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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第五章:取り憑かれた者達の狂騒曲
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晴れ晴れした日常、曇天の心

――ザッザッザッザッ…――


「――いやぁ、ゴメンゴメン、少し邪魔が入って遅れてしまった…時間を取らせたね」

「い、いえ……数分ですのでお気になさらず…」


工場の入口へ着くと、私を出迎える様に工場長が立っている…その彼へ謝罪を述べながら早速と工場へと入っていくと、彼は先導して私を案内する…しかし、何故目を逸らすのかな?…。


「その……流石に工場内では、その〝白衣〟は脱いでもらえますか…」

「ん?……あ、そういう事か」


彼の恐る恐るといった言葉に視線を落とすと、その妙な余所余所しさに納得が行く…そう言えば抵抗する犯人を捕縛する為に〝止むを得ず〟実力行使をした事をすっかり忘れていた…。


――パチンッ――


「いやぁ、道理で周囲の人間に避けられる訳だ…コレなら問題無いだろう?」

「えぇ…それでは早速〝依頼〟されていた〝製品〟について説明致しますね」

「宜しく頼むよ」


――ガガガガガガッ――


そうして工場に入り、最初に耳を劈くのは重厚な機械による合唱、熱を上げて動く〝製鉄施設〟から順繰りに流れていく〝鋼鉄の板〟がベルトコンベアに流され、半分はそのまま次の機械へ、もう半分はコンテナへと積み込まれていく。


「孝宏さんの投資のお陰でこの通り、工場は無事倒産を免れ、社員達に給料を支払えました…本当に、何と言って良いか…」

「別に崇めろとは言わないさ、それよりも…コレが〝件の鋼材〟かい?」


ソレを見ながら、私は問うと彼は感傷から一点、商い人の顔に表情を変えると、その鋼材に触れて商品の説明を始める。


「そうです、孝宏さんの要望通り、〝耐熱性〟に優れ、且つ〝魔力伝導性〟の高い〝鋼材〟…コレがその鋼材です」

「ふむ……熱に例えると具体的にどれ程の〝火力〟に耐えられる?」

「約〝4000〟程…此処から更に魔術で補強すればその1.5倍は耐えられます」

「魔力伝導のデータは?」

「所謂〝基礎的な魔術〟程度の魔力なら行使から誤差0.03秒以下を記録しています、其処から〝中位魔術〟に成ると0.1、上位規模は…流石にこの工場で試せるものでも無いので、データは有りません」

「…成る程、それは仕方ない」

「如何でしょうか?」


私の質問へスラスラと受け答えると彼はその顔を私へ向ける、営業的な笑みの裏には微かな緊張と不安が見て取れる…そんな彼の不安に対して私は暫く黙り込み、この〝鋼材〟に触れて沈黙する…。


「――素晴らしい〝性能〟だ、この2週間未満で良くこれだけの物を造れたね?」


そして彼へそう賛美を告げると、彼の顔から緊張は消え、其処に安堵の色を浮かべて姿勢を崩す。


「ッ!……ホッ…いえ、実際の構造自体は早期に纏まったんです…しかし、鋼材の材料となるタングステンを仕入れるのに一苦労しました」

「流石に優秀だね……うん、良し……今生産できる〝鋼材〟は全て買い取ろう」

「ッ本気ですか!?」

「うん、〝試作〟としてコレを使ってみたい…金に糸目は付けん……だが、少し頼みたい事が有る」

「なんでしょう?」


私はそう言い彼に視線をやると、彼はまたも真剣な商人の顔になり私を見据える…。


「今以上に〝耐火性〟に優れた鋼材は…生産可能か?」

「……具体的なラインは何度でしょう?」

「……〝1万度〟だ」

「万…ッ!?……いえ…成る程、確かにハードな条件ですね…」


そんな彼へ条件を提示すると、彼は確かに面食らうものの、直ぐに頭を巡らせ、その瞳に知性を帯びさせる…。


「――条件が二つ程有ります」

「――良いよ、受け入れる」

「……まだ何も言っていませんが…」

「〝期限〟と〝研究資金〟だろう?…期限は定めない…研究資金についても、全面的に支援しよう…条件はコレで良いかな?」


私の言葉に彼は一瞬呆けて私を見る…その視線は探る様に私を見つめ…やがて、その商人は私へ強い自信を宿した瞳と共に私へ告げる。


「訂正が一つ有ります……〝期限〟は〝半年〟で大丈夫です」

「ほぉ?……自信が有るのかい?」

「えぇ…ウチの社員達は優秀なんですよ、任せて下さい」


私と彼はそう軽口を返し、その手を固く握り…契約を締結させる。


「―それじゃあ、半年後に完成品を貰い受けよう…期待しているよ?」


そうして、私は宝物庫にコンテナを詰め込み……その場を後にする…。


「さて……野暮用は済んだね」


そして気が付けば昼時となり、私の腹の音が軽く響く……。


「アル、何処か良い食事処は有るかい?」

「『〝山狗〟に行く途中で見た〝焼き鳥屋〟だな』」

「お、焼き鳥か…良いね…それじゃあ今日は其処にしよう」


そして、他愛も無い会話を交わしながら…私とアルは人混みの雑踏に混じり、消えて行く…。


『……』


空は晴天…夏日が身を焼く〝太陽の季節〟……だと言うのに、何故だろうか。


この、なんてことの無い休日が…嵐の前の静けさの様な…そんな不穏な〝静寂〟を帯びているような気がするのは……。


「……まぁ、良いか」


きっと…気の所為だろう。



○●○●○●


「皆…揃ったか」


其処は人気の無い港、その潮気の強い香りが満ちる倉庫の一角で…数人の人影が陰間で密談を交わす。


「〝リリス〟…〝ゲート〟の固定は出来たか?」

「――えぇ、〝一回分〟は固定出来たわ…良い?…〝三日〟保つか分からない…悠長にしては居られないわよ?」

「――あぁ、無論〝失敗〟する気は無い…」

「そんじゃまぁ、早速〝動くか〟」

「賛成〜…新月までには帰りたいからね〜」


彼等はそう口々に言い合うと、その陰間から姿を現しながら堂々と街道を渡る…しかし、その妙な〝外国人達〟を咎める者は誰も居ない。


其処にいた誰もが、まるでその場に今しがた居た奇妙な外国人達の、その一切を〝知覚していない〟かの様に振る舞い…誰一人として、その事に触れることは無く――。


――ザッ――


「さぁ…〝悪魔狩り〟を始めよう…」


5人組の男女は、皆…そう言いある方向へと歩を進め…街道の人混みへと溶け込んで消えた。

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