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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第六章:忘れ去られし者達の復讐
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留学生の1日

「――と言う訳で、コレから君達と共に私の教室で勉学に励む留学生のメアリス・プロムナード女史だ、皆良くしてやってくれ……さて、それでは早速、今回の講義を始め――」

『待て待て待て、それで終わらせるつもりか!?』


昼過ぎの、長閑な教室に響き渡る我が生徒達のツッコミが私に突き刺さる…んもう、何だね全く。


「――そうは言うがね君達、ただの留学生の紹介で長々と趣味やら何やらを説明した所で時間の無駄だろう、そう言うのは講義の後幾らでも出来る事だろう?」

「あの…そのメアリスちゃんの肩の毛玉から、凄く嫌な気配するんだけど…?」

「大丈夫大丈夫…詮索はしない方が良いが、彼はメアリス君のペット、使い魔だよ…この学園に危害を加えさせる様な真似はしないから、安心したまえ」

「『……』」

「……先生、凄く睨まれてるけど…」

「ハッハッハッ!……ちょっと色々有って…ね?」


私がそう言うと、彼等は何かを察知したのか冷や汗を流して押し黙り、ソレ以上の言及を避ける…物分りが良くて大変宜しい…。


「さて、では諸君…今回君達に教えるのは魔術分野において最も〝知名度の高い技術〟…即ち〝呪い〟…〝呪術〟についてだ…尤も、日本は平安の頃から続く〝呪術大国〟…ある意味でこの呪術は日本魔術師の常識を問う様な問題で有るが…しかし、〝対人間〟に特化した技術を今一度再確認する事は、コレから先の人生でもしかすれば君達の命を救う事になるかも知れない…と言う訳で、早速始めていこうか、先ずは初歩も初歩、〝呪術〟とは何かを説明しよう――」


私がそう言い、投影機を用いて説明を開始すると、彼等もまた思考を切り替え、講義に意識を集中させる……ただ、何気も無く、平穏な講義が緩やかな時の中を流れていた…。



●○●○●○


――ペラッ――


無機質な、或いは無骨な応接室で…一人の女性、一人の男性が対面し…その資料に目を通していた。


「――資料の通り、被害者は〝18人〟…その教会を取り仕切る神父1名、修道女4名、孤児13名が惨殺され、死体は教会の壁へと打ち付けられていました」


男性は、眼の前の…整然とした美しさを持つ美女にそう言い…その言葉の内容に忌避感を示す…その男性の様子を見ながら、その女性は眼鏡の位置を整えるように動かし、男性へと場を続ける。


「……成る程…そして犯人は〝不明〟…加えて、類似事件が数日前、ロシア、モスクワでも発生し、そちらもまた同じ状況…貴方達は今回の件を〝同一犯罪〟と見做していると言う訳ですね」


その意見に男は、何ら躊躇う事無く肯定し…眼の前の女性に、隠し立て無く事実を告げる。


「えぇ…犯行現場には〝残滓〟も無く…〝非魔術師〟による猟奇殺人か、或いは高度な隠蔽技術を持つ魔術師の儀式と睨んでいますが…足取りは掴めていません」

「……そうですか」


その言葉に美女は、少し押し黙り…黙考を重ねる…すると、資料を降ろしたその男性は、眼の前の女性に静かに…しかし、腹の底から滲み出る程の正義感と、誠実を込めて彼女へ頭を下げる。


「………国内の問題を、国外の…それも新進気鋭の〝魔術師〟…プロフェッサー〝タカヒロ〟殿の所有機関〝渡鴉〟の貴方達へ解決を頼むのは不甲斐ない限りです…ですが、どうか御協力頂きたい」

「……えぇ、無論…そのつもりです」


その男へ、彼女は静かにそう言うと…立ち上がり、その部屋を去って行く…。


『――やぁ諸君、唐突だが君達に頼みが有る…実は面倒な事に海外の国家機関から、複数の協力要請が届いてね…理由を付けて断ろうと思ったのだが…中々〝面白い事件〟だったので協力する事になったんだ…差し当たって諸君には情報収集を頼みたい、其の為の身分も用意している為、スムーズに事は運ぶと思う』


彼女は……〝理知〟は歩を進めながら、事の経緯を振り返る。


(恐らく、既にもう推測は立てている筈…)


〝全知〟を信用する訳では無いが、しかし…理知は〝全知〟の卓越した〝知能〟を思い出し、全知の〝意図〟を探る。


(今は、その確実性の証明と言った所でしょうか…)


理知はそう考えながら、扉に触れ…その先へと脚を踏み込む…。


「『ん…お帰り〝理知〟…情報はもう記憶してる、後は全知に送信しておく』」


その瞬間、その無数のモニターに囲まれた空間からは、無数の管を付けた機器を身体に装着し、何百の情報を処理する少女が出迎え、言葉短にそう言い、また情報の波に意識を向ける。


「お願いします、記憶…私は少し、心身の修復に勤しむ事にします」

「『ん…了解……〝理知〟』」

そんな少女の言葉に美女はそう答え、その場を離れようとする…するとその時、少女は見向きもせずに理知と呼ばれた美女を呼び止め、問いを聞くよりも早く告げる。


「『起きた事を幾ら悔やんでも〝意味は無い〟よ』」

「……えぇ、心得ています」


その言葉は、彼女にとって確かに効果のある言葉だったのだろう…彼女は静かにそう言うと、少女に背を向け立ち去る…。


「『……〝全知〟も悪趣味…』」


その姿を、小さな少女の双眸は捉え…姿無き〝本体〟へそう非難に似た声色を放つのだった。



○●○●○●


――コポコポコポッ――


「――蜂蜜入りハーブティーだ…飲むと気分が落ち着くよ」

「有難うタカヒロ!――うん、とても甘くて美味しいわ!」


私はそう言い、彼女へ紅茶を淹れる…しかし、それも徒労に終わり、彼女の純白な〝興奮〟には何一つ効きはしなかった。


「――早速友達が出来たのよ、フフン!」

「嬉しいのは分かるが少し落ち着き給えよ……迂闊に動いて研究中の霊薬を壊せば大変な事になるかも知れないんだからね」

「ねぇ、ねぇ!…次は一体何をするのかしら!?…また御勉強?」


少女はそう言いながら、その肢体を私の前へと迫らせて問う…精神性は童女で有るがね肉体は若々しい女性なのだから、もう少し危機感を持てと言いたい…と、彼女の教育に新たな項目を増やしながら私は彼女の疑問に答える。


「次は、〝運動〟だよ…ずっと机に齧り付くのも不健康だからね」


……その言葉を聞いたメアリス君の反応は……最早、言うまでも無い事だろう?。

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