研究畑と苦労人
――カチャッ――
「――よしよ〜し…後は〝この子〟を発芽させて…ククククッ♪」
「『朝から昼間で部屋に籠もりっきりだと思ったら…次は一体何を仕出かしたんだ孝宏?』」
「オイオイ…何を仕出かしたとは随分な言い草だなアル…私がそんなマッドサイエンティストに見えるのか?」
「『日常的に部屋を吹き飛ばし、道行く童共に試作薬品を飲ませ、好き勝手に学園の動植物を実験に使う人間が〝健全な学者〟と言えるのか?』」
「――そんな事はどうでも良い、来給えアルッ…私は今、昨今の社会問題として延々と農家達を悩ませる〝難問〟を解決するに至ったぞ!」
私がそう言い、今し方弄っていた〝プランター〟を指差してそう言うと…アルは渋々と言う風にプランターへ疑わしげな目を向ける…すると。
――グググググッ――
プランターの土が盛り上がり…その頭部に若葉を生やした何処か気の抜ける顔を持つ〝土人形〟が起き上がって私を見る。
「popopo?」
そして、私が〝主〟で有ると認識したソレは…私の前にトテトテと歩み寄ると首を傾げる様に私を見て、〝命令〟を待つ。
「『……何だソレは?』」
そんな彼へ、奇妙なモノを見る様な視線を向けながら…アルは私へ問う…クックックッ、流石我が第一助手、話題の振り方が上手くなったじゃないか…!
「コレこそ、全世界の農耕における死活問題!…〝人手不足〟を補う為の〝自動人形〟!……名付けて〝農場の巨人〟だとも!」
む、何だただのゴーレムか…と思ったね!?……甘い、甘いよ〝アル〟…その考えはサトウキビの様に甘い!
「従来の〝ゴーレム〟技術に求められるのは〝ゴーレム〟の戦闘性能だった…全く嘆かわしい!…本来のゴーレムの真価は〝単純作業〟の代替だったと言うのに、〝警護〟?、〝戦闘〟?…馬鹿馬鹿しいッ…人間は全く、〝採掘用爆薬〟から学んでいないと、冷笑的批判を下さずには居られないな!」
だがこの超新星たる〝種の子〟は違うッ…〝完全農耕用〟なのだよ。
「〝魔術球体〟を改良し、〝魔術回路〟と〝日光変換炉〟を核とした〝完全自立学習型〟…〝土塊〟のみを素体に構成された身体は、大地に深い親和性を持ち、一定範囲の地形を変化可能、コレにより重機や魔術で行われていた膨大な大地の耕作を〝この子〟1機で賄える!」
無論、それだけでは無い…寧ろこの子の真価は此処からだ…。
「〝地質情報〟を解析し、〝主〟のオーダーする作物に適した〝地質〟へと大地を育てる〝地質研究形態〟、作物を二十四時間見守り、虫害、病害、〝野菜泥棒〟を処理する〝作物守護〟…コレにより丹精込めて作られた作物を盗まれる心配も無い!」
フハハハッ、凄かろう素晴らしかろうッ…コレは正しくノーベル賞ものだろう!
「『……ソレこそ、何れ複製して戦闘用に作り変える輩が居そうだがな…』」
「かつてのアインシュタインの様な真似はさせんとも…この子達には〝論理コード〟を刻んでいる、例え主の命令だろうと〝殺人、殺害〟…〝兵器〟としての運用にブレーキが掛かるようにしているさ…解析?…論理コードの書き換え?…した所で無駄な努力だよ…この子の根幹には論理コード以外の〝安全機能〟を備えている…この安全機能無しにはこの子達は動けない、加えて術式は私が考案した〝独自言語〟を用いている…この子達の作り方を知っているのは私と、世界でたった〝一基〟の〝魔導核製造機〟だけだ…」
そしてその製造機も私の〝工房〟に有る…手抜かり無くセキュリティを固めているとも…!…。
「手始めに100機…1つ辺り100万で売ってみようか……と、その前に…先ずは君の〝名前〟を付けようか」
そんな風に、一人熱くなっていると…私の肩に乗っていた彼が私へ水を差し出してくる。
「〝popopo?〟」
「ん?…何を言うのかね、識別名は大事だよ、それは君が君と言う〝個体〟として存在する上で、必要不可欠な物だ」
そんな彼の若葉を撫でながら…私が彼の名前を考えていると…ふと、私は自身の研究室に迫る…凄まじい怒気と魔力を放つ〝彼女〟の気配を感じて視線を扉へ向ける…すると。
――バアァァンッ――
「孝宏!!!…〝説明しなさい〟!!!」
扉が勢い良く開け放たれ、開かれた扉の枠一杯に憤懣を纏った字波君が私へそう言の葉を紡いだ……はて。
「説明?…何のだね字波君?…私は今朝から今まで此処に籠もりっきりだったんだよ?…外界のアレコレ等知る由もないんだ…説明しろと言われても、何を説明したら良いのか分からないよ」
私がそう言うも、尚も字波君は鋭い視線を私に投げ付ける…その目には若干疲労の色が見えている…どうやら、彼女でさえ一筋縄では行かない様だ……となれば。
「………ハァ…成る程〝連中〟か…確かに〝今日〟を予定していたね…オーケー字波君、思い出した…後の事は私が処理しよう」
私は自身の脳内に記憶した〝予定〟を掘り起こし…そして、想定していた〝トラブル〟が現実のものと成った事に溜息を吐きながら、彼女へそう言う。
「それよりも説明なさい!――何で〝土御門〟と〝巌根〟の当主と次期当主が揃って貴方に会いに来たのか、そして何で…あのお爺さんが此処に居るの!」
しかし字波君は、そんな私へ説明を求める様に詰め寄り、私を見下ろす…確かに、彼女にも説明は必要だろう。
「――……まぁ、ちょっとした野暮用でね…此処で話すのも状況解決には至らないだろう…良し、付いて来給え…向かいながら説明しよう……〝プラム〟…此処に居る〝先輩〟達の世話を頼むよ…何、見た目は怖いが皆良い子達だ…直ぐ仲良く慣れる…頼むよ?」
「〝popopopo!〟」
そして私は、己の肩に乗っていた小さな〝土人形〟…〝プラム〟を〝植物棚〟の上に降ろし…研究室を後にする。
「――あの可愛い子についても説明しなさい、後私にも一つ頂戴」
「はいはい…然りげ無く強かだね字波君」
その背後では、この部屋の新たな住民となった、―〝後輩〟が可愛らしく〝先輩〟達へ御辞儀し、彼等も可愛い後輩を歓迎し…戯れている和やかな空間が広がっていた……私も其処に居たかったよ…全く。




