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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第九章:かつて神で在った者達
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一度の停戦

――ゾクッ――


〝身の毛のよだつ〟…とは、正にこの事だろう…外道な戯れに踊らされ、今正に死に伏せんとしていた己等を包む…〝純粋な殺意〟の、その〝伽藍堂〟に…己等は、其処に居た〝屍〟は、空を見上げる。


「ッ――本気かッ!?」


空の上には、彗星のように輝きを放ちながら迫る〝破壊〟が確固たる意志でこの場所へ迫っていた…そんな〝幕引き〟に、ソレは初めて焦ったような、驚いた様な声を上げ、その身体を〝膨張〟させる…そして。


――ズドォォンッ――


一切の猶予無く、戯れ無く…空に弧を描きながら大地に落ちた〝ソレ〟は…その、膨張する屍肉の…その一切の抵抗を無意味と嘲るように、莫大な魔力と、衝撃で辺りを包んだ。


――ゴオォォォッ!!!――


「グゥッ…無事か爺殿ッ!」

「――他人を気にしとる場合か小僧ッ、自分の事を考えろ!」


風圧に目が霞む、そんな中で二人はそれでも戦士の心構えを失わず、〝敵〟を見た…そして。


「「ッ!?」」


〝敵〟に纏わりついた〝ソレ〟を…見た。


――ゾッ――


ソレは魔力の中に〝潜んでいた〟…いや、魔力が幻覚として、彼等の目に〝映し出した〟ソレは…歴戦の彼等にさえ、根源的な恐怖を抱かせる様な姿で、その場に顕れた。


八の脚は人の腕、その顔には六つの目が生え…巨躯に取って付けたような羽が生え…その腹部には大きく裂けた口が生え、その身体は無数の生命の性質を撹拌し、生命の冒涜とさえ形容してしまえる悍ましさを帯びていた。


「「……」」


そんな化物の幻影は、確かに一瞬〝此方〟を見た…値踏む様に、品定めをする様に空洞の視線を此方へ向けて…しかしその後は、まるで興味を失ったかの様にその姿を掻き消し、魔力の収束は発散される……残ったのは――。


――キュィィンッ――


「ガハッ…チッ、〝ゼウス〟め…ッ、足切りの早い奴だ…」


身体に大穴を開け、その穴から不快な匂いの放つ死の泥を零してそう忌々しげに呟く…瀕死の〝化物〟の姿が有った…。


「形成逆転ッ!」

「仕留めるなら、今じゃなッ!」


その姿を見た途端、二人は弾かれた弾丸の如く駆け…その刃を振り上げる…しかし。


――シャンッ――


「「「ッ!?」」」


化物を中心に現れたその〝護符〟を見た瞬間…その動きは止まる。


「――ストップよ二人とも…忌々しいけど、其奴は〝殺さない〟」


そうして現れた、妖美を纏う肌の白い麗女の登場に、場は一瞬にして戦闘の空気を霧散させる。


「――ヒュウッ、お優しい事で慈悲に涙が出そうだ」


そんな中、彼女の言葉にそう口を開いた男が言葉を紡いだ、その瞬間。


――バチィンッ――


男の身体を〝雷〟が襲い…男の身体を灼く。


「グオォッ!?……成る程、〝情報収集の為の虜囚〟か」


痛みに驚いた彼はそう言い、焼け爛れた己の身体を見てそう呟くと、彼女は軽蔑を込めた視線で男を見る。


「えぇそうよ、察しが良いのね〝妖魔〟…序でに言っておくと〝魔力封印〟と〝看破の術式〟も掛けてあるから、妙な真似や今みたいな嘘は吐け無いわよ」


彼女がそう言うと、男はその言葉に鼻で笑いながら、嫌な気分にさせられる褪せた視線で彼女へ言う。


「――〝心外〟だねぇ…コレでも全部〝本音〟何だがな妖狐の女…魔力封印の方は良い判断だが、〝看破〟の方は無駄だとは言っておくぞ?」

「ッ……どいつもこいつも、〝不愉快〟に人の秘密を暴くわね」


全身を奔る電撃を、まるで羽虫の煩いの様に男は扱き下ろしながら、彼女の怒りに薄ら笑みを浮かべ、立ち上がる。


「ソレはお互い様だろ〝半端者〟……だがまぁ、そんな事はどうでも良い」


そしてその視線を、いつの間にやら集まり、得物を構えている〝集団〟へ彷徨わせ…男は紡ぐ。


「〝降参〟だ…条約に則った捕虜の扱いを希望するよ…〝人間諸君〟」


その視線は…彼らの中の一人…鉄面皮な壮年の男性を、その視線の先に居る〝男〟へと向けられていた。


『……』



●○●○⚫○



――ズゥンッ――


巨大な〝大剣〟が…横一閃を斬り裂いた…しかし、その大剣が断ち切るべき対象は何処にも無く、先程まで立っていた〝存在〟の痕跡は、その足跡を除いて他には居なかった。


「――………」

「あら…残念ねアレス…後もう少し早ければ1人位は殺せてたかもね?」

「――黙れアフロディーテ…お前の声は不愉快だ」

「あら、まさか私の所為だとでも言うつもり?…私はただ見物に来ただけよ、貴方が取り逃した責任を私に押し付けないで」

「――失せろ、お前に興味は無い…さっさと自分の巣に籠もって傀儡と戯れていろ」


荒れた大地の上で、大柄な戦士の神はそうぶっきらぼうに言い…不快を隠す事も無く、苛立ちを足音に変えてその場を歩き去る…そんな男の様相に、女は意地の悪い笑い声を響かせて呟く。


「フフフッ…まぁ、蛮神の滑稽な姿を見物に出来た事だし、散歩の成果は有ったわね…ソレに…」


戦神の背から視線を移ろわせた彼女の視線が…ついさっきまで人間の居たその〝大地〟を…其処に立っていた〝彼女〟の姿を思い浮かべ…妖しく、美しく、邪気に染める。


「――〝面白い玩具〟も見つかったわ♪」



○●○●○●


「――さて、結果は〝上々〟…〝収穫〟は大量だ」


空に投影されたのは、私があの時…大地の神から与えられた〝智慧〟の一端…ほんの一部だけとは言え、その量は膨大で、目的の為に情報の範囲を狭めた事を、今更ながらに悔やむ程だ…実に口惜しい経験だった。


「――〝特に〟…〝相手の目的〟を明かせたのは大きな一歩と言えよう」


私はそう言い…彼女の知識から引っ張り上げた〝ソレ〟に目を向ける…其処には――。


〝渦を巻く魂達〟と…その中心で〝魂〟を貪る〝白い球体〟の姿が在った。


「――〝開闢(かいびゃく)(うす)〟…仰々しい〝名前〟にして、その名に不足ない…正に魔術を超越した〝魔法〟だ」


……感嘆と共に、その映像に魅入っていたその時…私は、私室に鳴り響く〝来客の音〟を聞き…そして、扉越しに感じる〝気配〟を察知し、声を掛ける。


「――居るよ、入り給え〝字波〟君」


私の一声に…数秒、沈黙が満ちる…そして、それから扉を開く音が聞こえ…私は彼女の方へ視線を向ける…其処には。


「……」


正に予想し、分かりきっていた彼女の姿が…其処に有った。

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