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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第九章:かつて神で在った者達
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神代を渡る鋼の生命


其処には、荘厳な〝空〟が在った…。


其処には、偉大な〝大地〟が在った…。


かつて在りし日の〝世界〟…まだ人と神が同じ場所に存在していたその世界が…現実に在った…。


〝人の世〟を蝕むという形で。


――パキッ…――


そんな神々の大地に、〝歪〟が生まれる……その〝歪〟は、空を歪ませ…捻れた黒い空洞をほんの僅かの間だけ…その世界に固定する…そして。


――バッ――


黒い空洞の捻れから、〝何かの影〟が飛び出し…彼等は遥か上空から大地に向けて落下を始める……。


「「「……」」」


ソレは〝人〟だった…遥か上空に現れ出た彼等は、そのまま空を滑り落ち…急速に〝落下〟と言う死が彼等へ迫る…そんな状況に在りながら…彼等は言葉の一つも発する事無く…空を突き破るが如く…大地へ加速する。


翼を持たぬ者の末路は見るに堪えない…大地に堕ちる熟れた樹の実が如く、その結末は明白だった……そう。


――カチッ――


「「「〝変身〟」」」


彼等が…何の備えも無く飛び込んでいたのなら…。


「――〝形状記憶装具トラペゾヘドロン・スーツ〟…〝展開〟…〝地上疾走型装具〟…〝脱兎(ラビットマン)〟」

「――〝地中機動型装具〟…〝土竜(モリーマン)〟」

「――〝天空飛翔型装具〟…〝大鷹(ホークマン)〟」


彼等の声が、淡々とそう〝言葉〟を紡ぐ…ソレから僅か数秒後に、彼等は十数秒の空の旅を終え…大地に激突し…。


――ズドォォンッ――


砂塵が立ち上り…舞い上がる土塊の破片が彼等を包み込む…しかし、その大地の天幕はその瞬間――。


――バサッ!――


砂塵が吹き飛び、鈍色の翼を備えた人型の〝機人〟が…優雅に滑空し…その抉られた大地へ降り立つ。


「――〝飛翔機能〟に問題無し…全システム正常値を維持…送信」


――ピコンッ――


「――〝集音索敵〟…15Km内に存在する〝動的反応〟が此処へ向かっている」


そして、大地に付けられたクレーターの〝中心〟には…〝翼〟の彼と比較するとやや細身だが、強靭な脚部を備えた〝兎〟を思わせる〝機人〟が大地を踏み締めながら、頭部に備えられた長く大きな耳の様な器官をを忙しなく動かし…2人へ告げる。


「〝迷彩機能〟を機動…〝実験〟開始…設定目標…〝コロニーα〟との接触」


そして…残る男は早くもその肉体を変形させ…鋭利な〝掘削機器〟を駆動させながら…地面へ触れる。


「「「〝行動開始〟」」」


そして、三機はそれ以上何かを語る事も無く…その場から姿を消す……。



――バサッ…バサッ…――


「グルルルゥ……?」


その後…遥か遠くから異物の魔力を感知した竜達を出迎えたのは……抉り砕かれた二つの〝クレーター〟…ソレだけだった。



○●○●○●


「「「「うおぉぉぉッ!!!――カッコイイぞ!!!」」」」

『〝特撮〟じゃねぇか!?』


歓声が、〝管制室〟に響き渡る…学者、技術者が…己の智慧の結晶、己の技術の粋を集めて造られた〝装具〟の駆動に胸躍り、己等の置かれている状況を忘れ、興奮の熱に浮かれていた……その熱狂に、残る生真面目な職員達は皆…その映像に同じ言葉を紡ぎ…馬鹿を観る目でその集団を見咎める。


「――ふむ…〝侵入門〟の位置と実際の地形が照合しないな…やはり、空間と空間の境が捻れているのか…要検証だな」

「ねぇ」

「魔力消費も激しい…やはり補助無しに〝開く〟のは危険か…どうにか座標を〝固定〟したいが…」

「ちょっと…孝宏」

「――問題は〝場所〟だな、相手の領域な以上…ほぼ全域が危険なエリアだ…後はゲートを開く以上…向こうから〝此方〟へ渡られるリスクも有る」

「――」


――ゴンッ!――


そんな彼等の片隅で…その男は己に振り下ろされた拳の痛みに頭を抑えながら…抗議する様に冷ややかにその凶行の主を見て問う。


「何かね字波君、急に殴り付けるとは酷いじゃないか…」

「――孝宏?…私は確か、〝相手の領域〟に侵入する〝方法〟を試すと聞いたのだけど?」


そんな彼の言葉に彼女はそう返しながら…何か言いたげな表情で彼を見る。


「?……勿論その通りだ、実際…こうして〝侵入〟出来た…試みは成功と言って良い」


その言葉に困惑した様な顔でそう首肯する彼の言葉に、彼女は頷き…そして、言葉と共にその指を映像の方へ向ける。


「えぇ、そうね…その事に異論は無いわ……でも、〝アレ〟は何?」

「〝アレ〟?……嗚呼、あの〝スーツ〟かね?…アレは彼等の〝技術の結晶〟だ…中々良く出来た〝装具〟だろう?…今回の実験はこの二つの検証を兼ねてだよ…流石に生身で彼等をあの世界に放り込む訳には行かないからね」


彼女の問いに応えながら、彼はその手元に纏められた〝資料〟から…その〝概要〟を彼女へ説明する。


「〝形状記憶装具トラペゾヘドロン・スーツ〟…ナノマシンを用いた〝特殊装具〟だ…マトリョーシカ方式でナノマシンを格納し、〝現形態〟から約1000分の1にまでスーツを圧縮出来、起動する迄は彼等の身体の中に内蔵され、肉体活動の補助をする…格納状態から展開までを数秒で完了し、部分展開も可能…ナノマシンに設定された〝仮想設計図〟から、其々の用途に合わせた〝型〟へ変形し、汎用性も高い…コレ一つで〝戦闘から料理〟までこなせる〝便利なスーツ〟だ…尤も、現行で稼働している〝三機〟は全て〝偵察型〟…機動性、隠密性に長けた〝装具〟だ…戦闘能力も…ある程度の武装を備えているだけに過ぎない」


そう言うと、彼は開いていた資料を閉じ…説明していた彼女の方に視線をやる…しかし、彼女から返答は無い……代わりに――。


「〝戦闘能力〟は無いって……〝冗談〟でしょ?」


視線を映像に向けたまま固まる彼女の、絶句した声がそう言葉を紡いでいた…。

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