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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第八章:神に仇なす超克者
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連鎖する目覚め

「――何だ…オイ?」


理解出来なかった…振り下ろされた刀は、崩れ落ちる娘の首を刎ねる…筈だった。


闘争は終着した筈だ、己が勝ち得た筈だ…そしてソレは決定された筈だった。


……だと言うのに…地面に落ちるソレは…勝者たる〝(酒呑童子)の手〟だ…這い蹲る少女の首は未だ繋がっている。


何故、何故?…ナゼ?…そう己の理性が、知能が解を求め、脳髄に収められた〝記録〟を読み解く…しかし、そんな知能の努力は虚しく――。


――『ブワッ』――


〝解〟は……己の遥か後方の〝敵〟より…与えられた。


「―――……流石にちっと…〝酔い過ぎた〟かねぇ?」


思わず、そう思わず己は〝恐怖〟する…冷や汗が流れ落ち…遥か先に感じる〝極上の好敵手〟が放つ気迫の〝束〟に…乾いた笑みが漏れる。


「――さては〝生命の娘〟…お前が何かやったか?」


そう振り返った…その先には……。


――パキンッ――


其処に少女の姿は無く…斬り落とされた霊樹が放つ生命の魔力だけが…大地を伝っていた。


○●○●○●


――ボロボロボロッ――


大地が盛り上がり、大きな蕾が其処から生まれる…。


「――有り難う…〝シード〟」


その蕾の中に居た春芽椿は、そう言いながら己の身体から分離する〝使い魔〟の行動へ感謝を示す。


「――御免…皆…後、お願いしても…良いかな?…」


春芽椿はそう言い、全身に満ちる重い疲労感に瞼を下ろしながら…己の掠れた視界に見える…〝5人の背中〟へそう託す…。


『嗚呼、任せろ!』


その言葉へ、彼等5人はそう応える…春芽椿(仲間)への〝敬意〟を多分に含みながら。



生命は芽吹き…何時かは枯れる、生きて老いる、そしてその果てに新たな生命へ次を紡ぐ…。


『〝巡り廻る生命の舞台〟』


春芽椿の最後の〝呪い〟…彼女の〝力〟を分け与えるその呪いは――。


――パキンッ――


次なる〝主役(英雄)〟達の…その〝資質〟を呼び醒ました。



●○●○●○


――ジュウゥゥゥッ!――


「――ハハッ!…いや本気か!…流石にコレは予想外だったなぁ…?」


己へと注がれる殺意と戦意の昂りを受けながら…酒呑童子はそう言い…己の気を引き締める…だが。


(何だ…〝右手〟が再生出来ない?)


己の右手に生じた違和感…癒える事の無い己の身に心の内で疑問を吐く。


「――全く、コレだから現世は面白い…まさかいつの間にやら〝私〟が…」


――ガシッ――


そう言い掛け…その瞬間眼の前に肉薄する二人の影を見ながら…酒呑童子は〝得物〟を喚ぶ。


――ジリィィンッ――


「「シィィィッ!」」

「――〝挑戦者〟に成るとはなァ!!!」


――ゾワッ――


その瞬間、凄まじい闘気が吹き荒れ…二人を包み込む…ソレは剥き出しの〝殺意〟…荒々しく暴れ回る獣の〝本能〟…だが、その〝闘気〟を受けて尚…。


――ドンッ――


「〝黒乃〟!」

「〝氷太郎〟君!」


二人の勇士は…その心に恐怖の影を落とす事は無かった。


――ピキッ…ピキピキッ――


「行くぜ〝鬼神〟!…馬鹿踊りも終わりにしようじゃねぇか!」

「上等だ若造ッ、簡単にへばんなよ!」


鬼と人間の拮抗は長く続かず…鬼が押され…そして、〝吹き飛ぶ〟…そしてソレを追い縋る様に――


「〝氷武羽衣〟――」


純蒼(にごらずのあお)


――パキパキッ…バキンッ!――


「〝蒼槍〟――〝天吹雪〟!」


蒼い…〝狼の衣〟を纏った…蒼い槍を携えた青年が…肉薄した。


空の上で、己と其奴は立ち会う…猶予は一瞬…互いに一撃で〝決着〟を着ける腹積もりで。


「「――」」


ソレに名は無い、技は無い、ただ…全身全霊を込めて…ただ相手を挫くと言うだけの〝意地〟で…私の刀と其奴の槍は〝打ち合った〟…。


その…決着は――。


――ブチィッ――


「ッ…ガァァッ!?――クッッソ…ガァッ!!!」


私は大地に叩き落され…其奴は己の腕が引き裂かれ破裂する。


「――〝後は任せた〟ぞ……!」


そして…私は大地を抉りながら…即座に体勢を整える…その瞬間。


――ゴオォォォッ!――


「――えぇ…〝任せて〟…!」


己の前に…〝白い鳥〟が現れた。


○●○●○●


「〝我…土御門九音の名に於いて命ずる〟…〝焔よ…我が元に参集せよ〟」


紡がれる言葉は〝祝詞〟として、土御門九音の眼の前に〝焔〟を集める。


「〝我は焔を手繰る者〟…〝万象一切悉く〟…〝その全てを灰燼にする〟」


焔は彼女の元に集い、従属する…何故ならば…彼女こそが〝主〟なのだから。


「〝()えよ〟、〝()えよ〟、〝()えよ〟…〝我が赦す、我が命ずる〟…〝生命灼き尽くす白焔よ〟」


焔は集い、混ざり、純化し…染まる…ソレは生命を育み、生命を滅ぼす〝白光〟――。


「〝我に仇なす総てを滅ぼすが良い〟」


〝太陽の焔〟が如く…絶対の〝焼滅〟…ソレが〝主〟たる少女の命令により…〝鬼の神〟へ目掛けて迫った。



●○●○●○


「――フハッ、容赦ねぇ!」


私は笑う…己を焼き尽くさんと迫る〝お天道様〟の…その〝殺意〟に。


(回避は、無理だ…押し合いは分が悪い)


己の〝窮地〟に世界が緩慢に見える…所謂走馬灯…なのだろう。


(退けば負ける、押せば負ける…だったら〝活路〟は――)


真正面を捉える…燃え上がる焔…触れる物総てを灰に帰する〝神の焔〟…全く巫山戯た賭けだ、狂気の沙汰、酔狂に過ぎる…だが。


「〝死中にあり〟ってなぁ!?」


そんな巫山戯た丁半博打に…湧き立つ〝己〟が居る…。


――ボッ――


焔が視界いっぱいを包む…全身を熱が覆い、熱の概念が飽和する…。


肌が焼ける、息を吸おうと開いた刹那喉が焼け、目からは涙さえ流れない。


走る…疾走る……走って居るのかさえ分からない…もしかすれば己の足は灰に成り…走ってなど居ないのかも知れない…それでも。


〝此処に居る〟…。


まだ私は死んじゃ居ない…〝鬼の神〟は此処に居る…ならばまだ〝賭け〟は分からない。


全てが焼ける…肉も腸も魂も…燃え尽きてしまいそうな程に――。


――ガシッ――


「ッ――ハァッ……〝勝った〟…ぜッ……!!!」


〝私の心は燃えている〟

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