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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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破滅を呼ぶ快楽

――バチィンッ――


「チィッ…フンッ!」

「ハハハッ、コレでも鍛えてるからねぇ!」


訓練場の中心で、巌根氷太郎君は氷の剣を振るい、そう叫ぶ…その剣のキレは魔術師と呼ぶには〝鋭く〟…その足運び、その視野、その技量から彼が凄まじい努力を積んできたのだと肌身に理解する。


――バキンッ――


「ッ――〝白凍ての剣〟――」


しかし、やはり〝未熟〟だ。


「――良いね、単純な武力、武器術の腕前は大人顔負けだ…手札の判断も悪く無い…そこそこの連中程度ならばさっきの槍だけでも十分だろう…」

「……クソ、参った…」


私は右手に隠し持っていた〝ナイフ〟を彼の首元に当て、彼へそう評価する…問題点は二つ程浮き彫りに成った。


「君の戦闘スタイルは〝鍛えた肉体〟と無数の〝氷の武器〟による手札の〝押し付け〟だね…槍で間合いを制し、相手の慣れと油断を縫って近接の剣、離れた相手には弓による射撃…相手は常に君の攻撃の切り替えを警戒しなければ成らないと言うプレッシャーに充てられるだろう…だが、君のそのスタイルを〝完全〟にするには〝武器の強度〟が足りないね」

「ッ……あぁ、分かってる」


私の言葉に氷太郎君は苦しい所を突かれたと言う風に顔を苦渋に染める…だがソレは恥ずべき所では無いのだ。


「単純に君の肉体に武器の強度が追い付いていないだけだ…ソレは憂慮すべき問題だが、裏を返せば其処さえ何とか出来れば君は〝無類の強さ〟を誇ると言う意味でもある…」


私はそう言い、彼へ一束の資料を渡す。


「君のスタイルへを確立する上での資料だよ、視た所君の魔術は魔力のムラが激しい…だから打ち合いの際に魔力の薄い部分に圧力が生じて砕けてしまう…だから、君の目下の目標は〝魔力の均一化〟だ…そして、此処からはその発展型…君の〝魔術〟を見て思った所を言おう…耳、貸し給え」

「お?…おう…」


そして、最後に…私は氷太郎君に〝とっておき〟を耳打ちする…その内容に氷太郎君は成る程と深く頷く。


「成る程な…分かった、一丁試してみるぜ」

「頑張り給え…それじゃあ次!…〝天道伊月〟君」

「はい!」


そうして、彼等彼女等の考えた〝戦い方〟を実践と共に分析し、其々の利点、難点、改善点を伝えて行き、今日の講義は終了したのだった…。




〜〜〜〜〜〜


「――さぁ!…それじゃあ楽しい〝解剖〟の時間と洒落込もうか!」

「な、何だよ此処は!?」


場所は変わって〝宝物庫〟…否、私の〝研究所〟の中にて、私は手術台に拘束した〝昨夜の不審者君〟を前にそう声を上げる。


「此処は私の研究所、君は私のモルモット!…以上で説明は終わりだよ、コレから君をバラバラにする、バラバラにして隅々まで調べ尽くして記録し、照合し、君に付着した〝謎〟を解明しようと思う!…その過程で君は死ぬだろうが、私を襲ったのが運の尽きだと諦め給え!」

「ふ、巫山戯んな!…テメェ、犯罪だぞ!?」


私の簡素な説明に、憤慨しながら動けない身体を必死に動かす彼はその目に明らかな焦りと恐怖を抱き、私を非難する…可笑しいねぇ。


「〝犯罪者〟が〝犯罪〟を否定するとは笑わせるねぇ…〝連続殺人鬼〟の〝灰沢匠〟君?」

「ッ――何で…!?」

「君をモルモットにする過程で君の事は調べ尽くしたさ…随分と多く殺したねぇ?…それも、将来に明るい少年少女…全部〝あの子達〟が教えてくれたよ」


私の言葉に彼は押し黙り、その目を震えさせる。


「テメェ、餓鬼どもの兄か何かか!?…復讐の…つもりか!?」

「ハッハッハッ!…まさか!…私は無関係な研究者だよ…復讐肯定派だがね?……なぁに、ただの巡り合わせさ、偶然夜道に君が来た、君が私を殺そうとした、だから逆に無力化してモルモットにしようとしているだけさ!…いやぁ、君は興味深いサンプルだからね、隅々まで調べたい、でもソレをすれば人は死ぬ…でも、良心すら欠片もない罪人悪人なら、何の良心の呵責も無く調べ潰せるだろう?…だからほら、どうせ死んで地獄に逝くならせめて人類の役に立って死に給えよ!」


私はそう言い、彼の口を 塞ぐ…途中、「待て、何でも話す!」とか言っていた気がするが無視しよう。


「君は所詮実験用モルモットだろうから大した情報も無いだろう…寧ろ貴重なサンプルが〝契約違反〟の効力で台無しになる方が困る」


恐らく彼は何らかの組織の〝実験台〟…使い捨てだからこそ、〝契約〟で縛っている筈だ。


「先ずは君の肉体データを取ろう!…血を採取し、肉を削り、骨を抜き取って細かく分析してみようか…」


そうして、彼の身体にメスを入れる…ふむ、身体は健康体か…生きた血に、鼓動、脈拍…。


「骨は…肋骨を一本と脊椎から軽く削って、髄液も少し頂戴しよう…さて、後は血液サンプルを検査機に掛けて……っと」


――ピピッ――


「お?…速いね…〝狡知〟読み上げてくれ」

『了解……お?…成る程成る程…〝血液内の赤血球に異常有り〟…〝赤血球〟が異常に生成されてる様だ』

「ふむ…続けて……〝記憶〟…〝薬物〟系の資料から類似する症例の物を探してくれ」

『心得た』


私は眼の前のモルモットを分解しながら、私の〝霊体分身〟…老人姿の〝狡知〟と、女体姿の〝記憶〟から情報を受け取る。


『他には、魔力系だな〝魔力回路〟に異常が有る…魔術回路に必要な〝出力系〟が壊されている、出力調整すら出来ずに生成された魔術を垂れ流してる様な感じだ…後、本来の魔力量からかなり〝増強〟されてるらしい…具体的には本体の魔力量に届く程度、ざっと〝20倍〟は増強されてるね…元の魔術回路の出力管が小さいからか、壊れても直ぐに死ぬ事は無いだろうが…増強効果が切れたなら〝生命力〟を魔力に変換して死ぬだろうな』

「ッ〜〜〜〜!?」

『後は魂魄データ…おぉ、凄いな…被験体の魂魄はほぼ虫食いだ、穴開きチーズ何て目じゃないぞ、まだ意識が保てていたのが不思議な位だ』

『〝赤血球の異常生成〟、〝魔力出力管の破壊〟、〝魂魄の魔力変換〟…そして、〝薬物系〟となれば――』


――パサッ――


『コレだね……〝欺瞞の禁薬〟…紀元前の…今から2600年前に流行した〝禁薬〟…コレはその劣化版だが効果と製造方法は大体同じだ…必要な物は〝妖魔及び魔物の血〟、〝アラビアチャノキ〟、〝人骨の粉末〟…血を濃縮し、抽出したアラビアチャノキの毒薬に骨粉を混ぜて練り制作された薬物…服用すれば〝極度の多幸感と一時的な魔力の増加、身体能力の強化〟…元は〝魔術師の活性化剤〟として用いられた物だったが、その丸薬を接種した魔術師は皆数カ月後に魔力が枯れ果て、魂を食い潰して死んでしまった…それ以降は禁薬に指定され、その情報はソレの流行地点だったサバア国を中心に広まったとされている…何れにせよ危険な薬物だ』

「成る程…どれも現代なら容易く入手出来る代物だね」


程度の低い妖魔達の血肉なら裏社会でも流通しているだろう。


「偶然発見したにしても、ソレを量産しようとしてるのは確かだ…ふむ、字波君の定例会議は確か〝1週間後〟だったかな?」


タイミング的には丁度良いね。


「此処は一つ、〝正体不明〟の株上げとしようかな♪」


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