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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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因果廻る後日談

――ドサドサドサッ――


「グフッ……字波理事長…!」

「あら、何かしら孝宏?…貴方が居ない間に溜まっていた仕事を持って来て上げたのよ?」

「態々後出しで出す必要無いだろう!?…この悪魔ッ!」

「どの口が言うのよ」


学園の職務室、其処に集うのは生徒達の教鞭が一段落した教師達…その角の古ぼけた机には、一人の青年(私)と、その青年にこれ見よがしに膨れ上がった紙の束を並べて行く悪魔(字波美幸)が居り、そのいつも通りの〝掛け合い〟を観衆(教員達)は生暖かい目で見守っていた。


「クソッ…〝スワンプ〟も処理しといてくれれば良いものを……」

「嗚呼、その彼から伝言よ……『偽物な私が書類に判を押せば書類偽造になるだろう?』…ですって♪」

「グゥッ…微妙に説得力の有る弁を…一体何処でそんな小賢しい知恵を覚えた…!?」

((((アンタだよ))))

「…さて、お巫山戯も程々に仕事に戻ろう…増えた仕事に……」


そうして私は諦め、ペンを取り紙束に目を通していく…やがて、他の彼等も思考を切り替え自身の職務に熱を注いでいく……約1名を除いて。


「……」

「……(ジ〜)」

「……(チラッ)」

「………(スッ)」

「………」

「……(ジ〜)」


……何故彼女は私の隣に座って居るのか、何故彼女は仕事をせず私の観察に熱を注いで居るのか…渦巻く疑問と不安に脈打つ鼓動を、鉄の仮面で覆い隠す…さてはまた、私の〝実験〟を咎めに来たのか!?…。


「――そう言えば」

「――実は以前中々美味しい紅茶の葉を手に入れてね、仕事ばかりでは気が滅入るし此処は一つ小休止と洒落込もうじゃないか」

「……そうじゃなくて」

「――いやいや、何も言わなくて良い、私は清廉潔白だとも、理事長の警告通り実験頻度は週に2度を維持している、罷り間違っても実験の失敗を隠蔽したことは無い……本当ダヨ?」

「……」

「…………まさか、その用件では無い?」

「えぇ…違うわよ」

「ほっ…良かっ「けれど、後でその話も詳しく聞くわ」――て無い!」


不味い不味い不味い…最近妙に嘘を吐くのが下手になってきたぞ…な、何が原因だ!?


「それで、話しても良いかしら?」

「ムムムムム……ッ、あぁ構わないよ」


私はそう言いペンを置くと、やや視線が鋭くなった字波君へと向き直り、目で続きを促す。


「……〝あの事件〟の後、〝崇高な知恵〟の幹部の〝死霊術師〟だけ行方不明らしいわよ…公安の子達が貴方に調査して欲しいって言ってきたわ」

「何故私何だね、仕事が欲しい魔術師ならそこかしこに居るだろう?」


私の言葉に字波君はため息を吐き、やや呆れた様な視線で私を見つめ、私の考えを否定する。


「貴方があの時、〝悪魔の肉片〟を掠め取ったのは知ってるわよ…その後で〝魔術〟を放った事もね……〝知ってるんでしょう〟?」


その問いは確信を持って告げられ、その目は嘘を許さないと言う気迫に満ちて私を強く視ていた。


「……ハァ…何処から見てたのかね……〝死んでる〟よ」

「……え?」


そんな彼女の雰囲気に私は両手を上げて白状すると、今度は彼女が驚く番だった。


――ピピピピッ――


「む……丁度〝調査〟に派遣した彼等が写真を取ってくれているらしい……ほら」


私がそう言い彼女に、1枚の画像を見せる……其処には――。



●○●○●○


「ウッへェ…流石にこの血の匂いはキツイなぁ…帰って良い?」

「駄目に決まってるだろう〝キュリオス〟…君がちょろまかした資金とリソース分シャッキリと働いてもらうよ」

「ウニャァァ……そうは言ってもさぁ……初仕事が〝死体回収〟は酷くない?」


そう言いながら小柄な少女と痩躯の老人は眼の前に広がった凄惨な光景に目を向ける。


――カアァッ、カアァッ!――


死肉を啄む鴉の眼が二人を映す…寂れた霊園は不気味な沈黙を保ち、霊園の中程には夥しい血の跡…そして、その霊園に手を出そうとした〝罰当たり〟の成れの果てが案山子か、或いは磔刑に処された救世主の様に吊るされていた。


「キュリオス……コレを見て、その意味を探るとして…君はコレをどう見る?」

「う〜ん?……〝因果応報〟か、〝見せしめ〟的な〜?」

「ふむ……〝因果応報〟か」


そう納得する様に老人は頷き、その顔の皮を剥がされ、苦悶に歪ませた隻眼の死体を磔から解く…その時。


「ッ……ねぇねぇ、〝狡知〟…なぁんか変じゃない?…此処」


声を微かに震わせたその少女の声に、狡知と呼ばれた老人は周囲を見渡す。


霊園は血と腐臭で満たされ、不気味な沈黙が厳かな霊園に漂う…しかしよくよく見れば、勘の良い者はその違和感に気が付くだろう。


「……こんな惨状の割に…随分と〝綺麗〟だ…」


そう、霊園の大地こそ夥しい血で汚されているものの、あの位置なら確実に血が掛かるだろう〝墓石〟でさえ、血の汚れ一つない清潔な状態を維持していた。


「……ッ、キュリオス…隅の墓を見ろ」

「!――アレは…」


そんな、まるで何者かが適当に痕跡を消したかの様な現場を見ていると、二人の視線が一つの場所を〝捉える〟…ソレは、この霊園の異常(磔刑場)異常(異様な綺麗さ)…その中に有る更に目立つ〝異常〟…。


「〝墓が壊されている〟…?」


たった一つ…その墓だけが、念入りに壊され…砕かれていた…。



○●○●○●



――ハァッ…ハァッ…ハァッ…――


「――ヒヒッ、ヒヒヒヒッ!…この組織も、も、もう潮時ですね…ぼ、ぼ…僕の研究成果が押収されるのは不愉快ですが仕方ない……つ、次の鞍替え先を見つけなければ…!」


薄暗がりを〝男〟が掛ける、黒い外套を纏い、胡乱な声でそう気味悪く笑いながら…。


「し、しかし追手が来るのはか、確実です…何か手を考えなければ……!」


その男はそう言い、ブツブツと呟きながら暗い夜道を駆けていくと……ふと、その目に一つの場所を捉える。


「――おやッ、こ、こ、こんな所に〝墓地〟が………ッそうだ!」


そして何かを考え付くと一目散にそのその墓地へと入って行き、懐からドス黒い〝丸い球〟を取り出して顔を歪ませる。


「こ、コレを使って強力な死霊を創ろう…追手を殺す序でに私の下僕としても使える…フヒッフヒヒッ…我ながら良い案です」


そして、言うが速いかその男は不気味な血の紋様を生み出し…周囲を穢れた魔力で蝕んで行く……すると。


『オォォォォォ……!!!』


その墓地の墓石の下から、そんな怨嗟を込めたうめき声と共に無数の霊魂が這い出し、一つの魔術陣に集まって行く…その数は、百を数えるも馬鹿らしいほど、この墓地の墓の数を超える程の〝霊魂〟が一つに寄り集まっていった。


「おぉ、おぉぉぉ!…す、素晴らしい!…これだけの数の魂を一つにした死霊は初めてです!…コレは予想以上に優秀な死霊が生まれる筈だ!」


その光景に、興奮した様にそう言う男は目をギラつかせて歩み寄り、その中心に出来た〝肉の塊〟へ近付いた……その、瞬間。


――ガシッ――


「ガッ!?……カヒュッ!?…」


その肉塊から伸びた、蒼白い〝腕〟が、その男の首を掴み…持ち上げ締め上げる。


「ガッ…ガヒュッ……何を…する!?…」

「『そりゃあ勿論〝殺すのさ〟』……人様の墓を好き勝手に荒らされちゃあ、死人も怒るってもんだ…そうだろう?」


そしてその肉塊は脈動しながら、愉しげにそう言い口を生やして男を見る。


――ゴプッ、ゴリゴリッ…――


「しかしあの〝狂人〟め、まさか本気で俺を此処に〝引っ張り出す〟とは…次会う時は首を圧し折ってやる」


その肉塊はやがて人型に、人型から〝人間〟に変わると…その黒髪を揺らしながら、紫の瞳で男を睨む。


「な…んだ……お前…は!?」

「ふむ…何だか……そうさね、〝元人間〟、〝人で無し〟、〝ロクデナシ〟、〝外道〟、〝鬼畜〟、〝卑怯者〟…〝狂人〟…蔑称罵倒は数有れど、中々しっくり来る呼び名はないな……いや、一つだけあったか」


その男は、首を締め上げている男の言葉にそう巫山戯半分に返しながら顎に手を当て考える素振りを見せ…締め上げる手を離して男の前に立つ。


「私は〝空虚〟だ、〝空虚な道化師〟、伽藍洞の心臓を持って生まれ、生命の色彩を求め、ついぞ手に入れられなかった〝人間モドキ〟…と言った所かな?」


その目は笑みに歪んでいた…しかし、その視線に見つめられた男は、その瞳の深奥に有る〝ソレ〟を見て…恐怖に心を締め上げられる。


「――さて私の事はどうでもいいとしてだ…私の肉体を形成する助力をしてくれた彼等は、どうやら君に御立腹らしい……と、言う訳でだ死霊術師の君……君を今から殺そうと思うんだが、どんな死に方が良いかな?」


その瞳の奥に巣食っていたものは…〝無〟…何の感情も抱かない、生まれない…無色透明の、伽藍洞の〝虚無〟だけが…まるで眼の前の己を〝玩具〟の様に…じっと見据えていた。

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>〝空虚な道化師〟、伽藍洞の心臓を持って生まれ、生命の色彩を求め、ついぞ手に入れられなかった〝人間モドキ〟  もしかしてハデスと同じか?
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