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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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決行前夜

「〝悪魔〟を構成するのは〝瘴気〟と〝悪意〟…不浄に属し、不浄を纏い…清浄を、中庸を、善良を蝕む〝癌細胞〟の様な物だ」


――ガリガリガリッ――


「オマケに小賢しく、悪知恵が働き、生き汚い…だから〝保険〟として君達に〝寄生〟している…つまりは〝人質〟に近い」


屋敷の広間に集う、5人…その視線は広間に紋様と〝祭具〟を設置する私に注がれ、その視線を受けながら私は彼等へ説明する。


「下手な〝やり方〟では刺激するだけで意味が無い…安全策は通じない…と、私は結論を出した」

「……つまり、何が言いたいんだよ?」


私の言葉にマックス君はそう言い私へ訝しげな視線を向ける…ふむ…確かに遠回しに言っても無駄では有るか…。


「――そうさね…此処は人思いに〝ぶっちゃけよう〟か…〝安全策〟が通じないなら〝危険策〟で挑む…つまり君達にもそれなりの綱渡りをしてもらうと言う話だ」


私がそう言うと、彼等は少し身を固くするが努めて冷静に事実を受け入れる…流石白昼堂々の襲撃を敢行しただけは有る、肝が座っていて大変結構だ。


――カタンッ――


「具体的な〝やり方〟を説明しよう……先ず此処一帯を〝聖域〟に作り変え、君達の中に潜む悪魔を強制的に引っ張り出す〝儀式〟を執り行う…そして聖域に浮き出た悪魔と君達の魂に〝境界〟を作り、融合を解く…コレが第一段階…この段階で留意して欲しいが、この時点で恐らく、君等の肉体は悪魔側に主導権が渡るだろう、精神は意識を保ち〝悪魔の心象〟の中に囚われるだろう、君達の役目は〝事が終わるまで〟の間…その世界で精神を強く保って欲しい…狂ってしまえば〝作戦は破綻する〟からね」


そして私が考案し、選んだ〝解法〟はズバリ…〝耐え忍ぶ戦い〟で有る…悪魔と人間の精神に隔て、其処を叩くやり方だ…問題は。


「オマケに更に1つ、君達に負担を強いる事になる…フェーズ2では聖域内に捕らえた悪魔と君達とで〝我慢比べ〟をしてもらう…君達の魂を高濃度の〝浄化の魔力〟に晒し…悪魔を削り殺すまで耐え凌いでもらわねば成らない……如何に聖の力と言ってもその濃度は〝強力〟だ…剥き出しの魂にはそれなりのダメージが行くと思うが、其処は耐えてくれ」


この作戦が相応の苦痛を孕み、その上〝確実とは言えない〟…失敗する可能性も有ると言う事だろう…最悪、悪魔諸共彼等を殺す事にも成りかねない。


「決行は明日の0時…〝深夜〟に入ってから行う…悪魔側の性質が強い方がより〝浄化〟の影響を強く受けるからね」


それでも比較的この〝策〟が最善なのだから仕方無い…後は出来得る限りの事をするだけだ。


「私は〝聖域〟の調整に掛かるから、君達は今の内に精神肉体共に〝癒やす〟と良い……好きな物を食べ、好きな事をし、好きに遊び、今この一瞬に満ちると良い……精神ストレスを限りなく減らした状態で儀式に挑める様にしてくれ」


私はそう言い彼等を叩き出し、広間に構築されていく〝聖域〟に手を加え、来たるべきその時の為にと手抜かり無く点検する。


「……或いはそれが〝最後の晩餐〟に成るやも知れないのだからね」


その尻目に屋敷を出る、彼等の後ろ姿を視界に収めながら…。



○●○●○●


「――コレはコレは、お早い到着ですな〝八咫烏〟の皆さん」


迷彩服を纏い、屈強な焼けた肌の男はそう言い飛行機からゾロゾロと居りてくる十数名の魔術師と、ソレを率いる指揮官へと歩み寄る。


「此方こそ態々出迎えありがとう…自己紹介がまだだったかしら…〝八咫烏〟所属、〝戦の天鋼〟級…魔術師、〝天堂灯香(てんどうとうか)〟よ」


そんな彼に対して、番傘をクルクルと回しながら和装を華麗に着こなす…何処か妖しい雰囲気を醸し出す令嬢はそう言い、彼と彼の部下を面白そうに眺めながら手を差し出す。


「私は第41中隊指揮官、〝フロルド・リッカーマン〟です、今回の任務は貴方達から詳しく聞く様にと上から言われています…早速状況の説明を伺っても?」

「えぇ、構わないわ」


そして、フロルドと名乗るその男は差し出された手を握り返し…華奢な美女の眼差しを真っ向に受けながら職務を全うする。



「――……〝八咫烏〟が人員の輸送を終えたわ、コレから送信された座標を囲む様に鎮圧部隊を配備する」


その一方…学園の執務室で、字波美幸は彼方の〝友〟へ定例の報告を入れる。


「『――素晴らしい、この展開速度…余程私の研究成果がお気に召したかな?』」


すると、電話の主はその報告に対して愉しげに声を上げる。


「えぇ…それはもう効果覿面だったらしいわよ…それより、通信は大丈夫なの?」

「『〝試作品〟の設計図だがお気に召したなら良かったよ…あぁ、もう問題無いよ…〝最終調整〟は済ませたから、後は上手くやるだけさ』」


その言葉を聞くと、字波美幸は少し沈黙し…何かを考え込む様に視線を彷徨わせる…そして、その行動を察知したのだろう、男の声は苦笑混じりに落ち着きの無い字波美幸を諭さんと言葉を紡ぐ。


「『――そう逸らない、字波君…何時も何時も必要以上に〝焦る〟のは君の悪い癖だ…何時も言ってるだろう?』」

「ッ……そうね」

「『「〝不安は抱け、しかし不安に呑まれるな〟」…そうだ♪』」


奇妙な沈黙が一瞬、二人を包む…彼女の瞳には郷愁が篭もり、その視線は電話の先、彼方海の向こうの男に向けられ、その男の声には〝優しさ〟が滲み、彼女の耳にだけその声が届く。


「『感情は優秀な〝精神のエネルギー〟だ、負であれ正であれ、その感情は莫大なエネルギーを秘めている…上手く使えば優秀な〝道具〟だが、取扱いを違えれば〝身を滅ぼす〟と……遥か昔から人類は証明して来ただろう?』」

「…えぇ、そうね…」

「尤も、激情に呑まれる事も時として有益に転がる事も有るがね」

「あら…経験が有るような言い方ね?」

「まぁね…可愛い後輩の翼を折ろうとする人間を処理する時何かは、それなりの役に立ったものさ」

「――」

「『さて、世間話も程々にしておこう…流石に1日中通話しっぱなしと言うわけには行かない…赤貧研究者にはそんな余裕は無いからね…何、用が終われば何時間でも話し相手に成ってやるとも』」


そして、そう言うと電話はプツリと途切れ…静寂と沈黙…そして。


「……」


気恥ずかしさと動揺に顔を赤くした〝乙女〟が…その場に取り残された。

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