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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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閉ざされた劇の果てに

「『昨日、アメリカ、フロリダ州の山奥で発生した〝大規模魔術〟の術者は現在、行方を眩ませていると――』」

「『――また同時刻の数分前、〝瘴気観測用衛星〟――〝星の瞳〟にて、濃密な瘴気反応を感知、その反応周波はかつて、1都市を3日で壊滅にまで陥れた怪物〝アスタロト〟に酷似しているとの事』」

「事件収束に一助した日本魔術局〝八咫烏〟所属魔術師、天鋼級魔術師…〝紅月〟ミユキ・アザナミはこう説明しています」


「『4匹の悪魔が融合した為に、その反応がアスタロトに迫る程の物になったのでしょう』」


「『との事です、また――』」


何処も彼処も大騒ぎ…飛び交う憶測、飛び交う混乱、恐怖…陰謀論者がざわめき、アンチファンは注目を浴びるそのニュースに否定的で中身の薄い根拠を展開する。


誰も彼もがそうして世界を震撼させたその事象に釘付けに成る中……其れ等を知る〝極少数〟を覗いた〝その少女〟はニュースを見ながら面白そうに笑う。


「アッハハハッ♪…皆みーんな的外れ何だから!…ね〜?〝ファゴット〟?」


その言葉に、少女は己の肩に巻き付く〝毛皮の塊〟へそう言うと、楽しげに電子基板の奥に流れる、〝昨日の夜〟…その一点に咲いた膨大な魔術の虹と、その中心の〝人影〟を見つめ…次に、己の手元にある〝資料〟に映る1人の男を見てそう楽しそうに笑う。


『私は今でも反対だ〝メアリス〟…お前は〝悪魔〟と言う物を正しく理解していない』


それに対して、その〝蠢く毛玉〟は、木霊す様な奇妙な声で、彼女を嗜める…しかし。


「あら、酷いわファゴット…私だって付き合う人は選ぶのよ、悪い人とは一緒に遊んだりしないもの、ソレに彼はただの悪い人じゃないと思うわ!」


その警告は無意味に終わり、その女性はまだあどけなさの残る笑みを浮かべ、その毛玉へそう言う。


『……考え直す気は無いのか?』


その笑みに、毛玉は半ば諦めを滲ませたまま目の前の彼女に最後の警告を紡ぐ…。


「えぇ♪…それに、彼処には日本の大スター、〝アザナミ〟も居るんでしょ?…私彼女のファンなの!」

『……ハァ…分かった、止めはしない…だが仮にお前に〝危害〟が及ぶなら――』


そしてコレも当然の如く失敗に終わり、少女は毛玉の言葉が言い終わらぬ内に首肯して立ち上がり――。


「うん、分かってるわ!――コレで決まりね、それじゃあ直ぐに旅行の支度をしなきゃ♪」


溌剌とした動きで自身の〝部屋〟の物置へと突撃する……それは微笑ましい女性の活動で有ると同時に…凄まじい〝災害〟が、とある男の元へと訪れる事を意味していた……。




「ぶっくしゅ!……妙だねぇ、未だ夏の名残が残るこの季節に震えが、心做しか身体が冷える…風邪かな?」


余談だが、その同刻…講義中のとある学園講師が原因不明の悪寒に襲われた事は偶然の事である…少なくとも〝彼〟にとっては。



●○●○●○


――カチンッ――


「――辺り一面、花畑か……〝思い出す〟なぁ、彼奴等と良く此処で〝茶会〟をした…態とらしい程に晴れ渡った青空、張りぼての様に色とりどりの花…姿無く囀る小鳥の音…そして――」


――カチャンッ――


「「〝縁を繋ぐ者〟………〝久しいな(ね)〟」」


其処が何処なのか、ソレを語る口は無い…ただ其処には花畑が有り、幻想的な、楽園的な〝空間〟には、白いテーブルに腰掛け、紅茶をカップに注いで並べられた茶菓子を手に取る二人の〝人影〟が有った…。


「随分と〝手の込んだ再会〟だった…御丁寧に私の墓を建て、〝私を知る者〟と言うヒントを与え、連鎖する鎖の輪を一つずつ解いていった…中々楽しい謎掛けだったよ」


1人は、そう楽しげに笑い…しかしその躰に〝(あな)〟を抱えた〝人で無し〟…そして。


「――君が死んでから〝615年8ヶ月11日〟…想定よりも3日早かったね…〝■■〟君」


もう一人、浮き世離れした雰囲気を醸し出し…目の前の〝ヒトガタ〟にそう返しながら紅茶を啜る…〝超越者〟…。


「生憎今は〝ホロウ〟と名を変えた……が、しかしまさか、懐かしき〝知己〟がまさか肉の身体を捨て〝電子の亡霊インターネット・ゴースト〟と成っている等とは夢にも及ばなかったなぁ…〝夢見創〟」


ソレ等は…その姿は人のまま、しかしその中身は最早人とは言えない〝化物〟が二匹、綺麗なだけの花園で、人の真似事に〝興じていた〟…。


「仕方無いさ…コレがこの世界の僕の選択なのだから…ソレに世界の移ろいを電子世界から覗き込むと言うのも中々面白いものさ♪」

「ハッ、此方は数百年墓石に縛られてたがね…しかしそうか…お前も〝特異点〟の1つだった訳だ」

「君とは〝成り立ち〟は違うけどね…しかし驚いたのは事実だよ…まさか君がこんなに早く〝此処に来る〟何てね」

「〝舞台を終えた役者〟の動きは、観客の目には映らないものだろ?…しかし驚くのはこちらの方だ…この短期間で幾つも驚いた事が有った…例えば、この世界が本気で〝ファンタジー〟な世界に成っていた事、一つは〝神〟とやらの痕跡…何よりも、お前の創った〝世界(ゲーム)〟の魔術様式が、〝現実世界のソレとピッタリ符合する事〟とかな」


其れ等は互いにそう言いながら相手の返答を待つ…すると、〝虚空の屍〟が返答するよりも先に〝夢見る超越者〟が口火を切る。


「〝世界の変容〟は珍しい事じゃない…世界は何時だって同じ時何て無いし、常に流動する物だ…ソレに神の存在の是非は語るまでも無い…信仰する者が居るならば、神が滅びることは無い…神の神たらしめん要素は〝信仰〟だからね…ソレに、〝魔術構造〟の一致については……〝僕達〟の知識からの引用だよ」

「〝夢見創と言う存在〟との〝同期〟…ソレがお前の〝特異点〟…〝唯人成らざる性質〟か」


そして、その言葉に屍の男はそう答えながら…目の前の〝超越者〟が驚く様を見て笑う。


「驚くか否かと問われれば驚くな、まさか俺がまだ〝人間の器〟をしていた時代から、既に〝魔術の先触れ〟に接触していたのだから……だが、ソレを理解してしまえば後はどうと言うことはない…お前の〝目的〟も少なからず察せられる」

「……フフフッ、アハッハハハハッ!――やっぱり君は〝良い〟なぁ…家の子達が選んだだけの事は有る♪……是非、君の推理を聞かせておくれよ〝名探偵〟…私が一体何をしようとしていたのか…」

「〝人の皮を着た観察機シャーロック・ホームズ〟か…上手く俺を表したな創…ではお前は〝愚鈍で常識的な友人(ワトソン)〟だ…そう言う事なら俺の口から語るとしよう、馬鹿げた妄想紛いの〝推測〟を」


華やぐ花園とは裏腹に、二人の〝化物〟は仄暗い〝悦楽〟に腹を満たしながら茶を飲み交わし…懐かしの〝友〟へ極上の〝享楽〟を振る舞っていた…そして、人も獣も、神でさえも…その二人の化物の邂逅を知る事は無かった…。

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