いざ、決着へ
――ガシッ――
「ッ…!?」
〝焔の中〟から…焼け爛れた腕が伸び、私を掴む…。
――バッ!――
「――〝勝った〟…ぜ…!」
その腕は私の胸倉を掴み、焔の中から飛び出し…炭の様に真っ黒な顔に、ギラついた赤い瞳と、剥き出しにされた獣の牙を覗かせそう紡ぐ。
「――〝化物〟め…!」
「互いになッ!」
――バッ!――
胸倉を掴んだ姿勢を振り解く…その刹那、私の首目掛け…黒炭の鬼がその刃を振るう…それは寸分の違い無く…運命は変わり無く私の首へ、その刃を奔らせる。
――スパァァンッ――
「ッ――!」
断ち切られた痛みは無い、ソレほどまでに研ぎ澄まされた一撃に…私はただ、眼の前の〝鬼〟へ尊敬さえ抱く…だが。
――カッ――
「ッテメェもか――」
「〝悪足掻きです〟!」
その言葉を飲み込み…私は、最後の最後まで…〝敵を倒す〟事に意識を向ける……後の後に続く…仲間達が成し遂げる事を信じて。
そして、私を…眩い白が包み込んだ…。
●○●○●○
――ズドォォォンッ――
大地が爆ぜる…空をも焼き尽くさんと昇る烈火を双眸に捉え…〝ソレ〟を見る。
――ゴォッ――
煙と焔の中を…〝進む人影〟…ソレは確かにダメージを追いながら、その殺意は以前変わらず轟々と猛っている。
――ガッ――
そして、焔を挟み…〝ソレ〟と僕は〝相対する〟…。
「――ッ!」
〝鬼〟が駆ける…煤けた身体に生命の形を保ちながら…ボロボロと炭化した腕は生え変わり、その姿はまた変わらぬ〝女傑〟の姿へと成る…。
「……まだ、そんなに〝余力〟が有るのか」
未だ底知れぬ力を見せる〝強敵〟に…そんな感想を抱きながら…僕は己の〝最高〟を発揮するべく…作業を続ける。
――キィィィィンッ――
――ガチンッガチガチッ、ガシャンッ――
その物量は凄まじく…未だその〝機構〟は完全には組み上がらない…そんな有様だからか、酒呑童子はやや呆れた様に僕へ紡ぐ。
「――あぁ!?…オイオイ、そりゃあ間に合わねぇだろ…!」
「……確かにな」
その言葉に否は無い、事実最速で事を始めても半分創るので精一杯だ…普通にしていたんじゃ、間に合わない。
「――だが、ソレは〝僕一人〟ならだ」
僕の言葉が言うが早いか…僕の脇を〝人影〟が過ぎる…ソレは驚くべき脚力で草土を踏み抜き…酒呑童子へ肉薄する…。
「ヘイ〝酒呑童子〟!…〝私〟を忘れてないかしら?」
人影の少女は、そう溌剌に謳いながら…両の拳を強く握る。
「ッ――お前は…!」
「――フンッ!」
○●○●○●
その存在に酒呑童子が足を止める…ソレに対し、アメリアは足を止める事無く…酒呑童子へ飛び掛り――。
――ブンッ――
その拳を…思いっ切り打ち付けた。
――ドゴォッ――
その拳は咄嗟に反応した酒呑童子の両腕に減り込み…酒呑童子を後方へ仰け反らせる。
「ッ――重ッ…!」
その一撃の重さに、酒呑童子は瞠目し…アメリアの拳を見る…。
「――フフンッ、日本の貴女に〝此方〟の遣り方を教えて上げるわッ!」
その拳は…見るも異様な…〝異形の拳〟に変わっていた。
『――〝神獣の祝福〟…〝神砕きの拳〟』
「――〝筋肉は力〟よ!」
「――フハッ…良いねぇ、そう言う馬鹿は大好きだぜ!?」
2人は一瞬の会合の後…同時に駆け出す…その身体は常に〝前〟を目指し…その拳は――。
「「〝無撤退〟で決着を着けようか!」」
穿つべき〝好敵手〟の…その身体を目掛けて振り抜かれた。
●○●○●○
――ドドドドドドドドッ――
「――――ッ」
轟音が響く中で…私は〝静止〟する…。
仲間の奮闘を耳にしながら…仲間の散る音を耳にしながら…私は只管に〝己〟の中の〝ソレ〟を収める。
音を聞く度、跳ねる心臓を抑えつけ…鼻を突く甘い匂い耐え…自身の〝精神〟に問う。
――〝己が求める物とは何ぞや?〟――
その答えは依然変わらない…ソレは〝唯一無二〟を手に入れる事だ。
――〝ならば、ソレを手にするには何を求むるか?〟――
其の為に、私は考えに考え…〝ソレ〟へ思い至った…つまりは…〝完全な静〟だ。
荒々しい祖父の剛剣でも、叡智の師が成す魔導でもない…私だけが持ち得、私だけが〝手に入れられる〟――〝私の武器〟…。
問うては答え、また一つと私は〝昇る〟…悉くの問いにそう答え…何時しか世界から〝全て〟が消えた……その〝先〟に…。
――………――
「――……〝見付けた〟」
私は…〝答え〟を手に入れた。
○●○●○●
――ドゴォッ!――
「――ッシィ!」
「――ッハァ!」
「「――フンッ!!!」」
二人の乙女が、両の拳を打ち付け合う…その雄々しく、野蛮とさえ言い切れる程の〝殴り合い〟は…着実に、二人の身体を蝕んでいた…。
――ドゴォッ!――
「「――ブッ!」」
二人の乙女のその顔には、最早正気は何処にもなく…狂気を孕んだその視線は…常に相手の顔をのみ捉え…何百と拳を振るう。
――『『ザザッ』』――
互いにダメージを無視した殴り合い…その疲労は無視できる物では無く…二人は着実に迫る終着の声を聞く……そして。
――〝ガチンッ〟――
「「ッ!」」
終着は…唐突に…訪れた。
「――〝酒呑童子〟!」
「ッ!」
アメリアが…そう言い酒呑童子へと一歩踏み出す…その眼はギラつき、酒呑童子を捉えて離さない…。
「コレが〝最後の一撃〟よ!」
そう言うと、アメリアの拳には…確かに、その身体から発せられる〝力〟の全てが込められ…その言葉には一切の偽りが無かった…。
「―――」
酒呑童子は理解していた…コレが〝挑発〟で有る事を…何故なら、眼の前の少女の背後に構えられた…その〝銃口〟は…今正に、完成したのだから…。
馬鹿馬鹿しい、見え透いた罠だ…乗れば不可逆の〝致命傷〟が待ち受けている…乗る必要が無い。
幸いにも、己にはまだ…眼の前の人間と違い少しの余力は残っている…挑発に乗るフリをして、避けに徹すれば決着だ…。
「――ッ嗚呼…良いぜ…!」
ソレが…〝正道〟だ。
――ザッ――
人間の言葉に、私は強く踏み込む…互いに拳に全霊を注ぎ…そして、引き絞る…。
(避けりゃそれで終いだ…悩むまでもねぇ〝正解〟だ)
己と人間が迫る…その背後で、〝銃口〟からは凄まじい〝魔力〟が疾走る…。
……コレは〝戦い〟だ……〝勝負〟じゃない。
(―――〝だから何だってんだ〟!!!!)
馬鹿だ阿呆だと笑えば良い、眼の前の〝大馬鹿〟の馬鹿正直を前に…この〝私〟が……天下に聞こえし〝酒呑童子〟が狡っ辛い真似をすると思うか!!!。
「「オォォォォッ!!!」」
後も先も知った事か…私は私のやりたい様にやるんだよ。
――ズドォォォッ!!!――
私と人間の拳が触れる…その瞬間…互いの〝全霊〟が衝突した…。
純然たる〝力と力〟の〝押し合い〟…ソレは長々と語らう様な代物では無く…その〝決着〟は…口弁回して飾り立てる必要すら無い。
〝勝者〟は……。
「…ハハ…ハッ…〝有り難う〟…〝酒呑童子〟」
「……」
〝私〟だった。
――『ズドォォンッ』――




