神話、或いは伝承の魔術
――キーンコーンカーンコーンッ――
「相変わらず時間内に集まってくれるのは素晴らしいね!…流石魔術学園一年の優秀者諸君だ、その意識は素晴らしい、花丸100点を贈呈しよう!」
午後1時半の私の〝講義の時間〟…現在我々が居る場所は学園が保有する〝グラウンド〟…まぁグラウンドとは言っても〝魔術師用の〟が枕詞に付けば其処がどれだけ危険なものかは重々承知だろう…何重に重ねられた〝防御結界〟…〝危険な魔術〟への〝鎮圧魔術〟等様々な仕掛けが施されている正に〝魔術師の理想的な訓練場〟で在る。
「さて、今日行う講義はざっくり分けて二つ…一つは単純に以前仄めかした〝神話魔術〟について、そしてもう一つは君達、学生魔術師にとっては一つの〝アピールポイント〟、〝刺激と成長〟に満ちた一大イベント…〝学年別魔術師トーナメント〟が近い内に有るので、必要最低限の〝実力〟を付けるよう言われているのだ!」
「先生!」
「はい其処!黒乃結美君!」
「その〝神話魔術〟って言うのは此処じゃないと駄目なんですか?」
「その通り!…とは別に言えないが、何…〝神話魔術〟…いや、言うなれば〝再劇魔術〟とは口頭説明だけでは分かりづらいのだよ…なれば、こうして〝実演〟を…と思ってね…安心したまえ、事前に理事長へ申告しているし、全教員へも伝えている…ホラ」
私がそう言い、指を指したその先を生徒達が見る…其処には。
『………(ジ〜)』
「……」
凄まじい眼圧の教師陣と、その隣で此方を見つめる字波君が居た…うむ、流石の私でもこの圧力には参るね…コホン。
「さぁ、早速お見せしよう…現有する〝古代魔術〟の一旦を!…そして、〝古代魔術〟と言う強大な魔術…その〝危険性〟を!」
私はそう言い、字波君に合図を送る…次の瞬間。
「「「「「ガルルルルッ…!」」」」」
濃密な瘴気と召喚陣が現れ…其処には魔術で縛られた3匹の〝黒狼〟達がヨダレを垂れ流し、憎悪に満ちた瞳で此方を見ていた。
「ふむ…コレはコレは想定外に〝活きが良い〟ね…いや、なるだけ強力な妖魔を所望したが、コレは?」
「〝封印指定〟の妖魔達よ…八咫烏が〝押収〟した妖魔、魔物達よ…本当に大丈夫なの?」
「ふむ…個人的には興味が唆られるがしかし、コレは講義だ…見切り良く諦めよう…そして当然ながら問題無い…が、万が一、億が一と言う事も有る…生徒達は避難させよう」
そうして生徒達をグラウンドの端…教師陣と共に結界の中で見学してもらい、いよいよ始める。
「さて、さて、さぁて…よく見、そして良く記憶する事だ…さぁ、理事長…拘束を解いておくれ」
「…分かったわ」
そして、字波君が拘束を解除した瞬間――。
――ヒュンッ――
風を裂く音と共に殺気が膨れ上がる。
「成る程…拘束による弱体化か…先程は〝金剛級〟に匹敵する魔力量だったが、現在は〝天鋼級〟に匹敵する程のモノになっている…が、しかし…それでも依然、〝私の脅威〟には成り得ない…」
――ゴオォォォッ――
その殺意の牙が私へ触れようとしたその〝刹那〟…〝獣達〟は私から即座に離れる…野生の勘と言うやつかな?…まぁそれは良い。
「〝伝承魔術〟…〝万獣を狩る者〟」
私は事前に用意していた〝古い弓〟と古びた3本の〝矢〟を番える…ソレに脅威を感じたのか、獣達はその矢を躱すように〝旋回〟しながら油断無く私を睨む…。
「……〝我が弓に射殺せぬ獣無し〟」
本来ならば、私の射撃技術では到底動く獣を仕留める事等出来やしない…だが、今の私は〝私であり私では無い〟
――キィィィンッ――
私は空へ飛び…天へ足を着け、地の〝獣〟を視る…そして。
「〝故に我こそは史上の狩人で在る〟」
――パシュンッ――
矢を放った……放たれた矢は、宙を進む…そして…その鏃は地を走っていた三匹の獣、その頭を打ち抜き…獣達を〝虫の息〟に変える…。
――タッ…――
「フゥ……以上、〝実演〟終了だ…では君達へ〝問おう〟…今、私が行使した〝魔術〟…君達の目には何をしている様に見えた?」
私の言葉に、生徒も教師も皆沈黙し…思案する…ソレは字波君も同じらしい。
「……〝矢を射た〟だけに見えました」
そんな中で、一人…他の生徒達が沈黙している中〝菅野月人〟君がそう言う…結構。
「その通り…私はただ〝矢を射た〟だけだ…曲芸紛いの事をしたのは考慮しないでくれると助かるね……兎も角、私はただ〝矢を射た〟だけだ、古くなり劣化した弓、鏃の錆び付いた矢で以て…しかし、それでも私はこの危険極まりない獣達を〝射抜いた〟…コレが私の素の実力だと声高に言ってしまいたいが生憎とそうじゃない…コレこそが〝神話魔術〟による〝疑似再現〟」
この言葉に全員が何かに気付いたのか首肯する…生徒達よりも教師陣の方が熱中しているのはどうかとも思うが良いだろう。
「私を〝狩人オリオン〟と定義し、その権能を逸話から引き出した…だからこそ私は素人で有りながら〝百発百中の弓の技術〟を持ち、放たれた矢は獣達を〝射抜く〟…例えどんなに強力な妖魔で有れ、〝獣〟ならばその対象であり、古びた鏃であっても彼等を〝瀕死〟にまで持っていけるのだよ」
かつてオイノピオーン王の策によって命じられた無理難題の獅子狩りの様に…〝オリオンは獲物を逃さない〟…故にオリオンは絶対的な〝獣を狩る人〟なのである。
「――と、この魔術の利点を語ったね…ではその反面…この術の〝不利益〟について語ろうか」
私はそう言い、三匹の獣を仕留めながら彼等へ説明する。
「この魔術は先述の通り、〝逸話の疑似再現〟だ…で在れば、当然その逸話の主にとって不利益な逸話もまた再現されれば致命的な弱点と成る…即ち、現状の私を最も生命の危機に晒すのは〝二つ〟……一つは〝蠍の毒〟…もう一つは〝恋人の射抜く矢〟だ」
『……(ワクワク)』
「……生憎、私に恋人は居ないよ」
『……(チッ)』
……相変わらず、何時の時代も女性とは色恋に興味が有るのかね?…。
「――兎も角、この魔術は他の古代魔術と比較して〝簡単〟だが…その分だけ〝制約〟は厳しい…下手をすれば死にかねないので〝なるべく使わない様に〟…そして、今後君達が〝魔術師〟として〝魔術師の悪人〟と相対し、且つ相手が〝逸話再現〟を行使するという状況に備えて、逸話に関する知識を蓄えておく様に!……以上で今回の講義は終わり!……講義終了まで残り三十分…余った時間は有効に使おう…と、言う訳で今から〝学生トーナメント〟に向けて、君達の基礎能力を鍛えよう!」
実際、今日のメイン…いや、コレからのメインは間違いなく此方に成るだろうからね!…。
「と、言う訳でだ!…先ずは其処の教職者の皆!…私と〝模擬戦〟しよう!」
『ハァ!?』
『えぇ!?』
おや?…何だいその反応は?…。




