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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第七章:神殺しへの道
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頂きに影二つ

――ヒュッ――

――キッ――


〝触れた〟…私の剣と雪斗君の剣が…振り向きざまに一撃、回り込んでの一刀…互いに最善の行動…そして、鍔迫り合いが始まる…そう思っていた。


――ゾッ――


「ッ――!」


しかし、瞬間私の身体に奔った〝警告〟に…私は剣から手を離し…その場を飛び退く…刹那。


――ヒュンッ――


振り抜かれた〝刃〟…その瞬間、鋼の刃は一瞬にして〝霜〟で覆われ…ソレばかりか斬り裂かれた〝空気〟でさえも凍り付き…放射状の〝氷像〟が〝舞台〟を飾る…。


「――ハッ♪」

「……」


何が起きたのか、〝斬り付けた〟だけだ…今の一連の動きに、先程と異なる点は無い…問題なのは〝あの刀〟だ…。


「――〝付与術〟…に、酷似しているが…成り立ちが違うね…〝物体に性質を纏わせる〟のが〝付与術〟の本領だ…だが、君のソレは違う…〝物体を核に装具を構築する〟…結果、〝付与術〟に近しい芸当が出来るように成った…と言った所かな」


私はそう言いながら、自身の腕に纏わりついた氷を払い彼を見る…すると彼は頷き、口を開く…


「その通りだ…そして、こんな芸当も出来るぞ――!」


そう言ったその瞬間…彼は刀を納刀し…その身を屈める……その構えは、剣術に於ける居合の様な構えだったが…次の瞬間…その剣術は剣術を超越し――。


――ヒュヒュヒュヒュンッ――


〝魔術の領域〟に脚を踏み入れた…。


「〝霜風の乱刃〟」


居合から抜刀…端から見ればソレはただの抜刀に見えた事だろう…だが、私の目は捉えていた…彼があの一瞬で成した神業…〝舞踊の様な無数の剣撃〟を…その瞬間。


――ズガガガガガッ――


道に生え並んだ〝氷像〟を切り裂き、私へと無数の〝氷刃の名残り〟が牙を剥く。


「――空気を〝斬り付け〟、〝凍らせる〟…音速の斬撃は空気の氷結を追い越し…連鎖した空気の刃が生まれる」


――ガガガガッ――


「並の〝出力〟ではこうも上手く行かないね…高密度の〝氷の魔力〟と、並外れた〝剣の技量〟…両立して初めて為し得る〝技〟……言っちゃ何だが〝変態〟だね雪斗君?」


その牙を砕き折りながら…私は雪斗君の言葉に耳を傾けそう返す。


「一撃一撃が即死級…加えて戦闘技術は一流以上…コレでまだ20代なのが末恐ろしい」


此処から後四、五十年…一体どんな化物に成っているか想像も出来ないねぇ……――。


「――だがやはり、まだまだ〝青い〟な雪斗君」


またも開いた〝間合い〟…ジワリジワリとその距離が縮まる中で、私は目の前の雪斗君へそう告げる。


「――ほう?…私が〝しくじった〟と?」


すると、彼の足が止まり…彼は訝しむ様に私へそう紡ぐ。


「そうだとも、君はしくじったよ…致命的な迄にね?……隔絶した技術…極限にまで無駄を削ぎ落とした〝至高の魔術〟…その力は絶大で…並の術師では太刀打ちすら出来まい…私でさえ、おいそれと近付く事は出来ない程だ」


嗚呼…行けないよ、その〝選択〟は悪手だ雪斗君。


「――ソレ故に、君は〝油断〟した…無意識の油断…絶対強者の持つ〝慢心〟…君はしくじった…雪斗君……君はソレを使ったその刹那に――」


相手の言葉に意識を取られては行けないよ。


――キィィィンッ――


「〝私の首を刎ねる〟べきだったのだよ」


私はそう言い、己の手に…新たに〝錬成〟した〝鋼の剣〟を握り…横に構える…そして。


『〝解析完了〟、〝術式複写〟…〝起動〟…〝魔力収集〟及び〝性質変換〟開始』


「――〝炎装〟――〝紅蓮〟」


その瞬間……鋼の剣に…煮え上がる程の〝赤熱〟が奔った……。



●○●○●○


「〝完成された術式〟と言うのは、有る意味で〝諸刃の剣〟だ…その理由は――」


私は見ていた…目の前の男の…その〝術〟を…否、〝魅入っていた〟…。


恐らくは、〝皆〟…その男の佇まいに、その手の〝術式〟に目を奪われていた筈だ…何故ならば――。


「〝リソース〟さえ賄えれば、術式を模倣する事等、難しく無いからだ」


――コオォォォォッ――


その手には、正に〝焔の剣〟とも言える程の…凄まじい高熱を放つ〝赤い剣〟が握られていたのだから…。


「私の…術式を」

「その通り…〝極めて無駄の無い術式〟だ…ソレ故に〝解析も容易〟だった」


気が付けば、彼は私の数歩先に居た…その手には〝紅蓮の剣〟を持ち…熱気と冷気の衝突が私達の足元に霧を生む…。


「決着は――」

「――〝此処で決まる〟…そうだね?」


固唾を呑んで、皆が魅入る…私でさえ、思わず気圧される…ソレほどまでに、この場の〝緊張〟は…最高潮にまで満ちていた……そして。


――「「ッ―――!」」――


全く同時に、私と孝宏は…その剣を振るった―――。



○●○●○●


ソレは正しく〝決戦〟に相応しい戦いだった…凄まじい〝魔力〟の衝突…氷が炎を包み、炎が氷を食らう戦い…二つの剣は互いに衝突し、火花と蒸気を噴出させながら、その剣戟を加速させていく…。


やがて剣戟は、〝光の軌跡〟へと変わり赤と青がせめぎ合い…周囲に〝氷と炎の大地〟と言う相反する性質の世界が広がる…。


そして、ソレを成す二人の〝怪物〟は、己の腕が焼け焦げるのを、己の腕が凍り付く事も厭わず…その力を増幅させる…。


「フフッ、フハッフハハハッ!」

「アハッ、アハッハッ、アッハッハッハッ!」

「「アッハッハッハッハッハッ!!!!」」


二つの笑い声が、戦場に響く……半ば狂気を帯びたその笑い声に比例して…その霧はどんどんと量を増し…やがて遂に、二人の姿を覆い隠す……その瞬間。


――ブワッ――


二つの相反する〝魔力〟が…霧の奥底で一際大きく〝膨れ上がった〟……そして、ソレこそが――。


――ギィィィンッ!――


この〝勝負〟の終着を告げる鐘と成った……。

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