奇襲と迎撃は裏返る
――バキバキバキッ――
〝砕け散る〟……何層に展開した〝防郭〟が、小枝を折るが如く容易く。
〝砕け散る〟……敵へ手向けた〝銃器〟が…知覚の間もなく、唐突に。
――バキバキバキッ――
「ガハッ――ッ!?」
〝砕け散る〟……襲撃者の拳を食らった私の胴体の骨肉が、硝子の様に容易く砕かれ…砕けた骨の破片が私の身体を深く抉り抜ける。
――カチッ――
――ジュウゥゥゥッ――
「――見たことの無い魔術だ、発動条件は〝視認〟か?」
いや、それだけなら態々私へ殴り掛かる理由が無い。
「ッ――と、そう悠長に考えさせてはくれないか!」
(此処は不味い、人気が多過ぎる…下手に戦場にすれば人死には必至…なら)
――ヒュンッ――
「――〝逃げるが勝ち〟ってね」
「ッ!」
空中を弾丸の如く駆け抜け、私に執念の籠もった一撃を見舞う襲撃者…その拳を寸前で躱し、空へ逃げる。
(相手の狙いは〝私〟だ…何故だかは知らんがね)
何故私を狙うのか?…私が潰した〝組織〟の生き残り?…否、私の存在を示す証拠は全て抹消した。
では、〝八咫烏〟に恨みを持つ者達?…否、それなら標的は私以外にも居るはずだ。
あの場、あの状況で私だけを狙うと言う事は…私とその他では明確に違う〝何か〟が有る筈……となると…。
「――成る程、そう言う事か」
(…私と融合した〝悪魔〟を狙っているのか?)
「……試す価値は有るな」
空を駆ける、雲を突き抜け大地から此方を視認出来なくなる高度まで進み…私を追う彼等を〝視る〟
『ッ!?』
「――〝当たり〟だね」
確かに今、私の魔力に反応した……狙いは〝悪魔〟だ。
「――最初の疑問はコレで解決…次は――」
「――ッフン!」
肉薄する相手を視認しながら私はそう思考を呟く…その独り言が言い終わらぬ内に一際速く接近した〝襲撃者〟がその拳を構え…速度を乗せて振り抜く。
――ドバァッ――
その一撃は重く、私の頭をどころか上半身を丸々吹き飛ばす程に重い一撃が直撃する――。
――ガシッ――
「――面白い〝魔術〟だ」
「ッ!?」
次の瞬間、私は振り抜かれた襲撃者の拳を〝掴み〟…吹き飛ばされた私の〝身体〟の後ろから現れる。
「月人君の〝破却式〟に近い…だが決定的に異なる魔術…〝破壊〟の魔術か、発動条件は対象の視認と破壊対象の構造の理解…そしてもう一つ…自身にその力を〝付与〟し、攻撃を加えた相手に問答無用で〝破壊の結果〟を叩き込む……違うかね?」
「ッ――〝リリス〟!」
そして、驚くソレの頭へ手を伸ばす…その時、漸く襲撃者が声を上げる。
――ブチッ――
「――ふむ、コレは…」
その瞬間、私の視界が反転する……空を足場に大地へ落ちていく…何故かと言う疑問は直に晴れ、私は己の状態を正確に把握する。
「〝切断〟…いや、〝分割〟か…空間を指定しその空間内に有る私の身体を〝隔て〟た…」
故に私の四肢と首と胴体が切り離された訳だ…さて。
「――白昼堂々襲撃してくるだけ有って、〝強い〟ね」
(流石に5人も同時に相手しては居られないか…だが)
――ピクッ――
「〝奇襲〟するには、少し時間を掛け過ぎたね?」
私に拳を振るう者、彼方から此方へ迫る者、距離を取り機を伺う者…その全てを視界に収め…しかし、私は彼等には認識し得ない〝モノ〟を見る。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ――
大地に蠢く、朱き紋様の集積を。
○●○●○●
「……まさかまだ抵抗するとは…」
「可愛い顔して〝凄い〟わね…」
天高く、太陽の鎮座する蒼天の空…其処を泳ぐ異物達はそう言い、未だ己等の手をすり抜け続ける〝標的〟へ視線を注ぐ…其処には。
「フンッ!」
「――容赦無いねぇ君?」
頭蓋を狙い拳を振り抜く仲間、その攻撃を尽く躱し…剰え挑発的にそう言う男が居た。
「〝リリス〟はそのまま後方で支援を、残りは交戦範囲に入った側から仕掛けるぞ――ッ!?」
黒衣の者達は尋常ならざる速度で戦う仲間と敵へと肉薄し、その牙を向こうとした…その刹那。
――ギロッ――
仲間と戦っていた筈の男と目が合う、その灰色の瞳が機械の様に冷たい意思を込めて黒衣の集団を見た…その瞬間。
「〝時間切れ〟♪」
「ッ!?――全員逃げ――」
男の口が愉悦に歪む…その言の葉をいち早く捕らえた仲間がそう言い警句を叫ぶ…しかし、それが己等に届き、行動に移すよりも早く…〝敵〟が動いた。
――ブワッ――
ソレは決して大きくは無い〝魔力の放出〟…行って意味が有るわけではない、ただの〝魔力の噴出〟…標的の男はただ、それだけをするとその後に何をするでも無く我々を〝覗き込む〟……その瞬間。
――カッ――
〝赤〟い閃光が大地を埋め尽くし……空を突き破り…無数の〝血の刃〟が己等へと牙を向いた。
○●○●○●
「〝召門:血塗れの千剣〟」
私を中心に赤い〝紋様〟が宙に生まれる…それは天上に浮かんだ小さな狼煙と共にその門を開き、その中から赤黒い血の〝武装〟が何百何千と飛び出して天へとその刃を突き立てる。
「字波殿、そんな事をして良いのですか!?…上にはまだ彼が――」
「えぇ、知ってるわ……コレで良いのよ」
その光景にメディアや八咫烏の職員達がそう言うが、私は其れ等を聞き流し天上の〝彼〟を視る。
「『〝―――〟』」
その彼の声は遥か彼方が為に、聴力を強化しても捉えることは叶わない…しかし、その微笑みと、口の動きから…彼が言った言葉は理解出来る…。
「――フフッ…本当に、困った〝人〟なんですから…」
それは、遥か彼方の日から何一つと変わらない……彼が私へ向ける…〝感謝の仕草〟だった。
●○●○●○
――ザザザザザッ――
「――流石〝字波〟君……〝良く分かっている〟」
血の刃をその身に刻みながら、私は遥か大地の敬愛すべき友人に、心からの賛美を送る…彼女は何時だって私の求めている解答を出してくれる…素晴らしい〝友人〟だ。
「〝第四刻印〟並び〝第五刻印〟――〝起動〟」
感激も程々に、私は刻印を身体に這わせ…刃の群れを避けて突き進みながら、適当な〝武装〟を掴み眼の前の〝襲撃者〟へと振り抜く。
――ズパァンッ――
「ッ〜〜〜〜!?」
「――さぁ、形勢逆転と言った所だね?」
そして、そう言い…襲撃者の彼へ力任せの斬撃を繰り出した……。




