試練という道
――カッ…カッ…カッ…カッ…――
「――さぁ、諸君…心の準備は宜しいか?」
私の声が、白亜の門を前に響く…私の眼の前には6人の若人達が各々勇気を、覚悟を、恐怖を抱き…若々しい闘争心が視線を通して私を射貫く。
「――宜しい…それでは、祝するべき最初の試練…その舞台へ案内する事にしようか…」
私はそう彼等へ言うと…懐から〝鍵〟を取り出し…身体の向きを反転する。
「〝我〟……〝境界を開く者〟」
そして、その鍵に魔力を通し…この鍵にのみ秘められた〝文言〟を紡ぐ…その瞬間。
――キィィンッ――
――カリカリカリカリッ――
――カカカカカカカッ――
門の前に、膨大な魔術式が歯車の様に現れ…私の魔力と〝接続〟を行う。
「〝超克の門〟――〝解錠儀式起動〟」
魔力が魔術式へ行き渡り、其れ等は音を立てて駆動すし、〝白亜の大門〟はその無機質な〝扉〟に紋様を浮かばせる。
「〝道定めし時〟――〝鍵を錠に差し込むべし〟」
――ズズズズッ――
壱の工程…その紋様――〝錠〟の鍵口へ、私は己の手に握られた銀の鍵を差し込む…奥深くまで。
「〝試練の担い手求める時〟――〝願いを抱き、鍵を半転廻すべし〟」
弐の工程…私は儀式が示す通り…彼等の試練として、最初に立ちはだかる〝者〟を思い浮かべる。
――『土塊の人形』『欲望の魂』『生命貪る者』――
白亜の大門に、そんな壁画が浮かび上がり…門は〝暗い魔力〟を滲ませ…魔力の歯車は狂ったようにカラカラと回る…そして…〝参の工程〟。
「――〝試練の挑み手揃いし時〟…〝思いを込めて、鍵を半転廻すべし〟」
祝詞と、共に…私の手に握られた〝鍵〟が回る…その扉を開け放つ事を望み…その鍵は、ゆっくりと、錠の仕掛けを押し退けて弧を描き…そして。
――〝ガシャンッ〟――
何時の間にか静謐が満ちていた周囲一体に知らしめる様に…そんな作動音を響かせ…〝試練の門〟は開かれた。
「〝今此処に〟…〝正しく扉は開かれた〟」
――ギギギギギギギッ――
重く、重く…噴き出す魔力と扉の重厚感が…〝英雄を目指す者〟の身体を包み込む…まるで、彼等を〝値踏み〟する様に…そして、その門は完全に開け放たれると…其処には…。
「……さぁ、潜り給え諸君…此処から先は〝君達の試練〟だ」
白亜の門の奥底に広がる…〝宇宙〟の様な混沌が、広がっていた…。
『……』
その言葉に少し間を置き…6人はその足を門の方へと向ける…その様相を見ながら、私は扉の脇へと退き…彼等へ紡ぐ。
「――〝私は君達を助けない〟…留意しておき給えよ?」
私の言葉に、彼等は微かに首肯し…そして、遂に門の先…宇宙の混沌へと消えて行く…ソレを見送ると…私は閉じ行く門を背に…字波君等へ言う。
「さぁ諸君!…我々も仕事に勤しもうではないか!……〝観測者〟として、ね♪」
○●○●○●
宇宙が私を覆い尽くす…右も宇宙、左も宇宙、後ろも前も、上も下も何処もかしこも宇宙ばかり…。
否…〝宇宙の様なモノ〟なのだろう、恐らくは…便宜上〝宇宙〟の色彩を為しているだけで、実際はただの〝風景〟なのだと…僕の脳はそう結論を付けた。
そして、宇宙模様を見ていたその時…突如、俺の身体に何か〝指向性〟の様な物を宿した〝引力〟が張り付き、俺を運ぶ。
ソレはさながら、星の海を泳ぐ魚の様に…無数の星を前から後ろへと押し退けて…私は流れるままに突き進む…。
そして、その〝指向性〟の向かう先を、私は見た…ソレは〝泡沫〟だった。
眩い淡い光…其処に映るのは〝荒野の荒れ地〟と…其処で膝を突く〝巨人の残骸〟…その姿を認識したその時――。
――ヒュオォォォォッ――
気が付けば…私達の頬を、乾いた温かい風が撫でていた…辺り一面草原の緑も無く…ただ、風化した人の残骸が〝戦場〟に散らばり、その乾いた肉と落ち窪んだ瞳が不気味に己等を見ている様な気がする……けれど、其れ等は些事な事だろう。
――……――
今眼の前に〝居る〟…土塊の巨人に比べれば……その巨人は、まるで電池を抜かれたロボットの様に膝を突き合わせ、脱力し…沈黙していた…しかし、その次の瞬間…巨人の顔が上がり、視線が此方へ向くと――。
『―――ッ!』
その巨人の〝空洞の眼〟と目が有った…その瞬間。
――キュィィィンッ――
何の冗長も何も無く、巨人はその瞳に魔力を収束させ…狙いを定める。
「――月人君!」
「ッ――〝穢無き大盾〟!」
その瞬間、菅野月人と春野椿が魔術を行使する…すると、己等を包む様に巨大な〝木の根〟が生え、その外側には淡く輝き、形を成さんとする〝防郭〟が根の隙間越しに見える。
(巨人の魔力投射には十数秒間の溜めが有る…!)
(投射後は魔力収集と放射システムの冷却に時間が掛かる…つまり――)
((狙うなら、其処!))
相手の動きから即座に次の一手を読んだ二人はそう言い…味方を守る〝盾〟としての一手を担うそれで、巨人の放つ魔力の光条は防ぎ切れる…筈だった…。
『――※※※※!!!!』
――ズドォッ――
だがソレは、その瞬間巨人が為したその光条は…未だ術式を構築中だった月人君の魔術を焼き潰し…その熱量と魔力の衝撃を、巨大な木の根の繭へ…と直撃させた…。
そして……。
――シュウゥゥゥッ――
荒野に立ち込めた巨大な粉塵が、風に流離い晴れてゆく…其処には、余りの熱量に硝子化した地面と、焼け焦げて黒くなった〝根〟…そして――。
「クソッ……馬鹿な…ッ!」
その熱に軽い火傷を負いながら…気を失い倒れ込んだままの少女を揺する青年の姿が有った…。




