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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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白の人と黒の魔

〝しまった〟


到底遅い〝焦り〟が身体を走る…現実は変えられない…己の〝心臓〟を、〝魂〟を〝貫かれた〟と言う…現実は。


(不味い、不味い…!)


此処で考えるべきは〝次の状況〟…己が〝死ぬ〟事で起きる、この戦いの顛末への対応だ。


自身の死は変えられない、そして相手の狙いは〝検討が着く〟……〝アスタロトの力〟だ。


ソレを喰らう事での強化を測った…そうだろう……なら、最悪は相手が〝強化〟され、被害が増える事だ…と成れば、取る〝選択〟は決定される。


――ドクンッ――


「『ッ!?』」

「――〝離さないよ〟…!」


即ち、〝自爆〟だ…相手にダメージを与え、且つ、己の死体を利用されるリスクを最大限取り除く…彼等の治療は〝心異体〟が施術するだろう。


「懸念点は……〝無い〟」


私はそう自身の躊躇いを斬り捨て、自身のカラカラの心臓から魔力を絞り出し…〝発火〟した。


――カッ――


そして、その瞬間……眩い光が、私と〝偽の天堂灯香〟を包み込んだ……。



○●○●○●


――ズドオォォンッ――


宙に奔る閃光と爆裂…その光景を見ながら、〝天堂灯香〟は男の行動に、ある種〝恐怖〟に近い感嘆を抱いていた…。


ほんの一瞬…自身の心臓を貫かれ、1秒にも満たない、一瞬で…対象を逆に〝掴み〟…自爆による〝道連れ〟を選択出来るその〝精神性〟…ソレは凡そ〝常人的〟では無く…〝狂気的な合理性〟と言える程で有った…。


「『グアァァァッ!?!?!?』」


そんな風に思う、その刹那…彼女は自身の耳に届く、その〝叫び声〟に視線をやる。


――ジュウゥゥゥッ――


其処には、右肩から腕に掛けてを吹き飛ばされ…己の姿を真似た忌々しい〝塵〟が、爛れた身体の苦痛に呻きを上げていた…それを視認したその瞬間、天堂灯香はその身体に巡る〝衝動〟を燃やしてその異形へと肉薄し…その〝頭〟へとその如意棒を振り抜こうとした……その瞬間。


「『――フム…コレは一体どういう事だろうね…』」

「「『ッ――!?』」」


一人と一匹は、その声に動きを止めてその声に反射的に視線を向ける…そして。


――ゾッ――


その爆風の中から吹き出す…〝膨大〟で、〝濃密〟な〝魔力の濁流〟にその顔を引き攣らせた…。


●○●○●○



「コレは一体…どういう事なのだろうねぇ…」


〝私〟はそう言い…自身の〝状況〟に頭を捻る……今し方、私は確かに臓腑を貫かれ、魂を〝穿たれた〟…筈だった…そうだ、ソレは間違い無い。


自身の死は〝確定〟した…万に一つと〝生存の可能性〟は無かったとそう認識していた筈だった……ならばコレは〝夢〟か?と頭を捻ったがソレも違う…何故ならば。


「状況は確かに〝現実の物〟だ…だが一体どうして私は〝生きている〟?…〝死んだ〟筈の私が何故此処に居るのか?」


ソレに何だこの〝感覚〟は…凄まじく身体が軽い、力が漲る…この力の奔流が心地良くて溜まらないのだ…。


「――さて、〝天堂灯香〟君…偽物も本物も、何方でも構わないが…この〝状況〟の君達の意見を聞かせてはくれまいかね?」


そんな全能感に近い感覚に私は包まれながら…煙を払った先に居る二人の〝彼女〟にそう問うと…二人は、まるで呆然と…理解の範疇を超えたとでも言いたげな顔で此方を見つめ…そして、片方の天堂灯香君が呆然混じりにボソッと告げる。


「孝宏…よね?」


その声はただ信じられないと言う風に私へ向けられ…ソレに対して私は頷き彼女の言葉に返答する。


「――そうだとも、正真正銘…〝不身孝宏〟その人だとも…しかしこの状況の説明は生憎と難しい…私も私で状況を測りかねているのだ――」


しかしどうやら、彼女はそう言う意味合いでそう呟いた訳では無いらしい…その視線は私を上から下まで眺め…私の外皮に対しての率直な疑問を口にする。


「いや、そうじゃないわ……貴方…随分と〝老けた〟わね…」

「……何?」


その言葉に漸く私は〝外部〟の変化と言う可能性に思い至り、手鏡で己の顔を覗き込む…すると其処には居たのだ……〝悪魔の私〟が。


ソレは紛れも無く〝生前の私〟……否、〝かつての不身孝宏〟その人の姿だった…長身痩躯で、その顔は年相応に老いた壮年の男…灰色の瞳はギラついた輝きを帯び、その肉体は実務的な筋肉に覆われていた…それは正しくかつての私の姿そのままで有り、同時にそんな私に、到底無視出来ない要素が継ぎ足されていた…ズバリそれは――。


「〝角〟…?」


そう、〝角〟で有る……形だけ見れば低クオリティなコスプレに身を包んだ爺さんと言う風貌だが、その割に角は見事な形で二つ一対で額から生え……私の白衣はいつの間にやら〝真っ黒な黒衣〟に変化していた。


其処まで見れば、私は理解する……己の身に何が起きたのか…。


「〝ジキルとハイド〟は〝私も〟だった…と言う事かな」







――ビービービービーッ――


『緊急警報』

『緊急警報』

『〝アメリカ〟…フロリダ州観測区域〝4〟にて膨大な魔物反応検知』

『推定魔力等級〝S〟…魔力反応照合…適合率81%』

『〝魔物区分〟――〝悪魔〟、〝脅威度〟――〝S〟…警戒リストから情報閲覧…〝個体名〟を確定……〝アスタロト〟』

『近隣住民へ避難勧告発令』

『並び、近隣魔術師を招集…現段階における最適〝戦力〟の派遣を要請します』


けたたましく鳴り響くサイレンの音と危険信号…慌てふためく職員達のパニックを背景に、その〝鉄の頭脳〟は、淡々と命令を実行する。


――ザザッ――


――ザザザザッ――


唐突な緊急事態に彼等は驚き…ソレを見逃した……ほんの一瞬…〝賢者〟達がその技術の粋を集めて創り上げた〝叡智の頭脳〟…その頭脳の中に〝忍び込んだ〟…。


『……』


小さな小さな〝観客〟…その存在を。

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