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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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太陽は影を見ず

――ギギギギギッ――


その音は、ただ連続して鳴り響く〝雑音〟…。


ソレは聞くものの耳に不快感を残し、彼等は皆苛立ち紛れにその音の先を見た…そして、〝見惚れた〟…。


「ッ――!」


それは、魔術と呼ぶには余りにも直接的で…その雑音に反比例する様に〝洗練〟された動きの打つかり合いだった…。


少女の肉体が躍動する…その動きは彼等の目で捉えるには余りにも早く、その刹那刹那をのみ、彼等は認識している…そんな欠落した情報を見ながらも、その動きの〝熟練〟を理解する、させられる彼等はその光景に、ざわめき立つ。


――あの二人は誰だ?――

――新入生か?――

――もう片方は教師だ――

――何て戦いだ――


それは、疑問、驚嘆、感嘆…その光景を織りなす二人への尽きぬ好奇。


その様を形容するならば、それは…〝太陽の如く〟と表せるだろう…その煩わしさを取り払って余りある美しさ、その眩しさに誰もが遠巻きに見るしか出来ない…そんな〝今〟…。


その場の全ての視線を、彼と彼女は総舐めに掻っ攫う…しかし、そんな〝太陽〟は気付かない…。


太陽の光に焦がれた〝影〟の視線を……其処に籠もる、濁った〝憧憬〟を…その場の誰一人と気付くことは無かった。



○●○●○●


(右、剣、左下脚撃、空き手から反撃、カウンター、躱された、次)


――タタッ――


振るう、振るい、振るわれる…その尽く、一挙手一投足を知覚し、認識し、脳から四肢へ伝達する…それと同時に、私の心臓は酷く不安定に揺れる…不整脈じゃない…ただ〝感嘆〟にだ。


(短期間で此処まであの魔剣を使い熟しているのか…驚いたな)


――ジリィンッ――


眼の前の少女を観察する…先程の素振りの光景でも感じていた…魔術師で有りながら、剣を扱う才能に長けた〝異端〟…其処に加えられた〝何者か〟の影を。


恐らくは彼女から聞く祖父仕込みだろう、優れた魔術師と聞く…その祖父からの教育の成果らしい…彼女の才能を最大限に活かす〝やり方〟…全く、恐ろしい。


――バチィンッ――


コレでまだ…彼女の上限すら見えていない事が…誠に恐ろしい(面白い)


「クッ!」

「ッ!?――取った!」


祖父殿から、愛弟子を掠め取る形に成るがしかし…この〝逸材〟…手放したくは無いな。


――ヒュンッ――

――ゴリッ――


「え!?」

「まだ甘いね〝結美〟君!」


――ブンッ――


右腕で剣を掴む…その行動に驚愕し、歩みを止める結美君の力を利用し、そのまま投げ飛ばす。


「えぇぇぇ!?」


――ズザザザッ――


「ブエェッ…何で…急に強ッ――油断したぁ…!」


それと同時に丁度3分経ち…私は罅の入った腕を修復し、彼女に手を貸す。


「いやいや、私こそ少し〝ズル〟をしてしまった…行かんね、どうやら心も若くなったのか…少し意地悪をしてしまったよ…ごめんね結美君」


そう言い、私は彼女へ〝勝利〟を返す…その言葉に、少女は嬉しそうに頷き、私へ抱き着いて来る。


「やった、初めて一本取った〜!――どうどう先生?私強くなってるよね!?」

「うん、予想以上だよ」

「ニュフフ〜♪……あ、でも最後のアレ何?…何か先生急に力強くなったよね?」

「アレの絡繰はまた今度、今は何かと一目が多い……後出来れば離し給え」


いや、見た目だけ見れば青年と少女のじゃれ合いだがね、こんな中身老人と純粋で可愛らしい美の付く少女が一塊に抱き合うのは色々と不味い気がする…主に色恋に縁のない者からの怨嗟が濃い。


「あ、御免なさい…汗臭いよね…!」

「そう言う意味では無いが…運動の後ならば気にする事も有るまいよ、発汗は生命の冷却機能だ」


私はそう言い、彼女と自身に洗浄の魔術を掛ける…うむ、やはりこの魔術は良い…もう少し改良してシンプルにすれば多少機能は落ちても誰でも使えるように成るだろう…。


「ふぅ……さて、君のトレーニングは此処までにして…すまないね椿君、退屈だったろう?」


私はそう言い、先程の攻防を眺めていただろう少女、私の二番弟子、椿君にそう言う。


「ッ〜!?――い、いえ!…とても凄かったです!」


その言葉に返ってくる椿君の言葉は、何か、酷く動揺しているような…或いは何処か余所余所しい気配を纏っていた。


「……不安かね?」


そんな彼女へ問う私の言葉はきっと正しかったのだろう…椿君は喉を締めて声を詰まらせる…そうだろうな、私を部外者に置き、あの鍛錬を評価したとしても彼女の動きは素晴らしい物だった…気後れする、彼女と比較してしまい己の粗に目がつき沈む事も当然、痛い程良く分かる…だが。


「宝石であれ、金であれ…始めからその〝美しさ〟を持っている者は居ない」

「……」

「君は生まれたときから今の知識が身についていたのか?…今の様な可憐な姿をしていたのか?…否、万物の全ては〝未熟〟から始まったのだよ…〝可能性〟と言う資質を、その柔肌に内包してね?……始めから優秀な者は存在しない、キッカケが有り、情熱を持ち、弛まぬ努力をしてその技術を磨いたからこそ、〝天才〟と呼ばれる者達は存在する…〝才能〟は〝努力の補助〟でしかないんだよ」

「…私に、成れますか?」

「それは君次第だ…しかし…〝私は君を選んだ〟…そして、君は私を、私の提示する道を〝選んだ〟…此処で腐るよりも、ずっとずっと有益な筈だと思ったのだろう?…それでも不安に思うならば、私は君へ言って上げよう」


私は彼女の手を掴み、彼女の目を見てそう言い放つ…私は彼女の〝可能性〟を信じたからこそ、この〝不確実な可能性〟を〝絶対〟と言う。


「〝私を信じろ、君は必ず輝ける〟…と……コレでも、まだ不安かね?」

「……ッ、はい…まだ、不安ですよ」


私の言葉へ、椿君はそう言う…だが、私の耳に伝う、彼女の声には…〝暗い不安〟は消え去っていた。


「でも…其処まで言ってくれるなら…私は師匠を〝信じます〟…だから、私を鍛えて下さい」

「…フッフフフッ……任せ給えよ、花の手入れは得意だよ」


私はそう微笑む彼女へそう言うと…彼女はその笑みを更に眩しい物に変える……その様は…〝椿〟と言うよりは〝向日葵〟の様だった…。



「さぁ!…それじゃあ行こうか…結美君も来るかい?…」

「………」

「……結美君?」

「先生……学生との恋愛は良くないよ?」


――ゴツンッ――


「イッタァァ!?」

「こんな枯れた爺を好きになる若人など居るまいよ、椿君に失礼だろう君…全く」

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