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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第七章:神殺しへの道
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肉鉄の機天使⑤

「――〝月人君〟!」

「ッ――!」


陽炎で世界が歪む…その中に…ただ一つ、〝歪み無い声〟が僕の耳に届く…ソレはつまり――。


――ガチャンッ――


「ッ――〝何時でも〟良いよ!」


勝負の〝手札〟が揃った事を意味した…。


「――限界まで奴を引き付けるッ!」


――キュィィンッ――


〝弾丸〟が内包された〝砲身〟が唸りを上げて〝回る〟その膨大な〝付与〟を弾丸へ注ぎ込む様に…けれど、その〝膨大〟は大き過ぎる、多過ぎるが故に…〝未完成〟に終わるだろう事は分かりきっていた。


(――〝問題無い〟)


全てを詰め込む必要は無い、現有時間で持ち得る強化を最大限刻めればソレでいい…。


――ゴウッ――


一歩…また一歩と、その焔の〝怪物〟が駆け迫る度に、熱気は肌身を焼き、潤いを奪っていく…それでも、霞む視界で何とか、その怪物との距離を測り、心の中で〝タイミング〟を図る。


「――計算完了…最適射出時刻は…〝5秒後〟!」


――ギュィィィンッ――


僕のその言葉に比例する様に、砲身はより強く、より激しく稼働を進め…その身を構成する術式から悲鳴を奏でさせる。


「ッ――※※※※※!!!」


怪物もまた、唸り声と共に身に纏う烈火を激しく滾らせながら…僕達の放つ強大な魔力に突撃する。


――カチッ――


この一瞬、一刹、一寸に…全ては決まる…裏返るコインの如く…簡潔に、単純に、そして…明確な…〝勝敗〟が。


――カチッ――


……其処に、〝矛盾〟は…無い。


――カチッ――


僕達は、そして恐らく眼の前の怪物は……同じ〝予感〟を感じ取っているだろう…。


――カチッ――


四の時が過ぎた…砲身は〝熱〟を上げ、焔は目と鼻の先に有る…そして、僕達は…怪物の〝一歩〟が…その大地へ伸び…その脚で踏み抜いたその刹那――。


(〝発射〟――ッ!!!)


――ガチィィンッ――


〝切り札の弾丸〟を…〝発射〟した。



●○●○●○


――ズッ――


砲身を、弾丸が駆け抜ける…銃口の中に刻まれた…五つの術式を通過して…。


――キィィンッ――


一つ通過する…その弾丸はより〝速く〟を刻まれた。


二つ通過する…その弾丸はより〝鋭く〟を刻まれた。


三つに硬く、四つに重く……そして。


――キィィンッ――


五つに〝勝利〟を刻まれた…。


そんな、彼等の〝切り札〟…思い募りし〝打開の弾丸(シルバー・バレット)〟を眼の前に…怪物は――。


「――ッ※※※※!」


〝勝利〟を確信し…〝嗤う〟…。


――キィィンッ――


焔の中を突き進む弾丸の前に、一陣の方陣を立て…直ぐ先に居る〝好敵手〟へ小さな嘲弄と、大きな称賛を抱き…〝吼える〟…。


〝賢智の方陣〟…それこそ、怪物が真の姿と共に、好敵手達から学んだ〝能力〟…。


放たれた術式を〝解析〟し、肉体へその解析結果を伝達し…性質を変化させる〝賢者の智慧〟から得た〝能力〟…。


ソレを前にすれば、如何なる術式だろうと相手では無い――


「――さて、それはどうかな…?」




○●○●○●


怪物が勝利を確信する傍らで…外界の〝観測者〟はその目を興味に輝かせ、そう口にする。


「――相手は強烈な再生能力をもつ不死身の魔導機…ソレを相手に、果たして彼等が強烈なだけの〝弾丸〟を切り札に選ぶだろうか?」


可能性が無いとは言えない…或いはソレを選ぶ事も起こり得るだろう…だが。


「敢えて言わせてもらおう…それは〝有り得ない〟」


コレはただの色眼鏡では無い、〝彼等〟と言う〝魔術師〟への正当な批評だ。


数多死線を潜り抜けた飛び切りの〝逸材達〟が…不死身の難敵を相手に此処まで食い下がった彼等が…こんな〝可能性(パターン)〟を選択する筈がない。


「――だとすれば、〝アレ〟は何だ?」


あの眩い魔力の〝弾丸〟は、果たしてどう〝不死〟を殺すのか?…。


食い入る様にソレは見詰める、誰よりも真剣に、誰よりも夢中で…汎ゆる可能性を考えに考え…数多の否定を繰り返して……そして、遂に――。


――バチィンッ――


その〝弾丸〟は、怪物の〝方陣〟へ接触し…凄まじい〝魔力〟を散らした…。



そして、その勝敗は〝決する〟だろう……。


「ッ――フッ…フフッフフフフッ!」


――アハッハハハハハッ!!!!――


その先を〝視た〟…その男は一人、外界の座位で高らかに快哉を叫び…満足気に言う。


「――そうか、そうかぁ!…砲身(バレル)から放たれたのは、弾丸では無く〝種〟ッ!……成る程なぁ…フフッ、予想外な〝解法〟だよッ♪」


そして、そう男が言った……その瞬間。


――ブワッ――


焔をさえ掻き消す程の…膨大な〝生命の魔力〟が噴き出した。



●○●○●○


――何が……起きた?……停止した思考の中で、己は今目にしている〝光景〟に…そう、言葉を紡ぐ…。


確かに…そう、確かに己の方陣と奴等の術式が接触し…〝解析〟が始まった筈だ。


――パキパキパキッ――


解析された術式が、亀裂を奔らせる…否、ソレはこの〝方陣〟には持ち得ない権能だった。


解析と触媒…ソレこそがこの方陣の役割であり特性だ…己から触媒を通じ、術式を破綻させる事は有れど、術式に触れた刹那に崩壊する様な〝能力〟は持ち得ない…。


ならば…ならばソレは何なのか…。


――パキパキッ――


「ッ――!?」


混乱に満ちた脳髄は、己の思考機能は其処までの疑問に辿り着き…漸く、〝遅すぎた模索〟を始めた。


……その〝答え〟は、当然一つに帰結する……そう。


「『――〝崩壊前提〟の術式だ』」


己の声と、もう一つの声が重なる…見れば、焔の先に有る、砕け行く〝砲身〟の前に立っていた…その男が、その眼で己を見貫いていた。


「――お前の〝方陣〟の性質は、あの時既に〝見た〟…実に厄介で万能な〝術式〟だ…良いヒントを得た」


男はそう言い、ゆっくりと亀裂と共に方陣を通過する弾丸を見ながら、言葉を紡ぐ。


「お前の〝方陣〟は、解析する対象が増えれば増える程に…その〝解析能力〟に穴が開く…お前が今、方陣から受け取っている情報は全て、僕が弾丸の外側に覆う様に〝後付け〟した〝外皮(術式)〟の情報だ」


その言葉に絶句する…この膨大な術式の情報…ソレがただの〝外皮〟だと…ならば〝本命〟は――。


「そう…〝お前の方陣〟に触れていない……〝万能〟に頼り過ぎたな〝化物〟…それがお前の〝敗因〟だ!」


――パキパキ…パキンッ――


瞬間…方陣を擦り抜ける様に…淡い、しかし強い魔力の〝塊〟が己へ迫る…焔を掻き分け、ただ一直線に己へと肉薄し…その心臓へ。


膨大な魔力は、その密度故に外を目指して躍動するが、ソレをほんの少しの〝制御術式〟が抑え込む…その技量故に…ソレは辛うじて弾丸の体を為していた…だが。


――トッ!――


その弾丸は己の胸へ触れる…強い衝撃と、ソレへ抵抗しようと身体が動く…そして、ソレは〝敗北の合図〟だった。


――バキィィンッ――


恐ろしき事だ…その不安定な弾丸は、己へ触れたその瞬間…抑圧の枷を解き…その満ちに満ち…膨張する魔力の〝暴虐〟を…辺り一帯へと〝撒き散らす〟…。


「――〝精霊の庭園エレメンタル・ガーデン〟」


いや或いは……ソレは〝暴虐〟とは程遠い……とても〝穏やか〟な敗北…なのだろう。

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