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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第九章:かつて神で在った者達
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神の悪意

――ピキピキッ――


大地から芽が伸びる…ソレは瞬く間に成長し、その枝葉は不自然な動きで湾曲し、変形し…見る間に、豪奢な玉座に変わる。


「――何故お前が此処に居る?」


その玉座に、まるで見せ付けるかの様な所作で腰を下ろす、絶世の美を誇るソレへ、アレスは眉を顰めて問う。


「そうね…ちょっとした〝女の勘…、かしら?…此方に行けば、何か面白い物が見れるかも…って思ってね♪…そしたら案の定――」


彼女は問いにそう答え…そして、その魅力的な笑みに〝魔性〟を宿し、その瞳には加虐を宿して、全身に傷を負った〝アレス〟を見ていた。


「――〝傷だらけのアレス(面白い物)〟が居た♪…随分押されているようね?…ディオメデスに負けた時…いえ、ヘラクレスと戦った時以来かしら?…貴方の無様で、泥臭く、汚い…その〝姿〟」


その言葉にアレスは、先程発していた好戦的な顔から、一息に軽蔑の眼差しをその美女へ向け…吐き捨てる。


「フンッ…〝磨き上げる物が無い〟貴様には、我が〝美の真髄〟等理解出来まい…疾く失せろ、俺は今、お前の相手をする暇など無い」

「〝完璧だから神〟なのよ、磨き上げる必要も、努力する必要も無い…生まれながらに完全でなければ〝神〟では無いでしょう?」


そう吐き捨てたアレスの言葉に、彼女はそう言い…自らの美貌を誇る…しかしその言葉にアレスの顔は冷ややかさを帯び。


「下らん…〝神の完全性〟等に興味は無い」


煩わしい蝿を払う様に…そう言い放つと、アフロディーテから視線を外す…。


「へぇ?……ソレは〝父の否定〟かしら?」


そんなアレスへアフロディーテはそう、微かな苛立ちを滲ませて問う…そんな視線をアレスは無視し…彼等へ向き直る…そして、再び彼等との戦いを始めようとした…その瞬間。


『――〝調査チーム〟の〝全機帰還〟を確認しました、〝緊急転移システム〟を起動します』


そんな〝機械音声〟が響き渡ると共に…凄まじい魔力が、彼等〝人間〟を包み込んだ。



●○●○●○


「――ハッハッハッ…その傷で良く動くッ♪」


愉しげに嗤いながら…男はそう言い、自らに振るわれる刃と、その持ち主を見て眼を歪める。


――ズザッ!――


「グヌゥッ!」


其処には、腹から鮮血を流しながら…痛みに脂汗を流しながら、依然としてその殺意を男へ向ける〝老人〟が居た。


「懐かしいなぁ、昔にも似た事をしたなぁ…あの時とは状況も顔触れも違うが…フフフッ、〝同じ気分〟だ……頗る〝愉しい〟なぁ♪」


その男の剣撃を捌きながら…ソレはその視線を、此方へ〝駆け寄る片割れの敵〟へ向ける。


「――だが、此処でもやはり〝お前達(人間)〟は〝(化物)〟に弄ばれてしまう…残念だ」


そんな言葉とは裏腹に、心底愉しげな男が…その片腕を〝適当〟な場所へ向ける…その瞬間、その腕は人の形を失くし、膨張する肉と骨の〝塊〟へ変わり…引き絞られた矢の様に勢い良く…その塊を飛ばす。



「――お前達は〝護る者〟だ、そうだろう?…敵を撃滅するよりも、何よりも…〝人命救助〟を優先しなければならない…違うか?」


斬撃をヒラリ、ヒラリと躱しながら…その男は軽薄な口を回しながら、その青白い死人の頬を…不気味な程吊り上げて告げる。


「実際、さっきの動きもそうだ…あの時、〝俺の動向〟に意識を向けていれば…今頃俺は死んでいただろう…なのに、そうしなかったのは、お前達にとっては、〝俺の討伐以上の優先する目的〟が其処に有ったからだ…そう、つまりは――」

「ッ!?」


そう言う男の言葉と、その攻撃が向かう先を見た…その男の顔に驚きと怒りが満ちる…其処には無数の〝ヒトガタの骸〟の側で座り込んだ、1人の童女が怯えたような様子で迫りくる〝死〟を捉えていた。


「――〝無力な一般人〟を護る事♪」

「糞が――!」


目の前の〝元凶〟か、1人の少女か…秤に乗せられたソレを見た、もう1人の〝剣鬼〟はその顔に強い怒りを乗せ、吐き捨てる様にそう憤懣を男へ言いながら、その足を少女へ向ける…そして。


「〝ソレ〟さえ分かってしまえば、お前達はもう駄目だ…お前達は必ず〝市民〟を護る――」


――ガキィィンッ――


その、肉塊の津波は…甲冑を纏った剣鬼の身体によって防がれ、その瞬間…彼の拳の一振りで破裂する…そして彼が、下劣な悪漢を、睨み殺さんばかりの眼力で、捉えたその時。


「――〝偽物の市民〟だとしても…な?」


その視線に返される、心底から人を嘲る悪鬼の笑みに、疑問を抱いた…その瞬間。


――ボコッ!――


「お、オオオ…オ、兄チャン、アァァァリガトオオオオオ!!!」


少女の身体は一瞬にして、悪意と愉悦に孕んだ笑みを浮かべて膨張し…その瞬間、無数の肉塊の槍が周囲へ無差別に突き出し…彼等を襲う。


「――グゥッ、貴様ァ…!!!」


鎧を貫通し…しかし、その鎧のお陰で辛うじて致命傷には成らなかった彼は…滴り落ちる血の不快感を忘れて、目の前の男を睨む…。


――ヌチュッ…コポゴポゴポッ――


「嗚呼そうだぜ〝勇者(ヒーロー)〟…俺はお前達の敵だぜ、外道で下劣でヒトデナシな悪役だ…卑怯な手を使って何が悪いんだ?」


その男はそう言い、自らをも貫いたその槍を、意にも返さず放置し…代わりに傷ついた二人を見て、その顔を〝狂笑〟に歪める。


「さぁカッコよくて善良で、反吐が出るほど眩しい〝勇者様〟…レクチャーは終わりだぜ?》…いざいざ愉しい〝役者演技(ロールプレイ)〟と洒落込もうか!?」


その瞬間…大地の血溜まりから無数の触手触腕が現れ、集まり…〝蕾〟を作る…そして、ソレが花開いた其処には―――。


「何処ッ、此処は何処なのよ!?」

「ヒィィッ、なんだぁ、何が起きて!」

「お母さ〜ん!!!、お兄ちゃ〜ん!!!」

「あ、足がァッ!?…誰か助けてェェッ!!!」


何十人もの〝人型〟が…身なりも何もを人の姿そのままに、悲鳴と恐怖を奏でながら現れる。


「サァ、勇者らしく〝人命救助〟と行こうじゃ無いかッ…どれが本物か、偽物か?…或いは全員偽物なのかもしれないが…お前達に〝人〟を見捨てる選択が取れるかな〝勇者サマ〟」


その状況に顔を顰める二人の事を…その外道は嬉々と笑みを浮かべ、そう嗤った。

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