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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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月夜に轟く雷様

――ドドドドドッ――


「――第8波制圧完了!」

「次が来る、衝突まで後――5、4、3!」

「最前線を一時交代ッ、補給しろ!」


獣の軍靴、人の軍靴が入り乱れ…獣の叫びが木霊するのは肉の世界に似つかわしく無い鋼で構築された要塞。


迫る獣は優に千を超え、対して人間の数は僅か50程、数の差は圧倒的な筈の戦局はしかし、獣達の死と屍で満ちていた。


「――凄え…こんな数相手に持ち堪えてやがる…」


その壮観な地獄を見て、巌根氷太郎は感嘆の声を上げ…その目を屍の山へと向ける、その言葉に土御門九音等も同感だと言うふうに陣地の外の光景を見ていると。


「――当然だ、コレで俺達は〝軍事組織〟だぜ?…と言っても、急拵えの其の場凌ぎの策を、何時まで継続出来るかは分からんがな」


そんな声と共に、一人の男が5人の少年少女達へと告げる。


「――自己紹介でもしようか、俺は〝美堂明経(みどうあきつね)〟って言うしがない〝錬金術師〟兼〝救護術師〟だ…この急造要塞の〝管理者〟で有り、後方部隊の指揮担当だ…家の〝隊長〟にゃ会ったよな?」

「あぁ……俺達は此処に残るよう言われたが…」

「そらそうだ、お前等はまだ未成年だからな……って睨むなよ、コレでも俺達は良識有る大人だぞ?…まだ未成年の学生の力宛にして頼る何て真似は出来ねぇんだよ」


その男は長身で堅牢な筋肉の鎧を纏った巨漢…その厳つくも男前な顔立ちは快活な笑い声を放つが、その口から語られる〝言葉〟はどれも真剣で、一片の嘘の無い誠実さを含んでいた。


「――つってもお前等が此処の〝切り札〟ってのも事実だからな…本気の本気でヤバい時は仕方ねぇが、頼らせてもらうぜ」

「あぁ、任せろ」


そんな会話を交わしながら、戦場を眺めていた……その時。


――……ゴゴゴッ――


「?……今、何か聞こえなかった皆?」


その〝異音〟に気付いた黒乃結美が皆へそう言い問い掛ける。


「いや、何も聞こえなかったが――」


その問いに菅野月人がそう返した、その時――。


――ゴゴゴッ――


『ッ!?』


今度はその場に居た者達全員が知覚できるほどはっきりと、大地が揺れ動いたのを皆が理解し、臨戦態勢に入る。


「ッ何だ!?」

「新手の敵か、それとも〝トンネル〟でも掘って来やがったのか!?」


次第に大きくなる〝揺れ〟に、戦場は麻痺し始め…皆が己の立つ血の大地を見た…その時。


「ッ――先生の声?」


黒乃結美がそう言った、その直後…戦場の中心が〝吹き飛んだ〟…。


『なッ!?――先生ッ!』


その〝爆音の発信源〟に黒乃結美を含めた学生達は目を向け…其処に居る〝二つの影〟の内、1人の人物の姿を眼に捉え、そう叫ぶ様に驚きを口にする。


――バサッ――


其処に居たのは謎の人物を掴み、とても愉しげな笑みを浮かべ剣を振るう〝彼等の師〟の姿…その男は普段ならば決して浮かべるはずの無い、野蛮で好戦的な笑みを浮かべながら片腕で白髪の人物の首を掴み地面に叩き落として自身も自身へと急接近する。


「アハハハハハハッ!!!」


狂笑が戦場に響く、その男の放つ言い知れぬ威圧感に充てられてか、人も獣も皆動きを止め…その男の躍動を傍観する。


「……ありゃぁ、どうなってんだ?」

「あんな先生…見たこと無い…」

「うん……ちょっと…怖い、かも…」


その傍若無人な蹂躙劇を皆がら…5人の教え子達は、口々にそう感想を零すのだった。



●○●○●○


――ブンッ――


「ハハッ!」


手に掴んだ〝生命〟を投げ飛ばす。


「ハハハッ!」


――スパパパンッ――


四肢を身体を斬り刻み、血と肉の間から腸を引きずり出す。


「アハッハハハハーッ!!!」


――ゴオォォォッ――


放たれた術理は対象の身を焼き、凍らせ、枯らし、潰し…汎ゆる方法で〝生命を削っていく〟…。


一切の抵抗を剥ぎ取り、一切の命乞いを切り捨て…肉体の躍動のままに蹂躙して行く。


「どうした、どうした〝神様〟よッ、やられっぱなしとは情のない!」

「ガギッ…ギィィッ――!?」


――ドチャッ――


起き上がろうとする〝悪魔〟の頭を踏み潰し、その骸を蹴り上げる…中に浮いた屍を更に細切れにし…細切れにした肉を炭に変える。


「――ハァッ、ハァッ!…ま、待て――」

「却下だ阿呆!」


――ズバンッ――


そしてコレで何百回目かの〝死〟を奴へ与える…そのタイミングで私は漸く、此処に居る〝彼等〟の存在を認識する。


「――ほぉ、随分と〝上ってきた〟な!…ふむ…異界も随分と〝縮小してきた〟…いよいよ〝折り返し〟と言った所かね?」


視線がややこそばゆい、そんなに見つめられると照れるね全く…。


「さて、それじゃあ続きを――」


そんな彼等の視線を片隅に押しやり、また神殺しを再開しようかと気を取り直した…丁度その時。


――ビキッ――


驚くべき事に、世界を隔て生まれた〝異界〟に罅が入り…その瞬間凄まじい勢いで〝異界〟が悪魔の腸に納められていく。


「クソ、クソクソクソクソォッ!…巫山戯ルナヨ化物ガァッ!!!」


悪魔は怒号に憎悪と恐怖を含んだ声でそう叫び、溶けかけた顔を此方へ向けて淀んだ瞳を私へ向け…〝変異〟する。


――ゴリッ、ゴキゴキゴキッ――


「我ノ世界ヲヨクモ、ヨクモ壊シテクレタナァ!!!」


その姿は醜悪な肉の〝塊〟の様で、何百と言う人間の顔を腹に浮かばせた顔の無い〝巨人〟の様な姿で私へと叫び散らす。


「――異界のエネルギーを全て自身に集約させたか…成る程、〝核=異界の支配者〟と言うシステムを逆手に取った訳だ」


巨人はその身に違わぬ〝世界一つ分の瘴気〟を滾らせながら…隔たりを失くしていく異界の上で私を睨む…顔は無いが、強い憎悪の視線を向けている。


「貴様ヲ殺シタ後ハ此処ニ居ル全テノ人間ヲ喰イ殺シテヤル…貴様ハソノ光景ヲ我 ノ腹ノ中デ見続ケルガ良イ!」

「それは怖い!……困った、流石にこう強大な敵を前にしては私では太刀打ち出来ないねぇ…」


それに対して私はそう言い、眼の前の巨人に取り込まれていく〝異界〟を見届け…巨人の首を見上げて、〝嗤う〟…。


「――と言う訳だ助けておくれよ、〝親友(マイフレンド)〟?」


――パキンッ――


そして異界は完全に消失し……私は、夜の月が雲の中から顔を覗かせたその場所に居る〝彼〟へと助けを求め――。


「嗚呼、〝任せろよ〟…〝親友〟!」


その瞬間、巨人を覆い尽くすほどの極太い白の雷が大地へ突き抜けた…。

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