勿体無い
いやうん、最初の内は何が何だかてんで理解できなかったよ?
でも取敢えず意識は生きてたし?身体は動かないけど君の記憶は覗けたしで3日位暇潰ししててさ。
非現実だけどまぁ、君自身が非現実の産物だし、君が取り込んだ私の魂が君の支配を受け付けなかったんだよ。
『あ、あり得ん……わ、我の支配を拒絶したなど……下等な人間が、ましてや魔術も知らぬ人間如きが出来る筈が――』
『そうは言われても事実だし…まぁ君の支配が私の魂に効かなかった理由はこの3日間で良く理解したよ』
何処か驚愕と動揺を抱く悪魔にそう言う。
『何を言って――』
動揺する悪魔の言葉はそれ以上続く事は無かった。
『悪魔が魂を喰らう行為は“力“を得る為だ、ではどうやって力を得るか?…分かりやすく言えば人間の食事だよ、質の良い食事を取り栄養を消化と共に吸収する』
悪魔としては魂を喰らいその魂の精神を折り、そして徐々に己と同化させる。
『結論を言えば君では私の魂を殺し切れないって事さ』
種明かしをすると悪魔の顔は見る間に信じられぬと言う様に変化する。
『封印方法は簡単、君の記憶から封印以前の“魔術様式“を、君からは“魔術含めた豊富な知識“を学ばせてもらった』
濃密で、面白く……とても楽しい時間だった。
『ただ一つ……気掛かりなんだ』
私は身体を“動かせない“アスタロトに歩み寄り、その心底怯えたような眼を除く。
『君はその知識と魔術の素養が有ると言うのに何故“研究“を怠ったんだい?』
優れた才を持ちながら、彼より遥かに劣った存在に封印された……答えは分かり切った事だ。
『“慢心“、“油断“……君は己の才を振りかざすばかりで磨こうとしなかった……“勿体無い“』
これ程興味深い玩具も無いだろうに。
『な…に……を…?』
『ん?……あぁ、簡単な話そうだねぇ、君の全てを私の物にしようと思ってね』
その為に彼をもう一度封印した、こうして出会い、彼の精神を擦り減らすために。
『どうせ使わんのだ、私が貰っても構わんだろう?』
私は楽しみで堪らんのだ、コレからどう魔術を弄ろうか。
――愉しみでならない♪――
『ギィィッ!?―ヤメロ貴様ッ、貴様ァァァッ!?』
『煩いよ、君は私を殺そうとした、つまりは逆に殺されようと文句は言えないだろう?』
悪魔腕を掴む、悪魔の精神と私の精神は混ざり合い、悪魔は悲鳴を上げる。
『ヤメ……ヤメテクレッ…タノム、後生ダ』
『嫌だよ、私だって死にたくないし……まだ、私のコレクションを全部調べ終わってないんだよ』
叫び、嘆願する悪魔の戯言を無視して着々と同化を終える、九割同化した頃には悪魔の自我は消え失せすんなりと肉体を手に入れられた。
「――うんうん、やっぱり動ける身体が有るのは良いねぇ?」
数日ぶりの肉体の躍動に少しの開放感を感じ、思わず笑みがこぼれる。
「いやしかし、本当に博識だねアスタロト君は、こんなに魔術の知識が有るなんて♪」
コレは研究し甲斐の有る……フフフッ♪。
いやぁそれから毎日魔術やら悪魔の知識やら生態、肉体構造、錬金術や呪術と汎ゆる知識を調べて実践し、そして研究して改良するを繰り返すこと百回、二百回、いや千は超えるかな?。
「うんうん、風の術式と出力を調整すれば炎の魔術の火力は上げられるね――」
「へいへい私、この封印の解除方法分かったよ〜?」
「お!漸くかい?」
私の分体の台詞に私は立ち上がり分体と同化する、すると途端に脳に膨大な情報が流れて来る。
「あ〜成る程成る程、結界術の多重展開…大体百枚の連結変動結界って所かな?」
中々ハードな仕掛けだねぇ、面白そうだ。
「アスタロト君はこの面倒な仕掛けをクリアしてずっと待ってた訳だ……中々優秀じゃないか♪」
そして、所有者不在の状態でピカロ君が触れ、所有者に、そして開いたと同時に出て来てアスタロト君が所有者に成り代わったんだね。
「まぁつまりはこの“王の宝物庫“の所有者権限を私に移せば簡単に出られる訳だ」
――ブゥンッ、ブブブゥンッ――
――カチカチカチカチッ――
10の魔術陣が高速で回転する。
「結界を全部私の物に改造し――」
――ガチャガチャガチャッ――
「【宝物庫】の蓋に直接干渉」
「内部プロテクトを突破し【宝物庫】の核へ」
高速で作り変えられる宝物庫の中で、私は意識を操作に集中させる。
「【宝物庫】へ、所有者権限を私に譲渡せよ」
『了承、“新たな所有者“』
「……コレでよし!」
――解錠せよ――
こうして、私は久し振りの空を見たのだった。
「取敢えず大学に戻って私のコレクションをこの中に入れよう」
――シュンッ――
「それよりも魔力隠蔽だね、アスタロト君が居たんだ、他の悪魔が既に居ても不思議じゃない」
面倒事は勘弁だからねぇ。
31■■年、4月6日。
その日、世界全土は混乱に見舞われた。
膨大な魔力反応を確認、脅威度は“S“、かつてあの大災厄を引き起こし消えた悪魔と同程度の魔力量。
各国から派遣された調査及び鎮圧を命じられた“二つ名“持ちは感知された地点へ急行すると。
『ッ――!?』
悍ましくこびり付いた、魔力の残滓とだけが不気味に残っていた。