもう一本上がるかもしれない…多分。

「『予選開始1グループ目から、期待を超える実力者が現れ、会場も熱を帯びて参りましたね!』」

「『えぇ、新入生とは思えない激闘、見事でした…さて、この熱が冷めぬ内に〝2グループ〟目に移りましょう!』」

「『2グループ目も期待ですね!』」

「―――俺の相手は貴さんか、流石名家の巌根家となると、奴さん等も気になるようじゃのう?」


解説、実況の声を聞きながら…〝巌根氷太郎〟は眼の前でそう言いクツクツと笑う青年を見る。


背丈は18歳にして凡そ190は有ろうかと言う偉丈夫、己の肉体に比べてより硬く重厚な筋肉の鎧に身を包んだその青年の言葉に氷太郎は軽く返す。


「ハッ、大方弟子の勧誘やら何やらで俺ん家に取り入ろうって腹だろうよ…んなこたぁどうでも良い…お前、名前は?」

「応、〝伊方武〟じゃ…いやぁしかし、幸先がええのぉ……まさか〝氷武者の巌根〟と言われる名家、武人の家の者と端から破り逢えるとは…良かぁ、ほんに良かぁ日じゃ」


――ズズズズッ――


伊方武はそう言いながら、地面に触れ…そしてその手に〝槍〟を作り出す。


「……〝製鉄魔術〟か?…」

「応よ…所詮鉄から物を造るだけじゃが…〝武器が無くならん〟ってのはええ事じゃ…〝ずぅっと戦える〟いうことじゃからのお…!」



○●○●○●


「ハッ……まさか〝落ち零れ〟のテメェが初戦の相手かよ?」

「ッ……」


少女へ向けて、その青年は軽んじる様に蔑の念を眼に込める…その言葉に、少女は沈黙で返し…平静に努めるよう心を落ち着かせる。


「もうちょい倒し甲斐の有る奴が相手なら、俺のアピールに使えたってのに…つくづく邪魔な奴だな、テメェは!」

「……」

「――まぁ良い、テメェを一瞬で始末すりゃ、ソレはソレでアピールに使えんだろ…また〝焼いてやるよ〟…今度はあの先公の邪魔も入らねぇ…!」


そして、一人盛り上がる青年の声が響き渡る中…試合開始の笛の音が響いた。


――ピィィィッ――


「〝燃え叫べ、汝は焔の嵐〟…〝その焼滅の叫哭を現世に示せ〟――〝炎嵐(ファイアー)〟――」


それと同時に、青年が祝詞を紡ぎ…その業熱を少女に向けて放とうとした…その刹那。


――ガクンッ――


「すとー…む……?」


青年は揺れる視界に疑問を抱いたその刹那、その意識を闇に落とし…〝眠る〟…。


「〝成長(レイズ)〟……〝眠香花(ブロッサム・ソメイユ)〟」


甘く優しい花の香と、青臭い草の匂いに、そして…〝割れる天井〟から差す暖かな日差しに包まれて。



●○●○●○


「――成る程……あの子らしい戦い方ね」

「……」

「…どうしたの孝宏、考え事?」

「ッ――!…嗚呼いや、少し気掛かりな事が有ってね…なに、大した事じゃないよ…む…椿君も勝利したか…重畳だね」


私は字波君にそう答えながら…此方を見て手を振る少女に応える…。


「…隠し事?」


その横で、私の事を強い視線で見つめる字波君の言葉に返しながら…。


「いや、私自身まだ確証を得ている訳じゃないからこそ、君に伝える訳には行かないのだよ…余計な憶測の伝達は却って混乱させるだけだ」

(少なくとも…字波君に伝えるのは〝後〟だ…)


発覚から間を置かずに世間に公表された…学園内でも注意喚起して、生徒達の認識も良好なハズだが…〝万が一〟…が有る。


「……そう、なら後で聞くわ」

「うむ、約束しよう」


そうして字波君からの詮索の手を躱しつつ…我々はスクリーンに映し出される映像に目を通す。



○●○●○●


――ギィィンッ――


「「ヌァラァッ!!!」」


――ギャリギャリギャリッ!!!――


「ッ!」

「チェリヤァ!!!」


――ドゴォンッ――


圧倒的な膂力から放たれる、鋼鉄の槍が地面を破砕する…その一連の攻防の後に深く息を吐き出して伊方武はその視線を砂塵の彼方に向ける。


「良ぉ分かった…貴さんと俺じゃと、俺の力のが強か…じゃが、貴さんの力は、〝鋼〟言うよりは〝銅〟じゃのう…柔く、伸びやすく、ちゃあんと〝金属〟…俺の鉄にゃ力で劣るとも、俺に無い〝柔らかさ〟が有る…」

「…案外インテリか?」


伊方の言葉に、氷太郎はそう軽く返し肯定する…その氷太郎の言葉に、伊方は笑って言葉を返す。


「ハッ、俺はそんなタマじゃないわい…学は無かども〝戦の知〟は有るって話よ…そいで貴さん…貴さんアレじゃろ…〝槍だけ〟じゃ無いじゃろ」


その言葉を皮切りに…今度はより深く、より濃い戦の空気が二人を包む。


「……まぁな」

「――このまま切り合おて意地の張り合いってのは戦の締めにゃ合わん…んで、一丁頼みたか――」


――パキンッ――


「――皆まで言うなよ〝武〟…〝こういうこったろ?〟」


武の言葉を遮り、その刹那…凄まじい冷気と共に氷太郎はその背に〝後輪〟を纏う…。


「応とも!…有り難い…!」

「〝コレ〟は決勝戦まで取っときたかったんだがなぁ…しゃあねぇ…〝友〟の頼みだからなぁ!」

「カカカッ!――うむ、うむ!…一度切り合えば〝戦友〟…ほんに分かりやすい理よ…!」


――ズオォォォッ――


そしてそれに共鳴する様に、伊方はその手に巨大な〝野太刀〟を創り…構える。


「『〝氷武羽衣(ひょうぶのはごろも)〟――〝双白ノ凍刃〟!』」

「『〝鍛造具現〟――〝銘刻〟――〝到未(とうまつ)〟…未熟の腕が造ったモンじゃが、すまんのぉ…!』」


そして、結界全域を魔力の反発が軋ませる音を聞き流し…二人は駆ける。


時間にして1秒と少しの静寂…彼等二人の視界には緩慢な時と、その時の流れに逆らう〝好敵手〟が、剣を振るう姿――。


――ジャリッ――


「「ッ――!」」


――ドオォォンッ――


そして…〝結界〟が破れ…その中に満ちた砂塵が世界に解き放たれる…。


「……」

「……カッ…カッカッ、俺の〝負け〟じゃあ……」


そして、砂塵が晴れたその舞台上には…血を吹き出して沈む〝伊方武〟と…白い刀身に紅色の氷膜を纏った氷太郎が立っていた。


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