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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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百聞は一見にしかず

「さぁさぁ、早くグラウンドに入り給え!…生徒の貴重な時間が失われていくよ!」

「待って下さい、まさか…貴方〝1人〟で我々と?」

「無論だとも!…流石に理事長殿程の相手が居た場合は苦しいが、君達程なら倒せなくとも死にはしまい…それに、これは飽く迄も〝模擬戦〟だ、本当に不味ければ理事長殿に助けてもらうとしよう」


それでもと躊躇うと言うのなら…クククッ。


――バサッ――


「?……コレは?」

「〝私〟が考案した魔術式の考案資料…ざっと〝100〟の魔術式…其々の運用想定を記載している…所謂協力報酬と言うやつさ♪」


――ザワッ――


私の言葉に、その場の全員が目を見開き…次の瞬間には飢えた野獣の眼に変わる…クククッ、フハハハハッ!!!…そうだろうそうだろう、君達魔術師は!研究者は何時だって斬新新鮮な〝情報〟を求めているだろう!…ならばこの資料は君達にとっては財宝の山に見えるのではないかね!?…。


「さて、豚の諸君は其々位置について…生徒諸君は其々己の魔術、己の相性に似た教員を注意深く観察する事だ…いいね?…〝観察〟とはつまるところ〝見るだけ〟では無い…〝見て、思考し、試行し、理解する〟事を〝観察〟と言う…其処を理解し給えよ?」


そうして人参に釣られて参戦した(教員)諸君が位置についたその時、字波君が手を上げる…そして。


「それじゃあ……〝始め!〟」 

「フフッ――!」


その瞬間、私を取り囲む彼等から凄まじい数の魔術が〝迫った〟…。



●○●○●○


その光景は凡そ一瞬の出来事だった…開始から瞬きもせぬ内に〝その男〟の姿は魔術の海に飲まれて消えた…。


「〝――――〟♪」

「〝※※※※※〟!」

「〝■■■■〟!」


歌と共に放たれる水の槍が、詠唱と共に乱れ飛ぶ風の刃が、巨大な土塊が、炎の動物達が…ただ一点を目指す。


途切れることの無い詠唱、魔力の管理、視野の使い方…たった一瞬、刹那の間とは言え、その場にて魔術を行使する彼等が、やはり一流の魔術師で在ることを彼等生徒は理解する。


それと同時に…そんな一流の攻撃を絶え間なく受けている存在が居ることに、顔を青くして隣に居る〝彼女〟へ目を向ける。


「り、理事ちょ――」


黒乃美幸が彼女を呼び掛けたその瞬間。


――パチッ、パチッ、パチッ…――


〝拍手〟が…鳴り響いた…その拍手に教員達は思わず魔術を止め、生徒達もまた、その〝中心〟に目を向ける。


「『流石、流石だよ教員の諸君…やはり、百聞は一見にしかずだ…君達の〝動き〟は彼等にとって〝多くの学び〟に満ちている』」


――シュウゥゥゥッ――


砂塵と蒸気が空へ散る…それが屯していた場所には、依然変わりない姿の〝男〟…不身孝宏がその顔に笑みを浮かべて立っていた。


○●○●○●


「馬鹿な…無傷だと!?」

「フフフッ、良いリアクションだね…その反応が欲しくてずっと黙っていたのだよ♪」


愕然とそう呟く彼へ感謝を述べる…うむ、やはりこう言うサプライズは何時だって楽しいものだね!…。


「さて…何故無傷なのか知りたいと言う顔だね…では解説を……と、行きたい所だが生憎…模擬戦とは言え〝敵〟で有る君達を前に、そうぺちゃりくちゃりと説明をする訳には行かない…まぁ勿論、君達の考察に対してはリアクションするが…つまりは、ほら…〝試行錯誤〟だよ、得意だろう?」


私の言葉に教員達は顔を見合わせ…そして一人が魔術を放――。


――タッ――


「残念、此処は〝死なない戦場〟だよ?」

「ッしま――」


つ事は無かった……瞬きも刹那に、今正に魔術を放つ直前の彼へ、私は肉薄する。


――ドッ――


そして、その脇腹へ蹴りを入れて場外へ弾き出す…骨は折れたろうが治癒魔術に掛かれば元通りだ、安心して欲しい。


「しかし、やはりと言うべきかな…魔術師は元来〝魔術を拓く者〟…その特性上〝護身術〟、〝近接戦闘〟は不得手な者が多い…それは君達にも当てはまったらしい」


これは行けない…少なくとも私程度の近接格闘術を捌けねばもしかすればの時には致命的な隙に成るだろう。


――ヒュンッ――


「ッ良し!」

「ん?」


そうこうする内に背後からヒュルリと一陣の風が吹く…いや、その風は物を攫う様な風では無く、生命を刈り取るが如き〝疾風〟ではあったが。


「構築から発射までが恐ろしく速い…威力も中々…初歩的な魔術だが、初歩的故の〝簡便さ〟が脅威に成り得る」


――バチンッ――


「ッ今のは…〝防郭魔術(シールド)〟!」

「その通り!」


――ドッ――

――ゴキッ――


「グゥオッ!?」

「〝炎獣・狼〟!」

「ッ…〝召喚術〟と〝火属性魔術〟の複合…!……〝自立思考の魔術〟を操る〝簡易召喚戦術インスタント・サモナー〟か…中々面白い試みだ!」


――ジュゴォッ――


「ッ今度は〝水〟!?」

「魔術感知には何の反応も……まさか、〝隠蔽〟か!?」

「〝違う(NO)〟…隠蔽魔術は欠点として〝常時発動〟が必要だ…私程度の魔力では精々自身の魔力情報を隠す以外では長時間使用は出来ないよ」


その魔力情報を偽装している可能性はまぁ有るが、生憎私の魔力量は魔術師の中じゃ〝中の中〟だ…。


「じゃあ…何だ…さっきの防郭魔術も、水属性魔術も急に現れて――」


「…〝自動化〟……〝魔術の自動迎撃〟…?」

「ッ!!!――〝素晴らしい(アメイジング)〟!…その通りだ菅野月人君!…良く其処まで行き着いたね!」

「ッ…!――まさか、本当に?」

「そのまさかだとも!」


私はそう言い、生徒の一人、菅野月人君へ首肯する…偶然か、或いは仮説、憶測の一つ、もしかすればの空想だったのかもしれないがそれでも彼は〝其処まで至った〟…ならば答えよう。


「――君達の魔術は〝全て相殺〟サれていたのだよ、私の〝構築〟した魔術によってね――おっと、有り得ない、不可能だとは言わせないよ、何故ならば事実だからね…」


私はそう言い、掌を天へ向ける…そして、私が今、〝数分前の試合開始前から発動している〟魔術の構築式を〝投影〟する。


――ブォンッ――

――カカカッカカカカッ――


『ッ!?』


ソレは掌の上を伸び続け、肥大し続ける魔術膨大な〝魔術式〟…それもその筈…何故ならばこの〝魔術〟には各属性に対応した防御パターンを〝何万〟と用意し己へ向けられた魔術に対して最適且つ最低限の魔術、魔力を算出し構築して迎撃する〝防御特化〟の魔術式…私の傑作の一つなのだから。


「この防御式は私が現有する知識の、ほぼ全ての魔術を組み込んでいる…コレを再現しようと思わない様に、最悪脳が焼け焦げてしまうからね」


少なくとも字波君程度の実力は無いと使う事すら出来ないだろうし、字波君でもこれの管理は難しいだろうね。


「この魔術の肝は強力な〝魔術防御〟と〝維持魔力〟の低さだ…例えば初歩的な〝炎球〟が魔力消費10として、〝魔弾〟が3…ではこの魔術の消費魔力は…何と〝2〟だ…そう、炎球と魔弾を同じ様に展開し続けるよりも遥かに〝コストが安い〟…まぁ維持だけ、なのだけどね」


出力を上げれば感知範囲も大きくなるが、それは置いておこう…。


「兎も角、これは〝魔術〟が此方へ来て、感知範囲に入った瞬間、その魔術を迎撃する〝防御魔術〟だ…だから防郭魔術の様に常に〝障壁〟を展開する必要は無く、その魔術を防ぐ瞬間にだけ魔術を展開する…だから、何事もなければ常時発動していても問題は無い…そして、こう考えるだろう……ならば〝物量〟でと…それも対策済みだ」


その対策こそがこの魔術、もう一つの〝特性〟なのだから。


「この魔術は周囲の〝魔素(マナ)〟を吸収して迎撃出来る…だから、相手の魔術を相殺した分だけ、破壊された魔術の残滓…即ち魔素を吸収し魔力に再度変換して維持と迎撃に回せる…コレだけ聞けば完全無欠と思うだろうが、残念…デメリットも当然有る」


完全無欠何てモノはこの世に存在しないのだよ。


「先ず、この魔術を展開してる内は下手に動けない…一歩動くだけで魔術が崩れ機能しなくなる、次に感知から迎撃まで若干間が有る…なので感知から迎撃に移らせない程の速さならばこの防御魔術を突破出来る」


後は弾幕による魔力枯渇も、狙い目では有るが…かなり時間が掛かるとだけ言っておこう…高耐久自動回復持ちの敵を防御の上から削り殺す何てゴリ押しの〝不毛さ〟は誰しも理解出来るはずだ。


「さて、私の魔術自慢は此処までにしよう…都合の良い戦闘データは手に入ったし、君達へ課題を出そう…なに、簡単だ…君達の〝能力を活用した戦術〟の考案だ…データは複製して全員に配布しよう」


私の魔術に関する物は軽く修正しておくがね…馬鹿な学生が面白半分に使った結果、脳味噌がチンされた死体に成る…何て事に成る訳には行かないからね。

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