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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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かくして悪魔は祓われた

「――さぁさぁ諸君、キビキビと働き給え…コレから〝渡鴉〟を切り盛りするにあたって人員の確保は必至、其の為の広告として〝第一回目〟の研究はド派手に成功させなければならないのだからね!」


先週の襲撃、及び前日の〝悪魔騒動〟は現在…世間の的となり、世界は激しくざわめいていた…そんな中、当の本人たる私は、諸々の筋書きを局長と字波君に吹き込んだ後、伽藍堂の〝巣箱〟を可愛い雛達で満たす為に精力的に活動していた……〝5人の部下〟と共に。


「――いや、アンタも働けよ!」


そう抗議しながらも、大量の物資を運び込むのは巨漢にして〝破壊の悪魔〟の悪魔憑きだった男〝マックス・フルバス〟君…しかし、私は声を大にして言おう…決してサボタージュ(怠け者)に興じている訳では無いと。


「何処ぞの誰かが目覚めがしらに私の身体を殴り潰さなきゃ私も手伝えたのだがね…しかし現在療養中の身な私は、涙を呑んで君達に過酷な労働を強い、〝欲と趣味に満ちた玩具箱〟の精査に精を出している訳だ…これ以上の説明は必要かな?」

「グッ……それは…」


私がそう彼を弄ってやると、彼はバツの悪そうな顔で…納得の行かなそうな顔で少し考え…やがて諦めたように仕事に戻る。


そう、その5人の部下とはつまる所彼等…〝悪魔騒動〟の根幹に居る5人の悪魔憑きの事で有る……さて、そんな彼等の就職経緯は、今から数時間遡る……。



〜〜〜〜〜〜〜


――グチュッ、グチュグチュッ――


「――〝肉体〟の修復は完了したよ」

「ねーねー、この肋骨誰の?」

「人間の骨じゃないぞソレ…悪魔共め、受肉用の贄に野生動物まで放り込んだな?」

「…雑食、悪食?」


其処は〝手術室(オペ室)〟…或いは、反転して拷問部屋とでも言えるだろう私の拠点の1つ…其処では、私と〝心異体〟達が〝蠢く心臓〟を丁寧に解剖し、5人の〝肉体〟を培養ポッドにて修復している最中だった。


「〝魔術回路〟の同調が開始…そろそろ慣れてきたね…〝融合した魂〟の分離修復も」

「そりゃあ、こちとら何百人と場数踏んでるからね…それじゃあ、後は宜しく〝本体〟」

「――彼等の肉体の状況、その説明もしっかりとして下さい、頼みましたよ〝本体〟」

「はいはい、勿論告知義務は果たすよ」



そしてそれから暫くして、選りすぐりの〝外科医〟諸君はそれぞれの研究所へと帰り、私は培養ポッドに浮かぶ5人の男女へ目を向けた…次の瞬間。


――パチッ――


ほぼ同時に5人の双眸が開き…眼の前の私を〝認識〟した。


「――ハァイ、調子はどうかね?…恐らく肉体の定着直後と言う影響で、貧血に似た目眩、頭痛が有るかも知れないが――」

「『ゴボボボボボッ!』」


そんな彼等に説明の為口を開いたその瞬間…1人の巨漢…マックス君が口を開いたその瞬間、凄まじい怒気と魔力が溢れ出し…刹那、凄まじい勢いで五つのポッドが〝破砕〟される。


――バキィィンッ――


「うわぁお……何千万の培養ポッドが鉄屑に…容赦無いねぇ君」

「――〝死ね〟!」


――ドゴォォォッ――


そして、私の直ぐ目の前に突き出された拳と共にマックス君がそれはもう血走った眼で私を睨み、渾身の一撃が私の身体を撃ち抜いた…。


――バキッ――


その一撃を受けた私の身体は、その上半身半分を軽々と吹き飛ばされ…血と臓腑の雨を降らせながら、彼方の壁へと激突し、私を地面の模様とする……全く。


「此処が私の研究所で良かったよ…でなければ直ぐに八咫烏に見つかってたよ…」

「ッ――シィッ!」


私は独り言と共に、迫る殺意の拳を見る…その一切の躊躇いなく放たれた死の一撃は、私の脳天へと突き進み――。


「止めろ〝マックス〟」


刹那……その間に割り込む人影によって、拳は停滞を余儀なくされた。


「ッ――退けライトッ、ソイツを殺せねぇだろうが!」

「退くのはお前だマックス、お前達もその手を降ろせ」


その言葉にマックスと、3人の悪魔憑き達は渋々とその手を降ろし…術を解除する…ソレを見届けると、ライトは私へ向き直り…その手を差し出す…。


「立てるか…〝孝宏〟」


そんな彼の手を取り、介包されながら私は、彼等四人の状態を綿密に観察し、問題が無いことを把握する。


「――嗚呼、有難うライト君…うん、うん…全員問題無く〝活動〟出来てる様だね……それどころか元気一杯だ、大変結構…」

「――マックス達に事情を説明してやれ…彼奴等はまだ、状況を飲み込めていないんだ」


そして、彼の言葉に私は頷き…改めて不信に此方を睨む四人へ、事の次第を説明する……。





「――と、言う訳で…〝君達〟と〝悪魔〟を分離させる為には、一度〝悪魔〟が寄生の必要が無くなるまで成長する必要が有った訳だ…其の為に、君達には何も伝えずに計画を変えた訳だ…説明は以上だよ、何か疑問は?」


……そして、そう言い終える頃には、彼等の顔からは怒りが薄らぎ…やや抗議的な視線が私を貫く。


「――そう言う事なら俺達にも伝えてくれりゃ良かっただろ?」


そして、スーロ君がそう言い…リリス、シェリー、マックス君も同意する様に此方を見る…ソレに対して私は肩を竦ませ、ライト君にチラリと視線を向けると、彼はその意図を組んだのだろう、私の代わりに彼等へ説明する。


「――仮にソレを伝えていたとして、悪魔達に聞かれていればその時点で計画は破綻する…加えて、俺達がそれまでの間、精神を保っていられる保証は無かった…だから、孝宏は手を打った…〝自身を復讐の対象〟とする事で、俺達の精神を確立させてな…そうだろう?」

「そうだとも…君達にも言ったろう、〝感情のエネルギー〟がどれだけの価値を生むのか…その中で取り分け〝憎悪〟は、深く、根深くその心を支配すると…事実君達は一片の狂気さえ介在を許す事無く、〝健常の魂〟のまま其処に居る…私の〝計画〟は問題無く遂行されたと言う訳だ」


私の言葉に彼等は沈黙し…そして、納得した様にその顔から険悪を除く…ソレを見て私は、彼等が謝罪を口にするより早く話を変えて彼等へと告げる…そう。


「さぁて、終わり良ければ全て良しでは無いが…兎も角、多少の変動は有れ無事に問題は収まった……と、言う訳でだ諸君…早速だが君達には〝契約〟を果たしてもらうよ――」


――私と彼等が結んだ〝契約〟、その片割れの成就を以て、対価は与えられる…。


「〝渡鴉〟へようこそ諸君、渡鴉の初代所長として、君達を歓迎するとしよう♪」


そうして、私は得た……5人の〝元悪魔憑き〟にして…〝特異魔術〟を操る5人の稀有な部下達を……そうして、ひょんなことから持ち込まれた〝悪魔達の狂騒曲〟は、幕を下ろしたのだった…。

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