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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第六章:忘れ去られし者達の復讐
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夕暮れに盗人と獣の王


「――アッハッハッ、コラコラ、止めなさい擽ったい!」


夕暮れに、そんな声が響く…心の底から擽ったいと言う様な、〝戯れる〟様な声で。


「カァ?…」

「全く…君達も本当容赦無いねぇ…いや、確かに私の今の形を見て〝そう思う〟事は否定しないがね?」


そう言うと、声の主は鴉達へそう言い…ふと、視線を〝移す〟…其処には、一人の〝少年〟が居た。


「……ぁ…ぁあ…」

「おや…感心しないなぁ少年…もうすぐ〝夜〟が来る…少しはマシに成ったと言えど、まだまだ夜は〝危険〟だよ?…早く家に帰り給え」


其処に居たのはただの少年だった、純朴で、小生意気で、憎たらしく、無邪気な…〝普通〟の…魔術等欠片も知り得ない〝普通の少年〟だった…。


「――ソレはそうと、悪いが少年…少しだけ〝頼み〟を聞いて欲しいんだが…君――」


そんな〝無垢な生命〟にとって、その光景はどれだけの〝衝撃〟を与えたろうか……。


「――〝私の目玉〟…その辺に転がってないかな?…いやね、実はさっき〝助手〟にも頼んだんだがね、蹴飛ばされてしまってね、その辺に飛んで行ったと思うんだけど…ほら、私は今この通りの有り様だろう?」


身長160センチ、体重55キロ前後の男性の身体がグチャグチャの挽肉状態な上、御丁寧にも頭だけは綺麗に残された挙げ句、鴉達に啄まれていると言う…ショッキング映像どころじゃないホラーな光景…私が彼の立場ならオムツの心配をするね。


「わ、ワァァァァァ!?!?!?」

「気を付けて帰りなよ〜!」


……さて、誤解しないで欲しい…私だって好き好んでこんな格好をしているんじゃない。


「〝悪趣味な呪い〟だねぇ全く…」


いやはや、まさか強襲された挙げ句に〝カタチを盗られ〟…嫌がらせの様に〝汎ゆる治癒を受け付けない呪い〟何て物を掛けてくるとは。


(――しかし、困った事に成ったねぇ…〝確定〟したのは良いが、〝動き〟が早過ぎる)


表裏で異なる〝考え〟を吐き出しながら…私は〝向こう〟に感じる〝魔力の重圧〟を見て…思考を加速させる。


「――取り敢えず、相手の〝標的〟は確かだ…今は〝最悪の回避〟に労を割こうか」


そして、そう決めると…私は、其の為に先ずしなければならない優先事項を手掛けるのだった。


「――先ずはこの面倒な〝呪詛〟をどうにかしないとね」



○●○●○●



「――何故だ?…何故気付いた人間?」

「「そりゃあ勿論―」」

「――敵に答える義理は無いな」


馬鹿正直に眼の前の敵の問いに答える二人の言葉を奪い、(菅野月人)は眼の前の〝ソレ〟を視る。


(何だ、コイツ……〝模倣(ドッペルゲンガー)〟?…〝姿写し(リフレクター)〟の類か?)


形を真似、騙す妖魔は珍しくない…特に海外ではその性質を持った妖魔が日本よりも多いと聞く…人口の絶対数の多さに起因しているとされる〝ドッペルゲンガーの諸説〟に基づく因果の補強がこういった類の魔物を増やしているのだろう…だが。


(コイツ…〝魔物〟か?)


拭い切れぬ違和感に、菅野月人は追撃を止めた…その目には相手の姿、〝恩師に瓜二つな似姿〟が納められて居るが…〝能力〟を行使しているにも関わらず、月人にはその〝魔力〟の放出が〝感じ取れなかった〟のだ。


「……気に食わんな、お前達…」

『ッ!?』


その瞬間、模倣された孝宏がそう言い不機嫌そうに眉間に皺を寄せる…瞬間僕達をじっとりと、覆う気味の悪い粘着質な〝視線〟に悪寒が走り…氷太郎と結実が、また相手に刃を振るおうと駆けようとする…だが。


――ヒュルッ、シュルシュルシュルッ――


「『止めろ〝貴様等〟!』」


間一髪で、二人を〝メアリスの使い魔〟が抑え込み…二人をその場に留める、それだけに留まらず使い魔の〝触毛〟は僕に、椿に、九音にも伸び…僕達をメアリスの元へと引き寄せ…結界へと放り込む。


「ッファゴット!」

「『此奴は貴様等程度が相手取れる〝存在〟では無い…〝格〟が違う』」


そしてそう言うと、使い魔はメアリスを一瞥し…僕達を護る様に背を向け…結界を閉ざした…。



●○●○●○



「ほう…流石腐っても〝万智の眼〟を保有する〝獣〟…我が〝本質〟を見抜くか」


我を見ながら、〝ソレ〟はそう言い〝笑う〟…。


「ならば、貴様に問おうか…〝我が軍門に下り〟…我等が〝世界〟の成就に手を貸せ…貴様にはその〝資格〟が有る」

「『その〝身体〟の本来の持ち主はどうしている…そう簡単に殺られる〝タマ〟では無かろう』」


ソレに対して、我はそう問うと…〝ソレ〟は面倒な物を思い出したのか、不機嫌に成りながら紡ぐ。


「嗚呼、あの〝半端〟か…〝生きている〟ぞ…不愉快にも我等の計画を邪魔しようとする異分子だ…排除しようとしたが、妙にしぶといのでな…少し手間だが、〝動きを封じた〟」

「『殺せなかったのか…惜しいな』」


我がそう言うと、〝ソレ〟は頷き、我へと語り掛ける。


「嗚呼…だが身体は壊した……後は貴様の力さえ有れば〝殺せる〟だろう…手を貸せ」


そして、私に背を向け…歩き出そうとしていたソレは…ふと足を止め、我を見て疑問を浮かべる。


「?……何をしている、アレを殺しに行くぞ早く来い」


その声は、まるで〝仲間を呼ぶ〟かの様に気安く〝我を呼ぶ〟…成る程、どうやらアレは我を仲間と思っているらしい。


「『――身の程を知れ〝下奴〟…〝貴様等〟と〝我〟が対等の立場だと?…アレを殺せもしない〝愚図〟が笑わせるな』」

「ッ――!?」


瞬間、ソレは己に迫る我の〝一薙ぎ〟で身体を分断され…吹き飛ばされる…直線上に飛んで行くソレは、既に〝我の描いた異界〟の中に引きずり込まれ、無人の〝廃街〟を破壊しながら吹き飛んで行き…残った下半身からは肉とも魔力とも判別のつかない〝不定の塊〟が動き、揺らめき…喪った身体を〝補填〟する。


「――成る程…今この場で殺されたいか〝家畜〟」

「『出来る物ならやって見せろ〝下奴の野盗〟』」


そして、その身体が〝直る〟と…ソレはそう言い…その瞳に〝見知った激情〟を纏いそう生意気にも吐き捨て…我の前に、不遜にも立っていた。

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