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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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憎悪の夜劇は終わる

――バリバリバリバリッ――


「アガガガガガガァァァッ!?!?!?」


轟雷に負けぬ絶叫が大気を震わせる…焼け焦げた肉の匂いが辺りに満ち、白靂の柱はその眩い光に人々の視線を集める。


「――馬鹿ナッ…コンナ筈ハァッ!?」

「――あぁ?…思ったよりタフだなコイツ!」


大地の上で天へ手を伸ばす首の無い巨人を、雷霆の人は見下ろし、そう声を紡ぐ。


「――二千、三千を超える死体と魂を〝拘束〟していた世界を〝身に宿している〟からねぇ…実際タフだろうさ、死んでは生きて、生きては死んで、魂を啜り死と生の反復横跳び…直に全てを消耗し終えれば〝死ぬ〟が…無闇矢鱈に〝魂を喰い散らさせる〟必要も有るまい」


その問いに霹靂の離れから、黒痣の青年は白雷の主へとそう言い彼と目を合わせる。


「――何か手は?」

「勿論有るさ――いやぁ、相手が〝悪魔〟と分かった時点で、神官の組合に話を通していて助かった♪」


そう言い懐から取り出したのは、〝銀の十字架〟に〝蒼い宝石〟が嵌め込まれた奇妙な装飾品…それを見せ付けるように取り出すと、青年は笑い、その十字架を巨人の頭上へと投げる。


――バチィッ――


十字架は雷霆に呑み込まれ、凄まじい音を立てて姿を消し――。


――パキンッ――


――と、何かが砕ける様な音を立て……次の瞬間、その轟雷は以前にも増す勢いで巨人を焼き焦がす。


「教会のお偉方からガメた〝祝福の銀十字〟…ソレに細工した〝消耗型増幅器〟、一度限りの代物だが効果はこの通り、魔術を増幅し且つ〝浄化〟を付与する〝対不浄〟兵器として、優秀な性能だ♪」


宝物庫のお宝を幾つか売り払う事になったが其処は良しとしよう。


「オォ…オォォォォォッ…」


――ズウゥゥンッ――


そんな風に考え事をしていると、どうやら完全に余力が尽きたらしい…巨人は黒焦げた身体を大地に落とし、弱々しい呻きを吐きながら倒れ込む…そして、その光景を背景に、功労者は一仕事を終えた様に身体を伸ばして眼の前の友へ労いの言葉を掛ける。


「漸く倒れたぜ…良くあんなタフガイを一人で相手できたな?」

「いやいや…私ではアレの相手は荷が重い、気は惹けるが倒せないんだ…まぁ尤も、ソレは相手も同じだ、だからこそ削られ行くリソースを自身に〝注ぎ込む〟事に賭けたのだがね」


事実としてその青年の言う通り、その目論見は上手く行き…異界は砕かれ、事件は綺麗サッパリ片付いてた……。


「ォォォ………〝我ガ〟…〝誓イ〟ハ…果タセズ……」

「ッ!?――何だ、まだ生きてたのか!?」

「――いや、既に〝死体〟だよ…もう何かする力は何も無いさ」



しかし、勝利を祝う雰囲気は…朽ちゆく巨人の声によって妨げられる。


「我ハ〝神〟…二……〝神ノ一座…〟…二…契約…ヲ…」

「――何?」


それは巨人のうわ言か、妄言か…少なくともただの狂言と大半の者達は切り捨てただろう…しかし、その言葉は一人の青年を引き付け…その青年は巨人の元へと歩みながら、その言葉に聞き入る。


「――詳しく聞かせ給え〝マスティマ〟君…今何と言った?」

「おい孝宏――ッ」

「答え給え」


しかし、その青年の言葉には聞く耳を持たず、巨人は虚ろな声でうわ言を呟く。


「我…ハ……マ…ダ……!」


そして、そのうわ言を最後にソレは物言わぬ骸と成り…事態は困惑を伴い〝終着〟した…。


「………」


少なくとも…〝一時〟の間だけは。



○●○●○●


――ギィィッ…!――


「ッ……此処もか…!?」

「コレで8件目だぞ!?」


其処は日の昇る世界、何処かの国の何処にでも有るビルディング…しかし、そのビルは普段とは異なる要素によって人の目を集めた。


「――ヒデェな、コリャ犯人はイカれた魔術師だぜ…」

「――或いは裏の組織の犯行かもな」

「あん?…どういう事だデイブ」


しかし、その野次馬達は知らない…己の好奇心が、ソレを隔てる1枚の警告テープを跨げばたちまち、恐ろしい後悔に変わるだろうとは…夢にも。


――ブブブブッ――


蝿が集り、血の匂いが色濃く残る〝現場〟にはまだ色褪せない色艶の良い肉塊と、惨たらしい死体の人形による御飯事が繰り広げられていた…そして、そんな酷い死体遊戯を見ながら、十数人の〝調査員〟は軽口混じりに議論を交わす。


「――コイツは〝ケインズ・レイドルク〟…国への奉仕を条件に無期懲役を免除された〝特殊諜報員〟の一人だ…コイツの任務は〝違法魔術組織の内部調査〟だった…で、此処は最後にコイツが発信した座標だ…現実的に考えて極ありそうな可能性なら〝コレ〟が―」

「――オーケー分かった、分かったよ兄弟、取り敢えずさっさと調べてからその話の続きをしようぜ、こんな場所に長居すりゃ一月は肉なんざ食えねぇよ、俺のハニーのスペアリブが食えねぇのは死んでも御免だ」


そして惨状には人の言葉は極最小限に消え…死肉を照らす無数の照明機器と、状況記録用の魔導器の灯りと、蝿の羽音だけが少しの間響く……しかし。


「――ッ!…おい兄弟!…ちょっと来てくれ!」


現場に響く、何か緊急性を秘めた声が一人の調査員を呼び寄せる。


「何だ?……何か調査に使えそうな物でも見つけたか?」

「――嗚呼、そのまさかだ…この諜報員の兄ちゃんがこんなもん飲み込んでやがった」


その声にそう問いながら来たその男へ、筋肉質な男は何処か嫌そうな顔をしながら、その手袋をした手に乗った〝ソレ〟を見せる…それは。


「何だソレ…〝手帳〟か?」

「多分な…コレが喉の方に押し込められていた…コレが何かを記録してる可能性は大いにあるだろ」

「嗚呼……それで中には何が?」

「今から上げる、怖えからお前も一緒に見てくれ!」

「はぁ!?――巫山戯んな――ッ」


そして言うが速いか男は手帳を開く……その瞬間。


――ゾオォォォッ――


「「ヒッ――ギャァァァッ!?!?!?」」


手帳から噴き出した真っ黒な魔力によって、二人の〝調査員〟の悲鳴が響き渡る…その手帳の中には――。


――パサッ――


真っ赤な血のような文字で、絵が画かれていた……それは。


血で描かれた〝十字架〟の紋様をしていた。

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