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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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権威の鎖に縛られず

「――八咫烏でも問題と成っていた○○市の行方不明問題、その原因は一人の魔術師が原因で有る事が判明した…そして」

『………』


――ガシャンッ、ガシャンッ――


「…その魔術師が不死を目指した結果、その研究は失敗に終わり暴走した」

『……』


――ガシャンッガシャンッガシャンッ――


「……そして、その魔術師を討伐したのが〝彼〟よ」

『……』


――ガシャガシャガシャガシャッ!――


「――グムムムッ、クソッ…この身体では年相応の筋力しか発揮出来ないか…前の肉体なら魔力封印に特化しただけの鉄枷なんぞ引き千切ってやれた物を――」

「――孝宏」

「ッ!?――いやいや、私は何も此処から逃げよう等とは思って等ッ、ただホラ…少し窮屈なもので!」


字波君の言葉に私は漸く、自身に集中する視線に気が付く…いやぁ、コレで何度目の景色か、天鋼の称号を保有した優秀な魔術師諸君の揃い踏み……尤も、その会合が今までと異なる点はただ一つ…。


「――別に逃げはしませんので、この拘束は解いてくれませんか?」


私の立場が〝字波君の従者〟から、〝今回の会議の主題〟に成っている…と言う点だろうか。


「駄目?…じゃあ仕方無いですね……全く、想定よりも大分早い段階で仕留めたと言うのに…まさか既に魔術師が派遣されているとは…」


私がそう恨みがましく席に座る八咫烏の局長を見ると、彼は嬉しいやら疑問やらで複雑に歪んだ顔を私に向けて字波君へ問う。


「〝紅月〟殿……彼は一体何者何ですか?…」

「……ちょっと説明に困るけれど…そうね…一言で言えば優秀な〝問題児(トラブルメーカー)〟かしら…」

「ソレは褒め言葉では?…いや、私としてはコレでもかなり合理的に物事を進めているつもりなのですが…」

「あら?…今回もそうなのかしら?…〝アレ〟で?」


字波君の言葉にそう漏らすと、その横合いから私を誂う様な声が響く…其処には、金の長髪を揺らして、吸い込まれそうな程深い大きな瞳に愉悦の光を揺らす美女…〝天堂灯香(てんどうとうか)〟が私を見てそう問い掛ける。


「えぇ、まぁ…あのまま潜伏されていれば間違い無く〝最悪の結果〟に成っていたでしょうね」


彼女への返答に対してそう返すと、今度は白鵺翔太君の隣から、筋肉質な肉体に眼鏡を掛けた男前なスキンヘッドの男性…〝喜多江増永(きたえますなが)〟君が煌めく道徳心の籠もった反論を出す。


「――〝最悪の結果〟なら、君の策によって生徒達が死ぬ方が〝最悪〟ではないのかね?」

「――それは〝御尤も〟…確かに情報だけではそう判断する事も無理は無い、過ぎ去った今と成っては私の判断が本当に正しいかどうかは討論する事も出来ないでしょう…ですが、〝生徒達の安全〟は最大限確保した上で〝作戦〟を練ったと私は申告しましょう」

「……」


私の言葉に彼は沈黙する…彼の言葉は間違いでは無い…人道に基づいた実に正論的な問いだ。



「――まぁ、其処は詰めてもじゃあねぇだろ……それよりも〝先の話〟をしようぜ?」


そうしていると白鵺翔太君が沈黙に満ちた室内にそう声を響かせ、話題を切り替える。


「……そうだな」

「そうね……それじゃあ話し合いましょうか……〝彼を天鋼級〟に任命するか否か」

「ゴフッ!?」


――より〝最悪〟な方向に…。


「――な、何の冗談ですか?…生憎私は皆様の様に特筆した武力も、膨大な魔力も保有していない〝普通の魔術師〟ですよ?…その称号は荷が重いかと!」

「――あら、あんな〝大魔術〟を一人で構築出来るのに、謙虚なのね?」

「――アレは相手の術と私の能力の相性が良かったからで、完全に〝一人〟ならあんな魔術を一人で形成出来無いですよ」

「――〝天鋼級〟は何も武力だけが求められる訳じゃない、知であれ武であれ、他を隔絶した能力が有れば十分にその資格は有る」

「――並の人間よりも魔術に関する知識が深いだけです、買い被りすぎでは?」

「魔術式関連の論文が7冊、魔術薬学関連の論文が3冊、魔術工学関連の論文は3冊で、内一つは〝瘴気浄化施設〟……他の論文も高水準で界隈の学者達からの評価も高い…コレでもまだ否定するの?」

「先人の知恵のお陰でしょう――」


彼等の言葉に否定の意見を唱え、説き伏せようとする…それにしたって多過ぎないか私の情報、何処まで調べ上げているんだ!?…。


「良い加減にし給え、何故其処まで頑なに〝昇格〟を拒否する…君にとってはメリットの方が大きい筈だろう――」

「〝冗談じゃない〟…誰が好き好んでそんな重荷を背負うか」


私は鋭く私へ問い掛ける局長君へ、更に強く否定を口にする…その一言に場の空気は静まり返り、私の言葉だけが強く木霊する。


「私が八咫烏に所属したのはただ〝教師としての実力の保証〟が必要だったからと言うだけだ、それ以外は報酬以外に何も求めていない、名声も他者からの評価も知った事ではない…私の根底は〝研究者〟だ、〝権威者〟では無い…天鋼級に昇格して、その名声が私に呼び込むのは下らない下心と権力争いだろう?」


そんな物は不要だ、寧ろ害悪でしかない……私はただ好きな事を研究し、好きな事をしたいだけの人間だ…下手な権力等持つべきではない。


「故に〝不要〟と言っている……理解して頂けるか?」


私がそう言い、彼等を見渡すと…皆呆気に取られたような顔で私の顔を見る…唯一字波君だけが、平静を保ち…私へ言う。


「――成る程…話は分かったわ……けれど、流石に今回の件を放置する訳には行かないわ…もう既に民間人に今回の件に貴方が関わっている事は周知されている……八咫烏にも〝体面〟が有るのよ」

「………それは承知しているよ…しかし〝無駄な権力〟を与えられるのは御免だ」


そして暫しの沈黙が場を制し……遂に、局長がその口を開く。


「君の意見は十分把握した…〝天鋼級〟への昇格を拒否すると言うのなら…こう言う〝やり方〟ならばどうだね?」


そして…その口からは驚くべき提案が飛び出し…私に強い衝撃を与えるのだった……その提案とは……。

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