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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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落ち零れとトラブル

――ジジジジジッ――


「ふぅむ……やはりと言うべきか…〝紀元前〟とそうでない物は遺物に内包された〝神秘〟も雲泥の差らしい…」


まぁ当然か、紀元前は〝神の時代〟…まだ神と言う存在が日常的だった時代だものな。


「しかし…この遺物、折角神秘が強く残っていると言うのに大した機能が無いな…精々劣化防止程度か…勿体ない」


折角なら何か有効活用したいねぇ…んん。


「目が…ううむ、熱中し過ぎるとどうも目を酷使しすぎてしまう…うむ、こういう時は探究心をグッと押し込め、散歩にでも赴くことにしようかな」


今日はもう講義も夜の警備も無いし……あ、そうだ。


「序でに字波君や、学生等にもこの遺物の有効活用案を聞いてみようかな!」


自身とは違う視点での発想も馬鹿には出来ないからね。


「そうと決まればいざ――」


――ギシャアァァァッ!!!――


研究室を開け放ち、いざ気分転換といったその最中…ふと、凄まじい怒気と殺意に満ち溢れた猫の叫び声が聞こえる。


「この声は〝アル〟かな?…ふむ」


私は目を閉じ、自由に行動させているアルとその視界を同調させる。


――パチッ――


(ふむふむふぅむ…〝5人組〟の学生グループ…見た所、新入生かな?)


其処は〝グラウンド〟…否、訓練場の一区画…アルの前に立つのは5人組の学生グループで、その視線はアルに向いている。


「……まぁ兎も角、私の使い魔が何かトラブルに関与したらしい…ならば飼い主が赴かねば成らないのは道理って奴かね…メンドクサ」


……仕方無い…行くかぁ。


「後で字波君に文句言われるのも面倒だからねぇ…」




●○●○●○


喧騒に人混み、その場にいた勤勉か、或いは己の実力を見せつけたがる若い魔術師達はその一角に起きた〝トラブル〟に目を向ける。


(チッ…不愉快な…)


その視線の孕む好奇の意、口論を傍観する愉悦の匂いに白猫の皮を被ったソレは心の奥底でそう吐き捨てる。


「何だこの猫?…どっから迷い込んだ?」


アルの目線の先には5人の男女が居た。


その人間が何なのか、アルは知らないし、興味も無い…そもそも、〝人間〟自体、〝復讐の対象〟で在る筈のソレが何故――。


「ッ…ぅ」


煤と軽い火傷に見舞われた〝少女〟を背に、守る様に彼等へ対峙しているのか?。


それは有り得ない事だ、その個体の本質と相反した行為だ、であらば何故〝人を憎む者〟が〝人の娘〟を守るのか?…。


「アッハッハハッ!…おいどうしたよ〝椿〟?…折角〝落ち零れ〟のお前を鍛えてやろうって態々手を貸してやったんだぜ?」


そうケタケタと悪辣に笑いながら、先頭の男はその手に軽く炎を見せ付ける…その足元の、焼け焦げた〝花〟を踏み付けて。


「この学園は、優秀な魔術師と、その卵の聖域だぞ?…だのになんで、お前みてぇな精々〝花を咲かせる〟だけの女が此処に入れたんだ?」

「どうせ試験官に〝お願い〟でもしたんじゃないの〜?」


口々にそう罵詈雑言を放ち、少女を嘲り笑う声…その皮肉の度を超えた〝悪意の刃〟に少女は身を固め、顔を俯かせる。


――ブチッ――


そして、その〝悪意〟が…〝報復者〟の逆鱗を掻いた。


――ブワッ――


『ヒッ……!?』

「『良い加減に口を閉じろ……〝不愉快〟だ』」


吹き荒ぶ…〝黒い魔力〟、それを至近距離で受ける彼等はその冷たい〝怒り〟に思わず咽から声を絞る…周囲の者共も、離れた先からも感じ取れるその〝気配〟に思わず身を固め、眼を縫い付けられる。


その魔力が高まり、〝言葉を話す猫〟の身体が大きく成る…その瞬間。


――パコンッ――


「『グニャッ!?』」

「コラ…緊急時を除き、私の許可無く〝能力の行使〟はするなと言っていただろう〝アル〟」


その魔力は〝霧散する〟…嘘の様に…その中心には〝白い長髪の獅子〟の頭を手刀で叩く、一人の〝男〟の姿が有った。


「いやぁ、御免ねぇ学生諸君…私の〝使い魔〟が怖がらせた様で…ウムウム、幸い死傷者は居なかったらしい…コレで理事長からの大目玉は無くて済――」


その男は周囲を軽く見渡すと、何事も無いことに安堵した…と言う風に身振してそう微笑み…そして。


――ピタッ――


「おやおや?…可笑しいね、蝙蝠は夜行性の筈だけど……もしかして寝ぼけてるのかな?」

「キュイッ!」

「……ハァァァッ…やっぱり気付いてるよねぇ…畜生…アル!お前のせいだぞ!?」

「……フンッ」


そう言い獅子へ恨めしげに目を向ける…その視線は軽くいなされていたが。


そんな雰囲気に冷たい空気は柔らかな暖かさを取り戻し、緊張が解けた学生達はその〝男〟の首に掛けられた〝ネームプレート〟に目を向けて、また〝空気を凍らせる〟…。


「……さて、お咎めの前に〝教職者〟として…何よりも〝善良を良し〟とする者として君達へ〝忠告〟しておこうか」


其処には、彼を〝教員〟と証明する旨と、その名前が刻まれていた…しかし。


「きょ、教員…!?……いや、でもその姿…まだ餓鬼じゃ――」


彼等はそう言い、その事実に信じられないと思わず声に出す…何故ならば眼の前の、ボサボサの白髪に白衣を着た男は、大人と言うよりは…学生と同じ歳の〝青年〟の様な見た目だったのだから。


「生憎、私は君達の倍以上の年を生きてきたのだ…見た目が若いのはまぁ思う所がないでもないがね…しかし、〝戴けない〟な…君達の〝所業〟は目に余る」

『ッ…』

「〝根も葉もない誹謗中傷〟、〝必要以上の攻撃〟…〝訓練場内〟で死ぬ事は無いとは言え…後者は特に〝目に余る〟…それに、前者に至っては我々〝学園〟に対する風評被害にも成りかねない…〝叱責だけ〟で済むとは思わない様に」

「ッ…それは「これ以上何か?」…いえ…何も、有りません」

「宜しい…では君達はもう帰り給え…理事長殿から追って〝処罰〟が告げられるだろう…後君達のいざこざの所為で怒られる僕の八つ当たりに、君達にちょっとした〝呪い(まじない)〟を掛けておくよ…安心し給え、品行方正に〝一ヶ月〟過ごしていれば、〝呪い(まじない)〟が掛かる事は無いからネ!」


そう、冗談混じりに言う男はそう言い彼等へ帰るように促す…ソレに物申そうと学生グループが口を開きかけ…しかし。


――ジッ――


その〝冷めた眼〟の余りに冷たな視線に怯み…何も言わずにその場を去る…ソレを見送ると、青年は溜息を吐きながら翻り、少女へ手を差し伸べる…。


「ほら、立てるかい〝春芽椿〟君…手を取り給え」

「あ、は…はい…ありがとう御座います!」


その手へ少女が怖ず怖ずと手を差し出し、手を取ったその瞬間。


――ポォッ――


「ッ!…え?」


少女を淡い光が包み込む…その光と同時に、少女は己の身体に張り付いた刺すような火傷の痛みが消え失せた事に気付く…ソレへ困惑を浮かべていると、それを見て男は満足気に頷くと、少女に言葉を捲し立てる。


「コレで良し…いやはや、治癒魔術は得意とは言えないが、案外治せる物だね…あぁ、それと君…ちょいとこの〝容れ物〟を私の家――ゴホンッ、実験じょ――ゴホンゴホンッ…〝研究室〟に運んでくれるかい?…多少手荒に扱っても問題ないが、今から理事長殿に怒られて来ないと行けなくてね…頼むよ、場所は周囲の教員に聞けば分かる」

「え、あ…あの…!」

「宜しく!」


そして了承をえるより先に少女へ壺を渡すと、白い獅子に衣服を引っ張られながら其の場から去っていった……。


「……と、取り敢えず……言われた通りに運ばないと…」


その、何処か古めかしい〝容れ物〟を両手に抱えた少女を残して…。

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