お説教
――カチャンッ――
「……うむ、美味い…疲れた脳に糖分は良いねぇ…だがしかし、老骨にはせめて座布団の一枚二枚頂けないかね?」
カップを受け皿に起き、硬い地面の上から目の吊り上がった字波君の美形を拝む、いや実際正座は足に悪いのだよ。
「それは無理ね、説教にならないじゃない…それとも石でも抱かせて欲しいの?」
「説教?…私が何をしたと言うんだい!?」
全く、根も葉もない言い掛かりだ!…私がやらかした事何て精々〝魔法植物〟の栽培と〝超強力成長促進剤〟の原液を掛けて室内全域に魔法植物を氾濫させただけじゃないか!
「ふぅん……そんな事までしてたのね?」
…ハッ!?誘導尋問だと!?
「――イヤ、それは事故と言うか若気の至りと言うか、人類の発展の犠牲と言うか……」
「……その件は一旦置いておくとしても、貴方の〝使い魔〟…あの子、〝魔獣〟よね?」
「――む?…その通り、〝霊獣〟でも〝幻獣〟でも〝神獣〟でも無い…確かな〝魔獣〟だとも」
「……魔獣の使い魔の危険性は分かってるのよね?」
「無論だとも、〝使い魔〟は〝魔術師〟の補助を目的とした〝使役獣〟…そして前述した四項目の使い魔の特徴も理解しているよ」
使い魔とは即ち、〝魔術師の使役獣〟…魔術師が行使する魔術の魔力的補助や日常生活の雑用まで、その活用範囲は幅広い。
〝霊獣〟、〝幻獣〟、〝神獣〟…そして、〝魔獣〟。
使い魔に選ばれる〝獣〟の区分は上記4つで有り、其々千差万別の個体が存在しているも、区分されるに足る〝共通点〟が存在する。
〝霊獣〟は名の通り〝霊の獣〟…実体を持たない使い魔であり、そのサポートは専ら、〝豊富な魔力〟による魔力供給だ…まぁ霊特有の〝念力〟での物の移動や、霊体透過による障害物を無視した索敵等の利点も有るが…兎も角、多くの〝霊獣〟がそういった役割を有している…謂わば斥候及び外付けの魔力タンクだ。
そして〝幻獣〟…所謂〝精霊〟、〝精霊馬〟、〝一角獣〟…前例は無いが〝竜〟、〝龍〟等の神秘の残り香達の事を言う、此等は霊獣と比較してもその魔力量は桁違いだ…神秘の名残り故のその膨大な魔力は魔術師達の魔術をより強力な物とする…が、その使役数はごく僅かだ……何せ、霊獣と比べその発見数は最早〝砂漠と金粒〟に例えられる程に極小数で、その上人を〝選ぶ〟…見つけたとてお眼鏡に叶わねば契約は疎か、話してすら貰えない有り様だ…故に、契約出来た物はその〝生命〟すら狙われる事が珍しくない……例え、〝安全の国〟日本で在ったとしても…。
そして……これまた仰々しい名を持つ〝神獣〟…上記が砂漠ならば此方は〝宇宙〟…膨大無限の星々の海に投げられた金粒程だ…発見者は僅か〝1名〟……それも、年端も行かない〝少女〟…彼女がその神獣に与えられた…一本の〝毛〟がその存在を露見させた…ではその〝区分の意味〟は?……ソレは、〝隔絶した力〟を有する事に他ならない。
その存在が露見した時…その少女を世界中が狙った…それは悪意で在り、善意でも在った…遍く人の意志によって彼女は狙われ…そして、少女へ触れた殆どの人間が〝死んだ〟…生き残っていたのは彼女を善意の下保護しようと画策した者達だけであり、その彼等でさえその〝圧〟に充てられて死に掛けたのだ…〝毛〟の一本だけで…だ、当然彼等彼女等はそれ以降彼女の自由を奪う事も無く、ただ遠巻きでの観測を続けているらしい……その様子は例えるならば〝生贄の巫女〟の様だと、文面を見ながら私は思ったよ。
「……生贄、ね…言い得て妙ね」
「私としては是非その少女…おっと、今はもう成人したので女性か…に色々聞きたいところだがね」
「………其処まで分かってるなら、尚の事…何故〝魔獣〟を使い魔に?」
そう言い字波君はその視線を私の膝の上を執拗に飛び跳ね、足に負荷を掛けるこのニャンコへ向ける……口角が緩んでるよ?…。
「〝魔獣〟は〝獣から魔へ変貌した存在〟…その魔力量は霊獣に及ばず、その恩恵は御世辞にも幻獣に届かない、神獣は…まぁアレはほぼ例外か…何より〝魔獣〟のほぼ全ては〝人類〟にとって害有る存在だ」
そもそも、魔の発生源が瘴気と呼ばれる人の負の感情から生まれる〝歪〟だ、それを帯びて変質する、変質する程の〝感情〟を抱く魔獣は大なり小なり〝人類に不利益〟なのだ…故に…〝魔獣〟の使い魔は忌み嫌われる事が常だ。
「さぁ?…酔狂、好奇心、気紛れ?…そんな所かな?」
「……答えないと石を置くわよ?」
「ッ早く置け!この化物の足を粉々に踏み砕いてやるわ!」
私の言葉にはぐらかされたと感じたのか、字波君がそう言い右手に分厚い石の石板を握る…クククッ…踏み砕く?
「フハハハハッ!…君に良いことを教えてやろう〝アル〟!…正座しているから〝地に足を着けている〟と思うなよ!?――これが私の奥義、〝青狸式浮遊歩行術〟!…具体的には地面から3ミリ上を浮遊しているのだ!」
「なッ!?――無駄に器用な真似を…!」
「クハハハッ、ぶっちゃけ大したメリットは無いし魔力消費的にデメリットが多いがそれでもこの絶妙な〝馬鹿らしさ〟こそ、この魔術の真価――あぎゃぁぁ!?」
「馬鹿な事言わないで吐きなさい!」
「ヌッ…ゴオォォォ…!?…じゅ、重力魔術をその魔力量で使うんじゃないッ…あ、足が、足が潰れて行くウゥゥゥッ…!?」
――ベキベキベキベキッ――
クソぅ、私と字波君では魔力量が桁違いだ…せ、正攻法じゃ勝てない!?…あ、ソレはそうと。
「――ぶっちゃけた話、私は〝使い魔〟そのものはどうでも良いのだよ、目を惹く〝逸材〟が転がってたから拾っただけさ…実際、魔獣でもこうも高度な知恵を持つ者は希少だろう?…だから、興味が湧いただけさ…霊獣、幻獣、神獣も何時かは使い魔にしたいなぁ…」
「何ッ、この魔力の魔術を受けて平気なのかッ!?」
「…そう、分かったわ…でも、ちゃんと管理しなさい」
「うむ、こればかりは私が全面的に悪いね御免なさい…さて、それじゃあそろそろお開き「それじゃあ、別件ね」……ァ」
「それじゃあ、貴方が報告も無く勝手にしていた研究の〝惨事〟について…じっくり説明をお願いね?」
「――字波よ、コレを」
「あら、ありがとうアル…それじゃあ、誤魔化したり、嘘をついたら一枚ずつ乗せていくわ、キリキリ吐きなさい」
「おのれアル、飼い主を裏切ったァァァ!?」
そうして、説教からまた別の説教へ移り変わり、私の悲鳴は学園中に轟く事になったのだった…15枚はやり過ぎだろう…。




