空想論
「――擬似的な〝肉体の構築〟だ…魔力濃度と、その残存性から見て間違い無い…彼等は現世で活動するに辺り、高密度の魔力によって構築した肉体に〝擬似的な受肉〟を行い…今まで陰で暗躍して来たのだと考える…我々が宇宙へ行くのに宇宙服を着る様なモノだよ」
使い終わった肉体は不要物だ、そのまま脱ぎ捨てて魂は居城へ帰還する…結果、残された〝魔力体〟はその場に留まり続け…次第に魔力へと還るのだろう。
「――では、その〝目的〟とはなんぞや?…彼等が神代、遥か数百万年も昔から〝現代〟しぶとく生き続けた理由は?…彼等が仮に〝神〟ならば、その目的は明白だ」
何故ならば彼等は嘗て〝繁栄〟を極めた〝神々〟で在ったからだ…滅びも、運命も、何もかもを己等が定めていた存在で在ったからだ…推し量るに難しくない。
「〝神代回帰〟――〝神々の時代〟を一から〝再創す〟事だ…二度と己等の奴隷たる人間が神々に反旗を翻す事の無いように…今の人類を皆殺しにし、遍く生命を手中に納め…〝世界を巻き戻す〟…〝神獣〟を狙った理由付けとしては、中々〝らしい〟だろう?」
私がそう、何処までも証明の出来ない〝空想論〟を語っていると…ふと、翔太君が私の説に否を唱える。
「――孝宏、お前の言いたい事はまぁ理解はするがよ…仮にそうだとして可笑しい点がねぇか?」
「――聞こうか」
その意見に私は耳を傾け、翔太君の言葉を待つ…その異論とは――。
「なら何故…〝ソイツ等〟は直ぐに〝侵略〟を始めない?」
「……ふむ」
「――だってそうだろ、彼奴等の目的は飽く迄も〝世界の再創造〟だと言うのなら、手当たり次第に〝人間〟を殺して回れば良かったろ…しかも今…こうして脅威を把握した〝俺達〟がこうして対策を練ろうとしているんだ…普通止めに来ると思うんだがな」
それは尤もらしい意見だ、確かにこの説明だけではその点に関しての証明が出来ていない。
「――現代に於ける〝魔術〟と、神代に於ける〝魔術〟…その違いが何か、分かるかね?」
翔太君の言葉の後、私は彼等の視線を受けながらそう〝問う〟…。
「?――えぇ、それはまぁ…〝神秘〟の規模の違いやね」
その唐突な問い掛けに、彼等は小首を傾げ…そして、〝妖魁〟がその問いに答えを告げる。
「その通り、魔術に於ける〝神秘〟とは即ち〝未知〟だ…未知と言う〝不確定要素〟が魔術に於いて強力な作用を生む…裏を返せば、〝神秘〟の可否に応じて、その術式の規模は上下する……ソレが〝神代魔術〟と旧式の現代魔術の持つ性質だった」
ソレに私は首肯し、彼女の簡素な答えから、より専門的な構造の話へと移行する。
「……それで?…勿体振らず答えなさい」
すると、〝蛇妃〟が私の言葉を遮るように…先の答えをせっつく…どうやら、彼も彼女も私が質問に対して異なる話題で話を逸らそうとしていると考えているらしい…しかし安心して欲しい。
「――〝神代魔術〟と〝現代魔術〟…その性質の差異とはつまり〝神秘の縮小〟だ…翔太君の説明に対する答えはコレで用意出来る……が、敢えて此処で君達に〝問題〟を出そう……〝神々の出現〟…〝神代〟から〝科学時代〟、〝科学時代〟から〝魔術時代〟へと移ろった世界…その中で現れた〝神々〟ないしは〝神を名乗る者達〟…その出現の条件とは何かね」
私はそう言い、退屈な会議室に多少の娯楽を提供する…しかし、流石は名だたる日本最優の魔術師達…その明晰な頭脳は即座に単純な謎掛けを紐解いた。
「――……〝魔術の発展〟?」
「――GOODだ〝苺〟君…かなり近くを突いたね…答えは〝魔術の常識化〟だ、それに伴い増加する〝魔術師人口〟と〝妖魔〟、〝魔物〟と言う〝非科学〟の増加…つまりは〝先細るだけ〟だった〝魔術〟…〝神秘〟が、時代の転換によって息を吹き返した事だ…分かるかね、この意味が」
分からずとも構うまい、コレから嫌と言う程教え、そしてその脳髄に理解させるのだから。
「――〝一度〟…〝神々は終焉を迎えた〟…それは達観の末か、不本意の果てかは置いておくとしてだ…一度、神々は〝神秘〟に見切りを付けた人々によって終焉を迎えた…人々が〝神の下僕〟から〝自由の民〟へと転ずる事によって…神々の恩寵を、〝科学〟と言う自身等の常識に当て嵌める〝神秘の解体〟と言うやり方で成し遂げた…神秘の薄れた世界では、神々はその存在を維持出来ずに消え去るしかなかった……或いは滅び、或いは眠り、或いは彼方へと逃げ…そうしてこの〝世界〟は私達の時代と成った…だが」
それだけで終わればこうなってない…そして、神々とはそう後進に喜び勇んで地位を譲る程〝理性的〟では無い。
「――此処で、〝逃げ延びた神々〟は企んだ…〝嘗ての栄光を取り戻す〟事を…有り得ない?…何故?…〝神々の精神が子供と同レベル〟なのは汎ゆる歴史が証明している、不貞に淫蕩、嫉妬、怠惰…人間の殺害数だけなら〝悪魔以上〟だろう…そんな連中が嘗ての〝奴隷〟に地位を奪われ黙ってる訳が無いだろう?」
そして、仮に〝神々の企み〟が真実ならば…同時にもう一つの〝問題〟の意味も透けて見える。
「〝夜門〟…世界が魔術文明へと移ろい、突如発生した〝災害〟…コレが偶発的な物で無い事は分かっていた…〝何故〟…〝収縮し濃縮された瘴気〟の塊が突如、〝領域〟を展開し〝拡大〟するのか?…其れ等を〝自然災害〟と捉えるには余りにも〝人工的〟過ぎる…今の今まで、私はこの問題に対する答えを〝出せなかった〟…だが漸く、相手の存在が私の想定と違わぬなら漸く、その答えに解は出る」
それは他ならぬ大地創りたもう神の〝細工〟だ。
「或いは〝実験〟…試作品が世界を飲み込み、世界を滅ぼしたならそれで良し、失敗してもそれはそれで〝改良〟の余地が分かる…彼等はね、何百何千、何万年の時を経て〝学んだ〟んだよ」
根底は変わらずとも、性質はより厄介に変化した…フフフッ。
「――実に、面白い〝展開〟じゃないかね?」
私は謳い、私は紡ぐ…空想に過ぎない憶測を、さも現実の物と言うように…そして改めて彼等へ問い掛けるがしかし…私の問いに、答える声は1つと飛び出す事は無かった。




