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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第八章:神に仇なす超克者
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絶対強者

――ギィィンッ――


「――良い♪」

「「クッ!」」


刃と槍が空を穿つ、全霊の一撃は死の気配を色濃く纏っていた…にも関わらず、彼方の標的を穿つ事無く、素手で防がれる。


――キュィィンッ!――


「お♪」


その拮抗も束の間に、強力な魔力の収束が大地を睥睨する…その力の駆動を知覚した二人の人は即座にその場を飛び退き、瞬間。


「〝雷霆の矢〟!」


凄まじい魔力の〝光〟が、彼女の身を焼き尽くす…しかし。


「――悪くない♪」

「ッ……!?」


――バッ――


そんな物を御構い無しに、彼女は依然傷一つ付けずに空を駆け登り天空の〝術者〟を狙う。


「ッ空を――!?」


そしてその手は容赦無く、動きの遅れた男の頭を握り潰さんと伸びて行き…男を捉えた…と思われた、その瞬間。


「――危ないッ!」


――ドンッ――


ふと青年を横から押し退ける様に、1人の少女が入れ替わり…鬼の掌に捕らえられ…身代わりに、その頭蓋を握り潰される。


――ギュッ――


――筈だった。


「ん…お?」


鬼の顔に一瞬驚きが過ぎる、触れた瞬間は確かに人の肉だった…しかしそれを握り潰さんと力を込めたその瞬間、その頭部の一切の感触を失い、己の手は容易く閉じられたのだから。


――ガシッ――


「『ッ――〝掴んだ〟!』」


その瞬間、彼女の瞳に映り込む…頭部を紅い焔と化した、巫の娘の姿を…その娘は無い頭でそう呟くと、己の腕を掴み…その身から焔を迸らせる。


「ッ―――♪」


――カッ!――


瞬間、凄まじいまでの魔力の燃焼と世界を包む程の爆炎が拡がり…鬼の女と巫の娘は焔の中に身を投じる、それは自爆が如き〝力技〟…されど。


「――ハッハァッ!…やるじゃねぇかよオイィッ!」


そんな昂りを孕んだ声が響き渡ると、焔が撓み、地面へ何かが飛来する…。


「ッ――九音ちゃん!」

「ッ大…丈夫!」


ソレは煤を帯びた九音の姿…その熱故か、或いは相対する相手の力故か、その顔は強張り汗が滲んでいた。


――ドンッ――


「――良いぜ良いッ、その調子だぞテメェ等ッ♪」


そんな彼女達の視線を扠置いて、焔の中から鬼の女は悠々と降り立ち、その顔を愉しげに歪める…一連の流れは刹那の内に行われ、そのどれもこれもが凄まじい力を帯びていた…だと言うのに、その全てを真正面から受け止めていた彼女の身体には――。


「だがもっとだ、もっと〝本気〟で殺しに来い!」


一切の〝傷〟が無く…彼女は依然健在…否、それどころか。


――ブワァァァッ!!!――


彼女が彼女の身体から発する…息も詰まる程恐ろしい、心の底を締め付ける様な〝威圧感(プレッシャー)〟は、倍々に増していた。



●○●○●○


観測室(オブザーバー)へ通告、残存〝疑似世界(シミュレーター)〟の負荷が増大!』


「ん…〝演算能力〟の5%を〝疑似世界〟へ充てる、それで持ち堪えられる筈だね?」

『肯定』

「なら許可する、シミュレーターの破壊は防ぎ給え」


男は画面に視線を釘付けにしながら、忙しなくコンソールを動かしていく…その鬼気迫る勢いに気圧されてか、背後の4人は長くの間沈黙を侍らせていた。


「――いやしかし、流石は〝酒呑童子〟…平安から今を生きるだけあってその〝力〟は凄まじいポテンシャルだ…試練の門番全てを踏破した〝神域〟の到達者なだけは有る」


やがて、喧騒は過ぎ去り…此処、観測室は何時もの様に静謐な〝沈黙〟で満たされる…その中で、唯一人の声が悠々とモニター越しの〝戦い〟へ感心の言葉を紡ぐ。


「あの鬼は不味いのう…控え目に言っても〝怪物〟の類じゃな」

「…嗚呼、アレがあの…伝説の〝大江山の鬼〟」


そんな私の背後からは、躍動する〝彼女〟の纏う尋常ならざる気配に感嘆を吐き出す声が響き…残る二人はその顔を緊迫に染めていた。


「――さて、自身よりも遥か上…雲の上程差のある実力の相手に…彼等はどうやって〝戦う〟か…♪」


実力を比べるべくも無い、己の最高がほとほと通じない相手…そう。


「〝あの時〟と同じ条件だ…今この場では同仕様も出来ない〝格〟の違い…ソレを前に、彼等はどう〝戦いの舞台〟に上るか」


決して不可能では無い…何せ彼等の肉体は既に〝常人〟では無いのだから。


「〝力〟は有る…後は〝知恵〟と…そして……」


私がそう言い掛けた…その瞬間…酒呑童子が暴れていた戦場の風景に一石が投じられる……その波紋は…。


――『パキパキパキパキッ!』――


「――〝勇気〟…それだけだ」


この戦局を、覆す一手に成る…だろうか。



●○●○●○


――ズドォォンッ――


仲間が、傷付いている…。


――ドゴォォォンッ――


仲間が、抗っている。


皆が皆、死力を尽くし…眼の前の災厄を前に膝を折らず耐えている。


「ッ……近付けない」


その様は圧巻だった、何時にも増して綺麗で、眩しくて…そして苛烈な〝激闘〟…其処に、私は近寄れなかった。


皆の傷を癒す事は出来る…ソレが自分の〝役割〟で有るからだ…だが。


この場、この戦場に於いては…(春芽椿)は…同仕様も無い程に〝役立たず〟だった…ソレを自覚した。


回復等所詮焼け石に過ぎない…己が癒すより早く、皆が傷付き…血を流している。


ならば己の役割とは?…役割を果たせない〝自分〟は何をするべきか?


「――〝戦う〟…その為には」


難しい事じゃ無い…その為の〝やり方〟は…もう〝知っている〟…後は。


「――〝出し惜しみ〟は…しない!」


己の事を…〝信じる〟だけだ。


――ポワッ――


「〝シード〟……〝手伝ってくれる〟?」

『無論』


そして…私は―――。

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