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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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憐れな子羊と欲張りな狼

「……どう…やって…」

「ん?……嗚呼、うむ…まぁ良いだろう…君達にすれば緊急事態だ、事態の把握は成る程君達にとって何よりも優先すべき事柄だ」


私は彼等の視線を遡り、己が背後に鎮座する〝空間の歪み〟…彼等言う所の〝ゲート〟に目を向ける。


――パキンッ――


「至極単純な〝話〟だよ…君の魔術を〝解析〟しただけさ…〝リリス〟君?」


空間に干渉し、動かし、固定し、入れ替え、拡縮する〝魔術〟…実に〝美味かった(調べ甲斐が有った)〟…。


「――尤も口惜しい事としては、その魔術式の構築法、等は知れても、空間を〝跳躍する〟原理までは〝分からなかった〟事だが」


其処は仕方無い…何せ、この魔術を彼女へ与えたのは神ではなく――。


「――〝悪魔〟から教わった…いや、〝見知った〟のかね?…だとしたら君達は私の想像を超えて〝優秀〟な人材と言う訳だ♪」

『ッ!?』


そう、悪魔だ……神代の残り香、堕落の神話…欲望の化身共…それが彼等の〝裏〟…その証明として――。


――ギリィィィンッ――


「――シィッ!」


明確に彼等から〝冷静さ〟が失われた。


――ゴッ――


鈍い音と共に、筋肉質な彼…恐らくは〝破壊〟の性質を持つ者が、その拳を振り抜く…私の防郭を破壊しようと目論んだのだろう…しかし、それは通らない。


――パキィィンッ――

――『キュイィィンッ』――


「一度犯した〝過ち〟をそう何度も繰り返すと思うかね?」


多重に展開された防郭の1つを、拳が砕く…すると、砕かれた防郭の下に展開している防郭が淡く輝くとその瞬間。


――ドボォッ――


「ヅァァッ!?!?」


その防郭に触れた破壊の彼の拳を逆に破壊し肉片に変える。


「〝反射防郭(リフレクト・シールド)〟だよ、術式を〝記録〟する防郭と〝反射構造〟を備えた防郭から成る特殊な防郭術式だ…少々魔力を食うが、君への対応としては悪くない性能だろう?……さて、事態は落ち着いて自己紹介と言う雰囲気でもなくなってしまったか……では仕方無い、後で脳髄から直接名前を引き出すとして…だ、率直に聞こうか諸君」


吹き飛ぶ彼を置いておき、四方から此方へ得物を向ける彼等へ…私はその〝秘密の領域〟に踏み込む。


「君達は〝悪魔憑き〟と言う奴だね?」


その問いに、彼等は答えない……しかしそれでも、微かに揺れる眼と、焼け付く様な執念の炎を見ればその沈黙が肯定の意で有る事に疑いの余地は無い。


「――君達は〝悪魔〟を狙って私を標的とした…それだけなら〝教会〟の差し金かとも思ったが…教会の手の者なら〝対不浄〟に於いて圧倒的に優位で有る〝浄化〟…つまりは〝聖〟の力を使えば良い筈だ…しかし君達はそれをしない、何故か…〝出来ない〟からだ…君達が〝教会〟の人間では無いからだと推測出来る」


ツラツラと紡がれる私の言葉に、彼等は依然沈黙する…しかし、次に私が懐から〝ソレ〟を取り出した時。


『ッ!?』


恐らく彼等の内で何かが有ったのだろう、皆がその〝剣〟に視線を釘付けにする。


「――次に、君達からは〝人と魔〟の匂いがする…しかし、両方の匂いがするにも関わらず、〝コレ〟は反応さえしていなかった事…つまり、私のケースと違い、君達は〝人と魔〟が別々に存在している状態…つまりは〝悪魔憑き〟の状態に陥っていると判断した…此処までで何処か過ちは有るかね?」


私は剣を元の位置に戻しながらそう聞くと、彼等は皆…武器を降ろし私と距離を取りながら…しかし先程までの険悪な雰囲気を鎮めて、私を見る。


「――ふむ、沈黙は〝無問題〟と判断しよう…そしてそろそろ…君達の目的を聞かせてもらおうか…以前までの我々は〝敵対者〟で有ったが、現状を把握すれば、或いは〝共闘〟出来るやも知れない」

「……お前は〝悪魔側〟じゃないのか?」


そして漸く…リーダーらしい男が私へ疑問と警戒を込めた言葉を発する。


「――質問の答えは〝いいえ〟だ…私は確かに、君達が警戒した様に〝特殊な存在〟だが、決して〝人類の敵〟では無い…かと言って必ずしも〝善良〟と言う訳でも無いがね」


そんな私の言葉に、嘘偽りは無いと判断したのか…彼は集団を代表し、私の問いに答える…。


「俺達の目的は……俺達に〝取り憑いている悪魔〟の排除だ……その為にお前を〝利用〟しようとした」

「……ふむ、まぁ概ね予想通りだね…続け給え」


そして、彼は語り出す……彼等がこの〝集団〟を築いた経緯と、此処に至るまでの経緯、その全てを。



生まれついて〝悪魔に取り憑かれていた〟事。


〝新月の夜〟になると必ず〝悪魔〟が牙を向き、周囲の者に危害を加えていた事。


その被害規模は彼等が成長する度に大きくなり…遂には人を殺し掛けた事。


その折に〝同じ境遇の者〟と出会い、今迄様々なやり方を試していた事。


そんな時…テレビの映像に映る〝私〟を見て…私の中にも悪魔が居ると知った事。


そして……私が、卓越した知識を保有していると言う事を知った事…。


「――成る程、大体は理解したとも…実に不運だったね…それで、私の知識を宛てにした訳か……やり方は気に食わないが、その経緯には同情しよう」


話を聞き終え、私は彼等に憐れみを向けてそう言う…すると、リーダー…〝ライト〟君が私に真剣な眼差しで請う。


「頼む〝タカヒロ〟……俺達に協力してくれないか…!」


〝助力〟を…私の力を求めて……うむ、私としても彼等に対して良心が揺れ動く所…勿論だ、と即答で返して上げても良いが…生憎。


「――〝対価〟は何だね?」


私は悪い人間だからね…無関係の人間に〝無償〟で何かをして上げる…何て、物語のヒーローの様な事をするつもりは毛頭無い。


「私が君達に協力するだけの〝対価〟を提示して貰おうか…〝ライト〟君」


私はそう言いながら、眼の前の憐れな子羊達を値踏みする様に視線を送った…。

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