もしかしなくても私の所為?
――ガヤガヤ――
「おやぁ?…何か妙だねぇ?」
久し振りの陽の光の中で、私は疑問を口にする……道行く人々の中に交じる、常人よりも大きな反応に。
「魔力反応が複数?――ッ!」
その瞬間、私は目を疑った。
「すみませ〜ん!上失礼しま〜す!」
「……はぁ?」
一人の少女が空中を掛けながら高速で移動していたのだから、いやそれだけじゃない
「何故周りの彼等は驚かないのだね?」
周囲の人間が纏う雰囲気が、まるで当然とでも言うような素っ気ない物だったのだから。
「そう言えば今日が試験だったな」
「今年はどんな有望な魔術師見習いが入るんだろうな?」
「巌根家の三男坊も今年だろ?」
「土御門の長女もだな」
「今年は豊作だな」
「そう言えば聞いたか、今朝のニュース」
「あぁ、“正体不明の危険度S“って奴だろ?」
「また“悪魔の3日間“みたいなのが起きるのか…?」
「大丈夫だろ、今じゃ優秀な魔術師達が居るんだ、五百年前は魔術の存在が秘匿されてたって話だろ?」
「……」
ナ・ン・ダ・ッ・テ?
(魔術師?見習い?…彼等は何を非現実的な…じゃなーい!?非現実的存在の私が言っても説得力のが粉微塵になってブラックホールに撒かれるレベルで存在しない!)
いやそれよりも魔術が秘匿?……五百年前?…“悪魔の3日間“って……いやいや。
(まさかまさか、あの時のアスタロト君の大暴れ?……それを境に魔術が大々的に知られる様になったの?)
……それってつまりは。
「もしかしなくても私の所為?(ボソッ)」
「んぁ?何か言ったか兄ちゃん?」
「ッいやいや、何でもないよ…多分気の所為だきっとそうだ」
「そうか?…何か困り事でもあったのか?」
「いやいや御心配なく」
私は親切な道の男性に会釈をしてタクシーに乗り込む。
「何処まで?」
「“八葉上大学“までお願いしたい」
「八葉上大学?……あぁ、“八葉上魔術師養成学園“ですかい?」
「……はい?」
八葉上魔術師養成学園?…八葉上魔術師養成学園!?
「って事は兄さんも魔術師の卵って訳だ?」
「あ、え、そ、そう…ですね?」
「いやぁ凄いね〜俺も魔術ってのを使ってみたいねぇ」
困惑と混乱に揺られ、私は車で変わり果てた元職場へ向かって言った。
●○●○●○
「“学園長“……どうですか今年の入門生達は?」
「……そうねぇ」
何処か怪しげな雰囲気の一室で、眼鏡の美女は紅い瞳を窓の外に向ける……すると、少し口角を上げて、教員へ応える。
「中々良いわね、私の視線に気付いたのが8人、それ以外にも中々の才能よ、粒揃いね」
「そうですか…所で学園長、前々から思っていたのですが」
「何かしら?」
「何故“あの部屋“をずっと放置しているですか?」
――ピキッ――
その言葉に美女は固まる、そして、美女から放たれる哀しげな雰囲気に、教員は顔を気まずさで覆う。
「失言でした」
「……良いのよ」
(居ないって分かってる、でも……彼だけがまだ見つかっていないの)
あの大厄災が起こる2日前に海外へ飛んでいった、彼女の同僚。
(五百年も、経った……もう死んでるかもしれないけれど)
もし生きていたなら、あの日の私を知る唯一の人間だから。
(……ん?)
目を伏せていた美女は窓の外を眺めて、違和感を覚える。
(あの姿……)
それは一人の男の姿……学生という風でも無く、まるで目新しい変化に興味を示すように周りをキョロキョロと見渡しながら学園へ歩んでゆく男。
(それにあの顔……―ッ!)
「ッ間違いない!」
「どうしました!?」
突然の美女のその声に教員が驚き問い返す。
(彼だッ)
美女は窓を開けると一羽の蝙蝠を飛ばす。
その先には……警備員に押し留められた男が居た。
○●○●○●
「関係者以外立ち入り禁止ですので」
「お引き取り下さい」
「……」
(マジか〜、確かに五百年も経ってたら部外者か……いやでも!)
「いやしかしだね、私もこの学園に用が有って足を運んだわけなのだよ」
「それではアチラへ、生徒と教員を除く訪問者は皆アチラで受付をしての入門となりますので」
「いやいやいや、そうも行かないのだよ」
(私の集めたコレクションの安否をだね!――む?)
――キィキィッ――
「何だね、この蝙蝠は?」
蝙蝠は夜行性では無かったかね?……何故こんな昼間から元気良く私の肩に……って。
「お、おい……この蝙蝠は」
「あぁ……学園長の使い魔だ」
「ん?君達この蝙蝠について知ってるのかい?」
「ッい、いえ!…失礼しました、どうぞお通り下さい?」
「……?」
な、何だこの急な態度の変化は……この蝙蝠の仕業か?まさか催眠術の類いか?…むぅ、その気配は感じないな。
「取敢えずを通って良いんだね?」
「「はい!」」
それなら通らせて貰おう、そして。
「いざ私のコレクションへ!」
「まさか学園長が許可するとは……」
「何者なんだ、あの男?」
さて、漸く館内に入った私は迷うこと無く道を歩む、其処から香る謎の匂いに脚を軽くして。
「オープン・セサミ!」
そして勢い良く私の部屋もとい研究室の扉を開け放つと其処には。
「久し振りね、不身孝宏教授」
「ん?やぁやぁ字波美幸君、五百年も経ったと言うのにその美貌は変わら……ない……ね?」
私の研究室の真ん中で椅子に座り紅茶を淹れる、私の同僚が居た。
「…字波君!?」
馬鹿な、今が私の居た時代の五百年後と言うのなら彼女含めたその時代の人間は疾うの昔にお墓にゴーホームしてる筈、なのに何故彼女は此処にいる!?
「……」
「久し振りの再会だし、お話しましょう?」
あ、この目はアレだな…絶対に逃さない捕食者の目だ、アフリカで遺跡探査の時にライオンに3時間近く追いかけられた時に良く見たし、私が彼女に説教されていた時に良くこんな笑みを浮かべていたね……こんな時に私に許された唯一の答えは。
「…紅茶は砂糖マシマシで頼むよ」
こうして話の席に加わる事だけで有る。