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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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永劫を求めた者

白獅子が黒く染まった…目に見える変貌に知性有る者はその異常に微かな警戒を抱く…その変貌が〝邪を素にしている為に〟…。


しかし、その変貌を気付かぬ者達が居た…否、気が付く筈が無い…ただ血と肉と生命に固執する不出来な不死に、訝しむ知性等持ち合わせては居ないのだから……少なくとも、〝知性〟ではそうだ。


しかし、事態は一変する……黒獅子が睥睨し…身を沈ませ…消えた…その刹那に。


――ヒュンッ――


風を切る音、大地を踏む音…其れ等が響き……屍達は倒れ伏し、塵に消える……己へ死を与えた〝外敵〟を滅ぼさんと〝呪詛〟を遺して。


――ズズズズズッ――


黒獅子へ無数の人形から放たれた〝呪詛〟が迫る…その牙を躍動する生命へ突き立て、貪り食わんと呪詛が取り憑こうとしたその瞬間。


――バクンッ――


『ッ!?』


姿無き工房の主は、狂乱の心臓を驚天に跳ねさせる…渇望する飢えを、一息に染め上げる程の〝恐怖〟を抱いて。


――ゴクンッ…バキッ、バキッ…――


三つの呪詛が身を侵す筈だった、三つの呪詛が魂を貪る筈だった…だが、今この場ではその逆の事象が起きている。


〝喰われている〟……〝黒猫の身体〟に生え並んだ〝牙と口〟が、蝕まんと迫る筈だった〝呪詛〟を逆に貪り、腹に溶かしていた。


〝呪詛返し〟等と生易しいモノでは無い…ソレは〝還元する事の無い消費〟であり、その結末が導き出すのはつまり、〝破滅の加速〟で有る…と、工房の主は本能の片隅、理性の残滓にて理解する。


――〝何が何でも殺さねば成らない〟――


その意思と共に…己の世界を変動させながら……工房の主は、躍動し迫る〝己の死神〟を見てそう心から思い至った。



○●○●○●


――ゴゴゴゴゴゴゴッ――


「――どうやら〝工房の主〟はアルを〝全力で排除すべき敵〟と見做したらしい」


激動する大地、流動する空間…その揺れは地震の如く大きく、立っていられない程大きな揺れはそれだけこの工房の領域が巨大で有る事を物語っていた…。


「〝鉱山全域〟を工房に仕立て上げるとは…二桁年では不可能だね…最低でも百年其処らは掛かる筈だ」

「――悠長に考察してる場合かよ!?…崩落すんぞ!?」


揺れ動く大地、天井は不穏に異音を放ち生徒達は何時生き埋めに成るか気が気でないと言った様子…氷太郎君は、そんな中で一向に焦らない私へ糾弾する様にそう叫ぶ…確かに生き埋めは一大事だ…私も流石に4日遺跡に閉じ込められた時は死の影を感じたよ…うん。


「――あぁ、それは問題無い……〝アル〟」

「『チッ……』」


私の言葉に黒獅子(アル)は舌打ちし、その身から黒い瘴気を滲ませ…その瘴気を胸から全身へと溢れさせる。


「――この工房は〝生命の吸収〟に特化した工房だ…他者を襲い、端末を故意に破壊させ呪詛で生命を吸い取る…そうやってリソースを確保する〝呪詛の防御〟……それさえ分かれば後の事は容易い……〝リソースを手に入れる方法〟を潰してやれば良い」


〝呪い食い〟…或いは〝呪い返し〟とでも言うのが正しいだろうか。


「〝私の心臓〟は〝呪詛を呼び寄せ溜め込む〟、溜め込み〝溶かし〟…〝純化〟する……〝呪詛を貯蔵する呪物〟だ…そして、その力は耐え難い苦痛と引き換えに所有者に還元される」


――ダッ――


変動を始める工房の天井、その崩落が直ぐ側まで迫ると言ったその時…黒い魔力の奔流を身に纏わせた黒獅子が天を飛ぶ…そして。


「『――〝憤怒の熱望(カース・ド・ラース)〟!』」


その言葉と共に、落下する天井へとその牙を向いた……。



●○●○●○


――ズドオォォォォォン!――


響き渡る突然の轟音に、人々は皆して音の鳴る方へと目を向ける…。


「何だ?…爆発?」

「どっかの魔術師が魔術の実験でもしてたんじゃねぇの?」

「あの方向って確か魔術学校の生徒達が行ってなかったか?」

「本気かッ、八咫烏に連絡した方が良いか?」


口々にそう言い、彼等は街の離れにて捨て置かれた廃鉱山…其処から立ち昇る膨大な土煙に目を凝らす……その時。


――ゴゴゴゴゴゴゴッ――


「――おい、何だありゃぁ……!?」


始めにソレを見た誰かが、そう口にした…その声に続く様に、人々はその土煙から覗く〝ソレ〟へ疑問の声を上げる。


「『永劫ヲォォ、我ガ栄光ノ悲願ヲォォォォッ』」


土煙から〝手〟ガ伸びる……鉱山に空いた巨大な穴から這い出す様に…そして、その手の主は低く響く、まるで大地の底から発せられた様な強い執念の籠もった声を紡ぎながら、その姿を晒す。


「ママ、デッカイ巨人さん!」

「黒いライオンさんも居るよ!」


呆然とする群衆の中を無邪気な声が響き渡る…ソレが立ち尽くす人々の耳に届いたその瞬間。


――キャアァァァッ!!!――


群衆は阿鼻叫喚に騒ぎ、巨大な岩の巨人から逃れる様にその身を翻していった……。



○●○●○●


「『――チッ、思っていたよりデカいなッ』」

「オォォォッ、我ハ不死…不死ノ力ヲ手ニシタノダァァァッ!!!」


――ブオォッ――


「『チッ…全力を出せば…行けるか…?』」


巨大な岩の腕を躱し、黒獅子は忌々しげに岩の巨人のその顔を睨み、そう独り言を呟く…。


――ドサッ――


ふと、その独り言に対して1つの声が意見を唱える。


「――1人で打てる手なら、それが最善策だねぇ♪」

「『ッ!』」


その声に黒獅子は視線を己の背に向け…其処に跨る〝青年〟へ鋭い声を上げる。


「『ッ…貴様、童共はどうした?』」

「結実君達の使い魔に守らせてるよ、下手に攻撃しないよう言い含めてるし…問題無いさ……それよりも問題は〝コレ〟だろう?」


その問いに青年は軽く返し、その灰色の瞳を岩の〝巨人〟に向け…興味深そうにその姿を観察する。


「〝工房の領域〟を組み換えて創った〝人形〟を、同じく〝領域の操作〟で動かしている…と言った所か……態々人型にする意図は測りかねるが概ね〝把握〟した…アル、軽くあの巨人を攻撃してくれ」

「『ッ――!!!』」


そして、観察を続けながら黒獅子へ指示を出すと、黒獅子はその身体を躍動させ…巨人の腕を鋭い爪で削り取る…その直後。


「『〝脆い〟……ッ!』」

「ヒュウッ、攻撃が掠っただけでこの〝呪詛〟かッ」


二人はその腕の破損から噴き出す様に迫る無数の〝呪詛〟に取り囲まれる……しかし。


「――OK〝アル〟…〝検証は済んだ〟よ」

「『――〝殺せる〟のだな?』」

「嗚呼♪…〝確実〟に♪」


その呪詛を貪り喰らう当の本人達は、その顔に一切の危機感を抱くこと無く、巨人の腕へ降り立った…。

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