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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
32/317

予選試合と剣の少女

――ゴゴゴゴゴゴッ――


「いよ〜っし!…負けないよ〜!」

「クソッ、特別生相手とか付いてねぇ…!」


魔力がぶつかり合う…その広大なフィールドを更に結界が隔てて行く…其の場に生まれた1対1の10組…その魔力は打つかり合い勢いを増しながら猛り、一つの〝塊〟と成り会場に灯る。


「ふわぁあ……お、丁度予選開始…それも結美君が居るね、良いタイミングだ♪」


そして実況席が其々の生徒達の名前を紹介している中…丁度結美君が紹介されたタイミングで目が覚める。


「へぇ…私を前にして居眠りしてた何て良い度胸ね?」


……と、その隣から軽い怒気を孕んだ声と共に右の足に鈍い痛みが走る。


「ダイジョーブだって、ちゃんと君の声や周囲の反応は記録してるとも…それに目は開いてたろう?」

「そう言う問題じゃないわよッ」


――グリグリッ――


字波君に弁明するも、何故か彼女は青筋を浮かべながら私の足をヒールで踏み抜く…結構痛いねコレ。


――トッ――


「また痴話喧嘩か貴様等」

「ハッハッハッ、私と字波君は仲良しだからね…で?…私の〝飼い猫〟は一体何処で何をしていたのかな?」

「貴様に教える気は無い」

「ソレは残念…それはさておき…そろそろ始まるよ」

「『それでは、試合始め!』」


――ピーッ!――


言葉と共に開始を告げる笛の音が空間を奔る…そして。


――ドゴォォンッ――


炎が水が土が風が、色とりどりの魔術が打つかり合い、闘争の音を響かせた。



○●○●○●


「〝土塊の蹂躙、飽和の破壊よ此処に顕れよ〟!……〝無尽土弾(ロック・ガトリング)〟!」


――ドドドドッ――


「ッ!…何それ、凄ッ!?」


試合開始の合図と同時に空を切る音にその場を飛び退く…しかし。


――ギギギギギギギギンッ――


飛び退いた先にも迫る大量の土塊が私の視界を満たす。


「クッ……こんなの、直ぐ魔力が尽きて――ッ」



〜〜〜〜〜〜〜


「おぉ〜成る程、良い戦略だね〝砂川洋太〟君」


私は現在苦戦を強いられている結美君の対戦相手の青年を見ながら、彼を称賛する…何故なら彼の術式には―。


「〝魔術の自動化〟…貴方の入れ知恵かしら?」


字波君が言う通り〝自動化〟が組み込まれているのだから…しかし残念、コレは私の考案では無い。


「いや?…コレは彼の考案した自動化術式だね…うん、私のと違い単純な術式だが、良いね…〝土弾〟の構築、〝標的固定〟と〝魔力出力〟の調整…多分構想自体は前から有ったんだろうねぇ…ただ肝心の構築技術が未熟だった…うん、成る程…だから〝自動化した術式〟を見たかったのか」


私の自動化術式の転写物を良く分析したらしい…研究者冥利に尽きるね。


「貴様のアレか?…あんな物、常人に扱える物か」

「だから〝改良〟したんだよ…自らが扱えるラインまで、私の術式から不要な機能を排除し、今己の技術で実現可能な最低限を詰めてね」


自らの実力を過信しない、冷静な判断だ…結美君はさぞ苦しいだろうねぇ。



●○●○●○


「クゥッ…凄いね、ソレ!」

「ありがとよ!…だが待ったは受け付けねぇぜ、勝負だからな!」

「勿論だよ!」


――ババババババッ――


剣で土塊を破壊して行く……他の場所は続々と勝敗を決していく中…私達は拮抗した試合を続けて行く。


「うん……うん…うん……オーケー、〝この感覚〟だね…!」


けれど、そろそろ潮時だね…もう〝リズム〟は覚えた。


「ッ…来るか…!」

「〝身体強化〟!」


そして、私は迫る土塊を切り上げ…その切り上げた姿勢から身体を深く沈め…脚に力を込める…。


――タッ――


そして、大地を蹴り…剣を振るう。


――ジィッジジジジジッ!!!――


向かう私と迫る土塊…互いに距離を詰める事で、その衝突はさっきよりも早くなる、けど…。


「〝見えてる〟!」


全部、全部見えてる…認識し、斬り伏せる事が出来る…そうして彼我の距離を妨害を斬り伏せて進み。


「ッ――クソッ、やっぱ駄目かよ…!」

「いいや、君は凄く強かったよ!」

「ハッ、ソイツァどうも…!」


――バシュッ――


彼へ剣を振り下ろし……そして、私は〝勝った〟――。


――パキンッ――


その瞬間……周囲の結界は全て割れ、各々の勝者と目が合った瞬間。


――ウオォォォォォッ!!!!!――


割れんばかりの拍手と、観客席からの熱い叫び声が耳に届いた…。




○●○●○●


「ッ……何だよ、アレ…!」


割れんばかりの周囲の空気とは裏腹に…入口の隙間の陰で…その青年は名前を呼ばれ照れている少女を強い視線で見つめる。


「どんな術使えばあんな弾幕押し通れるんだ…!?」


ソレは驚愕で有り、疑問で有り…〝嫉妬〟だった…。


「ずるい、狡いなぁ畜生…!」


青年はその少女へ強い羨望を送る…。


――ドクンッ――

――ビキッ…――


その肉体から微かな黒い毒気を掃き出しながら…。


「クソッ、僕だってやれる筈だ…僕は、強く成ったんだから…!」


少年はそう言い、己の鞄へ目を向ける…その瞳は暗く、淀んだ感情が張り付き、渦巻いていた…。



●○●○●○


「シッショー!!!――私勝ったよ!」

「おめでとう結美君…だが気を抜くんじゃ無い、まだ予選の一回目だ…これからドンドン数は減り、より手強くなってくるんだから…一度の勝負で浮かれ過ぎない様に」

「うん、分かった!」


退出早々に私にそう言いはにかむ結美君を落ち着かせながら…私は周囲を見渡す。


(今……一瞬)

「…〝アル〟、何か匂わなかったか?」

「ん?……いいや?…何も匂わなかったが…何故だ?」

「……結美君、次の試合に備えておくと良い…私は椿君の試合を観に行こう」

「はーい!…あ、後で椿ちゃんの試合の録画見せてね!」

「この大会が終わった後でだよ」


私はそう言い、結美君と分かれ自身の席へ向かう…。


「〝アル〟…私は君の嗅覚を信頼しているし、気配の感知にも自信が有る…だからこそ、君が何の気配も匂いも感じないならばと気の所為の可能性も考えた…しかし、もしかすればの可能性も有る……〝今〟一瞬…この辺りで〝瘴気〟の気配を察知した…ほんの一瞬、私が気の所為かと思う程の一瞬だ…もしかすれば本当に気の所為かも知れないが…周囲の〝索敵〟を頼む」

「…承知した」


そして、アルへ一つ命令し…試合開始と大きく宣言する実況解説の声に脚を早めた。

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