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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第七章:神殺しへの道
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冷たい身体に熱き心臓

――コトッ――


「――うぅむ…酷い目に遭った…急に殴るんじゃないよアル、アレが暴発したらこの屋敷諸共木っ端微塵だったよ?」

「兄貴もだぜ…ったく…後もうちょっとで完成だったのによぉ…」


私達はそう言いながら、頭に生えたコブを押し戻し、折檻する一人と一匹にぶーたれる…が一人と一匹、コレを華麗に無視…。


「――まぁ、我々にも否が有る事は疑いようが無い…〝ちょっと便利な術〟を作ろうとして少し熱が入り過ぎた…」

「何がどうして〝洗濯魔術〟が〝あの規模〟に成るのだ…」

「『此奴は阿呆なのだ雪斗よ…頭脳を悪用する事に掛けては世界一よ』」

「いやぁそれ程でも「『褒めとらんわ戯けッ!』」」


そうして私に飛び乗ったアルの肉球攻擊が私の頭をテシテシと殴っていると…ふと、私の書き記した〝魔術式〟を眺めている壮年の彼へ目が留まる。


「――成る程…家の〝地脈〟を利用して…具象化と類感か…我々のやり方とは違うが…中々…」

「――良かったら上げるよ〝ソレ〟?…構想そのものはもう脳内で完成してるからね、其処から君達で〝変質〟させるのも、コレを〝完成〟させるのも…好きにすると良い」


私がそう言うと、彼はその資料を丁寧に丸め、懐へと仕舞う…さて。


「それじゃあ、早速本題に入ろうか」


私がそう言うと、彼等も漸く茶番を止めて私へと視線を向ける…。


「単刀直入に要求を告げよう…〝巌根氷太郎〟君を、〝1ヶ月〟の間借りたい」


その言葉に少しの間静寂が満ち…私含め3人の視線は壮年の男…彼等の父親へと向けられる。


「……〝強化合宿〟…其の為と聞いているが」


その視線の中で、彼はそう言葉を繰り出す、その問いに私は軽く頷き簡潔に説明する。


「――その通り、彼含めて〝六人〟がこの合宿に参加予定だ…其の為にこうして、保護者の方々へ交渉しているのが現状だね」


そうすると、また少しの静寂が我々を包み…当主の彼は再び口を開いた…。


「試みは悪く無い…氷太郎がより魔術師として成長するなら、親として、一魔術師としても拒否する理由は無い……だが」

「――〝私が信用に足る人物〟なのか…ソレが〝分からない〟以上…首を縦には触れない…だね?」


その言葉を聞き、私は彼の言葉の先を汲み取り問い返すと…彼は躊躇うこと無く頷き、私へ猜疑を抱いていると告白する。


「そうだ…貴殿が学園の講師で有り、素晴らしい経歴を持っている事は知っている…魔術師としても一流以上と言うのは先程の事で良く理解した…問題は――」

「私の〝内面〟…つまりは〝人格的な信用性〟の話だね…如何に優秀だろうと、倫理を心得ない輩に身内を預けるのは不安だ……成る程、当然の理由だ」


コレそのものは当然心得ている〝問題〟だ…だからこそ私は、彼へ口門を開く。


「――そうで有るならば、当主殿よ…私が君達にとって信用出来る〝人物〟と言う評価を得る為には何をすれば良い…何をしなければ成らない?」


此処で食い下がっては行けない…何故ならば、我々の〝目的〟には〝彼等〟の助力は必須…何としても氷太郎君を〝合宿〟に連れて行かねば成らないのだ。


「君達は、私に何を〝求める〟?」


その問いは恐らく…彼等へ微かながらも〝圧〟を掛けていたのだろう…沈黙の中、彼等は私の視線に釘付けに成る。


皆がどう答えるか、一考するその最中…一番先に口火を切ったのは―――〝氷太郎〟君だった。


「――何で親父も兄貴もそんなに〝悩んでんだ〟?」

「「ッ……」」


その、心底不思議そうな…怪訝そうな物言いに彼等の注意が彼へ向く。


「――要は〝親父達〟を納得させりゃ良いんだろ?…なら簡単じゃねぇか」

「ほぉ?…〝妙案〟が有るのかね氷太郎君?」


そんな彼へ、私も視線を移して彼へ問い掛けると…彼はその顔を勝ち気な笑みに変えて私を見る。


「そりゃあな……〝兄貴〟と〝先生〟が戦えば良いんだよ」

「………何?」


そしてその口から紡がれたのは…私の予想の斜め上を行く解法だった。


「「……確かにな」」

「だろ?」

「イヤイヤイヤ、待って欲しい…何がどうして納得出来るんだね、信用を求めて戦えと言う結論に至るのも可笑しいだろう!?」


結実君の祖父もそうだが、何故私の生徒達の保護者は変わり者が多いんだ…。


「――まぁ、面倒な事は考えねぇで良いんじゃねぇか先生…単純な話だろ、アンタが兄貴に勝ちゃ、誰もアンタのやり方に文句は言わねぇ……それだけの話だぜ?」

「話がシンプルに纏まったのは構わないがねぇ…流石にこうまで点と点が繋がらないと学者としては気になるのだが……」

「まぁまぁ…〝武人〟ってのはそう言う生き物だぜ先生」

「それでどう納得するんだね……」


神妙な空気から一点…何処か気の抜ける様な話の展開に思わずそう溜息が漏れ出し…氷太郎君の言葉に私はそう返す……その間にも二人は納得した様に立ち上がり、屋敷の全人間へ指示が飛ぶ…すると、あれよあれよと言う間に…事の仔細が全員の耳へと届き――。



――シャンッ――


「――それでは、只今より〝不身孝宏〟、〝巌根雪斗〟…両名による〝立ち会い〟の開始を宣言します!」


審判兼、〝進行役〟の彼が鈴の付いた軍配を振り…私と雪斗君を見守る〝巌根衆〟へと宣言する。


「両名、前へ!」

「………」

「………ふぅむ…」


そして、その進行に伴い…私と雪斗君は互いに歩を進め、所定の位置で立ち止まり、相対する…。


「結局こうなるのか…全く…」

「済まないな孝宏殿…しかし、実を言えば…少し〝嬉しい〟ぞ私は…何時か貴殿と矛を交えてみたいと思っていたのでな」

「そう言われて悪い気しないがね…それでも、こうも血の気の多い連中と関わりが有ると少しは嘆きたくなるよ」


そしていつの間にやら、進行役が場の空気を盛り上げ…我々の周囲に凄まじい闘志の円が出来ているのを、我々は肌身に感じながら…互いに得物を握る……そして。


「それでは―――〝試合開始〟ィッ!!!」


その宣言と共に…我々の戦いは幕を開けたのだった……。

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