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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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学生達の晴れ舞台

――ガヤガヤガヤッ――


まだ日も真上を行かぬ朝昼時…普段ならば学生等で賑わう学園は、また違った雰囲気を纏っていた…。


――ピリッ――


道行く〝魔術師〟達を縫って進む〝学生〟達…その表情は高揚と緊張に包まれ、今日という日を待ち望んだと言う風な気迫を感じさせる。


今日は彼等魔術師の〝卵〟達の晴れ舞台…一年間の成果を試す…或いは己と言う新参者の力を世界に見せ占める事が出来る特別な〝日〟…。


〝八葉上魔術師養成学園〟…〝学年別競技大会〟の日…なので有る。


――カッ――

――カッ――


「おい見ろよ…あの装束…〝土御門〟の…」

「あっちは〝巌根〟の…凄いな…どんな魔力してんだよ…」


そんな特別な大会に様々な思惑を以て来参する魔術師達だったが、ふと学園へ近付くその魔力を感じ取り、ゾロゾロと道を開ける。


其処には…〝二人〟の新入生が居た。


片や、白を基調にした彼女の〝火の力〟を象徴する様な紅色を施した〝装束〟に身を包んだ少女。


片や、その少女とは対局の…黒を基調にした布と、必要最低限の部位に装甲を施した鎧衣を身に纏う少年。


日本に存在する四の〝魔術師の家系〟…〝土御門〟家の長女〝土御門九音〟と〝巌根〟家の三男、〝巌根氷太郎〟…その二人が其々の家を象徴する家紋を衣に刻み、学園へ向かう。


「今年の一年は凄いな…名家の内二家が、同時期にこの学園に来るなんて…」

「コレは見応えが有りそうだな!」


その後暫く…二人の話題で学園内はざわめいたのだった。


〜〜〜〜〜〜



「〜〜〜♪」

「あら?…今日は随分とご機嫌ね孝宏」


ご機嫌な鼻歌と共に宝物庫に放り込んでいた茶菓子を取り出し紅茶と共に頂く…すると、そんな私を見て居た隣の美女、〝字波〟は私へそう言いその大きな切れ長な目を私に向ける。


「〜〜♪…そうかな?…うむ、きっとそうだ、ご機嫌かと問われれば肯定するとも…この一ヶ月と少し、使える手は全て使い、時間の全てを有効に利用して磨き上げた私の〝弟子〟達の活躍が見れるのだからね!」


そう、私は今年甲斐無く興奮している…この一ヶ月で彼女達は驚く程伸びた…並大抵の魔術師は歯牙にも掛けないだろうと、確信を持って言える程に。


「あの子達ね…言っておくけれど、学生と教員の恋愛は駄目よ?」

「ハッハッハッ!…冗談はよし給え、五百何十歳の私が二十も生きていない少女に欲情する事等有りえんよ…はて…そういえば性欲が枯れたのは何時頃だったか…?」


彼女のジョークにジョークで返し…準備万端、緊張と自信に満ちた〝彼女達〟を階上から見下ろす。


『ッ―――♪』

『――、―――…!』

「…フフフッ♪…冗談よジョーダン………それよりも、あの子達は大丈夫かしら?…今年の一年は魔境よ?…特に、貴方の所の二人は伊達に名家の出じゃないわ」


階下で姦しくじゃれ合う二人を字波君は微笑ましげに見つめ…そして、そう言い私に問う。


「……なぁに、才能は努力の活性剤だ、彼等は優秀だが、家の弟子達も負けてない…まぁ椿君は闘争に不向きな性格だけどね」


彼女達ならば例え〝天才〟と万人が宣う存在とだって渡り合える筈だ。


――ピピピピッ、ピピピピッ――


「…さぁ、我々もそろそろ会場に向かうとしようか…理事長殿が遅刻等すれば生徒の模範たれと言う言葉も説得力に欠ける」

「えぇそうね」


そうこうしている間に時刻は迫り、我々は茶菓子をそれぞれつまみつつ、部屋を後にするのだった……。




●○●○●○


「『さぁ、今年もやって来ましたこの季節!…我等八葉上魔術師養成学園の一大イベント〝学年別競技大会〟!…解説は三年生学年主任の〝虹原歩〟と!』」

「『ゲストの魔術師局〝金剛級〟冒険者!…〝阿道峰子〟が解説します!』」

「『さぁ!…実況席の紹介は此処までに、早速開会式を始めましょう!…それでは〝理事長〟、ゴホン!…〝字波美幸〟理事長のお言葉です!』」


其処は学園のグラウンド…否、今は広大なリングと、観客達の客席が並び立つ巨大な〝舞台〟の上…そのリングの上に一人の〝人物〟が映し出される…。


「『――御紹介預かりました、理事長の〝字波〟よ…、さて…長々と無駄話するのは無しにして、早速開会式に移らせてもらうわ』」


そして始まる理事長の説明…ソレに頷くのは、目敏くも有望な魔術師達を囲い込まんとこの場に集った名だたる魔術師達…彼等以外の全てもスクリーンに映し出される、字波美幸の美貌に目を奪われてしまう…。


「Zzz……Zzz……」

「キュィィッ!」


……一人を除いて。


「……いやぁ、相変わらず凄い美人だよなぁあの人……本気で不老不死なのかねぇ?」


また、周囲の意識が逸れたその会場の中で…二人組の男はそのローブを目部下に被りながら、スクリーンの美女を見てそう笑う。


「さぁな…取り敢えず、俺等は〝静観〟だ…〝中継〟は〝顧客〟も見てんだろ?」


ソレに対してもう片方の男は淡白に返しながら、その視界に〝三人〟を映す。


「勿論でぃ…一応〝個体情報〟も序でに送ってるぜ?」


そんな相方に苦笑を零しながら、男は片手に持っていたジュースと膝に抱えたポップコーンに手を伸ばす。


「オーケー……それじゃあ俺達は〝普通〟に過ごすとしようか…」

「んだな……お前も食う?…キャラメルポップコーン」

「要らん、甘いのは苦手だ」


誰一人と彼等の会話を聞く者は居らず…不穏な気配は刹那湧き上がる会場の熱に掻き消されて消失した……。



――ドクンッ…――


「ッ……」


――ドクンッ――


緊張、興奮…が伝う、心臓の鼓動が〝大きい〟…。


――ドクンッ…ドクンッ…――


この全能感が心地良い…今なら、俺は〝彼奴等〟にだって勝てる。


――ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…――


僕達を虚仮にした彼奴も、僕達を馬鹿にした彼奴等も、僕達を嘲ったあの教師も…今日、見返してやる…。


「『開会式は以上よ』」

「『――字波理事長、有り難う御座いました!……それでは、十分後に〝1年生予選〟を開始致します、1年生は移動を開始して下さい!…』」


――ブワッ…――


そうして1年の生徒達は指示に席を立ち、舞台入口へ歩を進める…その中で…一瞬…黒い魔力が登った様な気がしたが…次の瞬間にはそんな気配は消えていた……まるで、夢幻の様に。

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