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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第六章:忘れ去られし者達の復讐
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血濡れ、穢れた教会

――ピピッピピピピッ――


アラームに似た不愉快な電子音が私の意識を表出させる…目覚めると其処は〝白亜の図書館〟…私の夢の〝加工物〟…その椅子に腰掛け、私は眼の前に並べられた無数の〝情報〟を一瞥し…見解を述べる。


「『――ふむふむふぅむ…やはりと言うべきか…〝解っていた〟と言うべきか…今回の事件は〝同一犯〟、或いは〝同一組織〟の犯行の様だ』」


懐かしきは我が夢…此処の所はめっきり来ることもなく、半ば〝記憶〟の庭として存在していた私の世界だが…どうやら順調に模様替えが進んでいるらしい。


「『――それはもう分かってる…〝全知〟…茶番をしに来た訳じゃ無い…結論を言って』」


まぁしかし、その当人はそんな模様替えを誇るでも自慢するでも無く…私に対して風当たりを強くして答えを急かしている訳だが。


「『〝情報の無い推測は推理を不確実な物にする〟…情報が完全に揃っていない理論は、ただの妄想と変わらない…其の為、私は彼等の狙いが何かを類推する事は出来ても、彼等の目的が何なのかは分からないよ…尤も、君も私と同じ結論に達していると思うのだがね』」


私の言葉にメモリアは鋭い視線を向ける、暗に早く答えろと言う意思表示だが…はて、私は其処まで彼等に嫌われる事をしたかね。


「……まぁ良い、それじゃあ早速〝推測〟の連鎖に付いて説明しよう」


私はそう言い、手元にある資料を取り出し…その1枚を先ずは置く。


「『自体が起きたのは〝教会〟…つまり相手は〝悪魔〟や〝悪魔憑き〟、〝悪魔崇拝者〟の類では無いのは確かだ…事実、其れ等が犯人ならどうやって〝教会〟に侵入出来たのか…特殊な事例でも無い限り〝悪魔〟が〝教会〟に出入りする事は出来ない…そうでなければ自身の身体を常に〝浄化〟にさらされグズグズに溶けて消えるからね…では、此処で問題に上がるのは何か、それは〝惨殺現場〟だ』」


そして次に、女子供、神父に修道女…敬虔な信徒で構築された〝醜悪な円〟を見て続ける。


「『――相手は〝悪魔〟では無い、しかしそのやり口は〝悪魔の所業〟だ、鬼畜外道と言える…テロか、ならばこんな行為をする必要は無い…下手な惨殺はテロの正当性を喪わせる…嗚呼いや、テロに正当が有るのかは甚だ疑問だが其処は良い…この惨殺死体が持つ〝意味〟は2つ…一つは〝愉快犯による享楽的悪趣味の戯れ〟』」

「『もう一つは?』」

「『――〝目的の誤認(ミスリード)〟を誘発させる為の偽装…コレだけの推測を踏まえるとやや後者に傾くものの、何方も悩ましい選択肢では有る…しかし、続いて得た情報から、私は完全に前者の選択肢を除外した…と言うよりは〝後者のついで〟に行われたと推測した』」


そうして私は三枚目の資料を重ねる…其処には無数の〝写真〟と、その祭壇に鎮座されていた無数の〝道具〟が映っていた。


「『〝聖人の槍の欠片〟、〝聖書の原典〟、〝天使の翼〟…飽く迄我々の中でそう伝えられている〝聖遺物〟の数々が盗難…恐らくはコレが本命だと私は睨んでいるよ』」

「『根拠は?』」

「『――血溜まりの位置から、彼等は死後少ししてから運ばれた…加えて、打ち据えた死体は死後何度も刺突された事…此等は〝犯人〟が目的の物を回収した後、去り際に思い付いたと考えられる…事実、時系列的に考えて最初に事が起きた〝アメリカ〟では、その特徴が見られ、次点、次々点の事件では其れ等の痕跡が無い』」

「『――前者の快楽殺人鬼の線は?』」

「『――なら盗みは働かない、殺人を目的に動く連中が態々足の付く聖遺物を盗る物かね』」


私はそう言い、しかしと付け加えて最初の惨殺現場を指差して言う。


「『聖遺物を盗むと言うだけなら、他にやりようは有る…昏倒、誘拐、記憶を弄る…穏便に済ませる方法は幾らでも有った…だが、当の犯人達は〝惨殺〟を選んだ……ソレを鑑みるに相手は…〝人間を軽視〟、或いは〝憎んでいる〟可能性が高い……ふむ…成る程、そうだ…確かにその可能性が有るなら〝解釈〟を拡げる必要が有るな、しかし有り得るか?…有り得無い事は無い…(ブツブツ)』」


私はそう言いながら、ふと浮かんだ〝この事件〟のもう一つの奇妙な点に関して閃き…説明を終えた後一人思考を重ねる…それに問い返すメモリアの言葉も聞き流しながら…。


「『――極狭い、枝分かれした枝の先程に狭く細い可能性だが、〝有り得なくは無い〟…良し、コレは後で試行しよう……と、言う訳でメモリア…先程述べた〝情報〟で以上だ…後は君達に調査を任せる…が、十中八九無駄に終わると考えた方が良い』」

「『犯人が分かったの?』」

「『いや、未だ漠然とした〝霞〟だよ…だが遠からず霞を瓶に詰めてやる事は出来るだろう…さて、目下優先される事はコレだけかな?』」

「『えぇそう………〝全知〟』」


そうして私は思考の試行を終え…一度その情報を記憶の片隅に押し遣ると…ふと〝記憶〟が何かを思い出したのか私へ問う。


「『?…何かな?』」

「『少し前から聞こうと思っていた…〝理知〟について』」

「『彼女について?…聞こうも何も…君と彼女に大した事はして無いよ、同じやり方で創り、放任し…自己の確立を補助した…それだけだ』」


その問いへの返答はしかし、どうやら〝記憶〟には納得が行かなかったらしい…彼女はその視線を鋭く尖らせて、私へ詰問する。


「『ならば何故、〝理知〟にお前の〝善性〟の多くを課した』」

「『ふむ……成る程〝ソレ〟か…確かに、そう言う意味では君達と彼女は違うね』」


その詰問に私は漸く理解が行き届き、メモリアの問いに正しく返す。


「『難しい話しでは無い…君達は決して〝善足り得ない〟からだ…と言うより、私の〝多く〟は決して〝善〟では無い…多くの場合〝中庸〟で在り、好悪を選り好まない…唯一つ〝理知〟を除きね』」


その影響だろう、彼彼女等〝心異体〟も似た成長を辿っているのは。


「『――無論、君達にも幾らかの〝善性〟が芽生えているのは知っている…其処は君達のベースと成った魂の影響だろう』」

「『――理知をこのまま放置しておくの?』」

「『無論そうだとも、大いに悩み、傷付き…良心の呵責に苛まれ、絶望するだろう…しかしソレは〝彼女〟にとって無駄には成らない…その果てが〝不身孝宏〟と言う存在との決別を意味したとしてもね』」


私はそう言い、眼の前の〝少女〟の感情の撹拌した視線を見つめながら…そう言い切る…。


「『おっと…そろそろ起床の時間だ……引き続き、調査は頼んだよメモリア?』」


そして、その言葉を最後に私の意識は強く引っ張られ――。



――ギィッ!――


「――アル、メアリスは何処へ?」

「『?…結実達と遊びに行ったな』」

「成る程、アル〝案内〟してくれ」

「『ミギャッ!?』」


目覚めると同時に、私はアルを引っ掴み…開いた窓から外へと飛び出した…。

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