神代を渡る鋼の生命
其処には、荘厳な〝空〟が在った…。
其処には、偉大な〝大地〟が在った…。
かつて在りし日の〝世界〟…まだ人と神が同じ場所に存在していたその世界が…現実に在った…。
〝人の世〟を蝕むという形で。
――パキッ…――
そんな神々の大地に、〝歪〟が生まれる……その〝歪〟は、空を歪ませ…捻れた黒い空洞をほんの僅かの間だけ…その世界に固定する…そして。
――バッ――
黒い空洞の捻れから、〝何かの影〟が飛び出し…彼等は遥か上空から大地に向けて落下を始める……。
「「「……」」」
ソレは〝人〟だった…遥か上空に現れ出た彼等は、そのまま空を滑り落ち…急速に〝落下〟と言う死が彼等へ迫る…そんな状況に在りながら…彼等は言葉の一つも発する事無く…空を突き破るが如く…大地へ加速する。
翼を持たぬ者の末路は見るに堪えない…大地に堕ちる熟れた樹の実が如く、その結末は明白だった……そう。
――カチッ――
「「「〝変身〟」」」
彼等が…何の備えも無く飛び込んでいたのなら…。
「――〝形状記憶装具〟…〝展開〟…〝地上疾走型装具〟…〝脱兎〟」
「――〝地中機動型装具〟…〝土竜〟」
「――〝天空飛翔型装具〟…〝大鷹〟」
彼等の声が、淡々とそう〝言葉〟を紡ぐ…ソレから僅か数秒後に、彼等は十数秒の空の旅を終え…大地に激突し…。
――ズドォォンッ――
砂塵が立ち上り…舞い上がる土塊の破片が彼等を包み込む…しかし、その大地の天幕はその瞬間――。
――バサッ!――
砂塵が吹き飛び、鈍色の翼を備えた人型の〝機人〟が…優雅に滑空し…その抉られた大地へ降り立つ。
「――〝飛翔機能〟に問題無し…全システム正常値を維持…送信」
――ピコンッ――
「――〝集音索敵〟…15Km内に存在する〝動的反応〟が此処へ向かっている」
そして、大地に付けられたクレーターの〝中心〟には…〝翼〟の彼と比較するとやや細身だが、強靭な脚部を備えた〝兎〟を思わせる〝機人〟が大地を踏み締めながら、頭部に備えられた長く大きな耳の様な器官をを忙しなく動かし…2人へ告げる。
「〝迷彩機能〟を機動…〝実験〟開始…設定目標…〝コロニーα〟との接触」
そして…残る男は早くもその肉体を変形させ…鋭利な〝掘削機器〟を駆動させながら…地面へ触れる。
「「「〝行動開始〟」」」
そして、三機はそれ以上何かを語る事も無く…その場から姿を消す……。
――バサッ…バサッ…――
「グルルルゥ……?」
その後…遥か遠くから異物の魔力を感知した竜達を出迎えたのは……抉り砕かれた二つの〝クレーター〟…ソレだけだった。
○●○●○●
「「「「うおぉぉぉッ!!!――カッコイイぞ!!!」」」」
『〝特撮〟じゃねぇか!?』
歓声が、〝管制室〟に響き渡る…学者、技術者が…己の智慧の結晶、己の技術の粋を集めて造られた〝装具〟の駆動に胸躍り、己等の置かれている状況を忘れ、興奮の熱に浮かれていた……その熱狂に、残る生真面目な職員達は皆…その映像に同じ言葉を紡ぎ…馬鹿を観る目でその集団を見咎める。
「――ふむ…〝侵入門〟の位置と実際の地形が照合しないな…やはり、空間と空間の境が捻れているのか…要検証だな」
「ねぇ」
「魔力消費も激しい…やはり補助無しに〝開く〟のは危険か…どうにか座標を〝固定〟したいが…」
「ちょっと…孝宏」
「――問題は〝場所〟だな、相手の領域な以上…ほぼ全域が危険なエリアだ…後はゲートを開く以上…向こうから〝此方〟へ渡られるリスクも有る」
「――」
――ゴンッ!――
そんな彼等の片隅で…その男は己に振り下ろされた拳の痛みに頭を抑えながら…抗議する様に冷ややかにその凶行の主を見て問う。
「何かね字波君、急に殴り付けるとは酷いじゃないか…」
「――孝宏?…私は確か、〝相手の領域〟に侵入する〝方法〟を試すと聞いたのだけど?」
そんな彼の言葉に彼女はそう返しながら…何か言いたげな表情で彼を見る。
「?……勿論その通りだ、実際…こうして〝侵入〟出来た…試みは成功と言って良い」
その言葉に困惑した様な顔でそう首肯する彼の言葉に、彼女は頷き…そして、言葉と共にその指を映像の方へ向ける。
「えぇ、そうね…その事に異論は無いわ……でも、〝アレ〟は何?」
「〝アレ〟?……嗚呼、あの〝スーツ〟かね?…アレは彼等の〝技術の結晶〟だ…中々良く出来た〝装具〟だろう?…今回の実験はこの二つの検証を兼ねてだよ…流石に生身で彼等をあの世界に放り込む訳には行かないからね」
彼女の問いに応えながら、彼はその手元に纏められた〝資料〟から…その〝概要〟を彼女へ説明する。
「〝形状記憶装具〟…ナノマシンを用いた〝特殊装具〟だ…マトリョーシカ方式でナノマシンを格納し、〝現形態〟から約1000分の1にまでスーツを圧縮出来、起動する迄は彼等の身体の中に内蔵され、肉体活動の補助をする…格納状態から展開までを数秒で完了し、部分展開も可能…ナノマシンに設定された〝仮想設計図〟から、其々の用途に合わせた〝型〟へ変形し、汎用性も高い…コレ一つで〝戦闘から料理〟までこなせる〝便利なスーツ〟だ…尤も、現行で稼働している〝三機〟は全て〝偵察型〟…機動性、隠密性に長けた〝装具〟だ…戦闘能力も…ある程度の武装を備えているだけに過ぎない」
そう言うと、彼は開いていた資料を閉じ…説明していた彼女の方に視線をやる…しかし、彼女から返答は無い……代わりに――。
「〝戦闘能力〟は無いって……〝冗談〟でしょ?」
視線を映像に向けたまま固まる彼女の、絶句した声がそう言葉を紡いでいた…。




