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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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異界の神と神殺し

――ヒュンッ――


「――うむうむ…実に良く手に馴染む……いや、実際〝同化〟してるので握っている訳では無いのだがね」


軽く刃を振るう…動作に支障はない、苦痛が腕を這う事以外は大した問題では無い…。


「さて!……コレを使った以上はそうモタモタしちゃいられない♪…〝短期決戦〟と行こうじゃないか!」

「ッ――消えろ〝化物〟めッ…!」


戦場に生まれた〝混乱〟の最中、仕切り直しの〝第二回戦〟の始まりを私が告げると、対面の彼はそう言い、再び血肉の〝獣〟達を差し向ける。


「〝第四刻印〟――起動」


辟易するほど無限に湧き出す魂無き獣達、先程までの力は感じないものの、その数は先程以上に多く其れ等全てが私を狙う…その狙いは恐らく〝遅滞戦闘〟か、〝撤退〟と言った所だろう…しかし。


「〝戦鬼の狂印(オーガ・ブースト)〟…!――コレ使うと筋肉痛になるから嫌なんだがね…ェッ!」


――タンッ――


「はッ―――!?」


大地を跳ぶ、軽い音が響き渡った…次の瞬間、〝私はマスティマの懐で剣を振り上げる〟…。


――ズオォォッ!――


振り上げられた剛剣は、寸前で交わされ不発に終わり……天井の肉の壁を真っ二つに斬り裂くだけに終わった。


――タンッ――


「――フゥッ」


――ドボォッ――


「クッ…!?」


そしてそのまま軽く跳び、仰け反る相手の脇腹へと跳び蹴りを撃ち込み、マスティマの肉を破裂させ、骨を砕き臓腑を潰して吹き飛ばし…着地する。


――ドッドッドッドッ…――


「ッこの――人間如きがァァァッ!!!」


その着地と共に顔を上げて叫ぶ彼の方を見た…その瞬間。


――ズドドドドドッ――


「舐めるなァァァッ!!!」


巨大な剥き出しの肉を持つ蚯蚓(ミミズ)の様な獣達が私へ迫るのを目にする。


……だが。


――鈍い――


逸る心臓の音、満ちる高揚と興奮、湧き立つ闘争本能と殺意の衝動はその光景へそんな感想を紡がせる。


「――〝第五刻印〟…〝起動〟」


そして私は気付く…自身の精神の器にいつの間にやら在る…滾る〝戦いの愉悦〟と〝蹂躙の快感〟が、己の身体を突き動かしている事を。



●○●○●○



――シーンッ…――


一度の静寂の中…異界の〝神〟は、冷や汗を流しながら遠くで暴れ回る〝被造物〟の動きを見ていた。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」


荒い息を吐き、呼吸を整える…鉄錆の匂いが強く鼻を突き、喉元を迫り上がる不快な感触を吐き捨て…微かな安堵を覚える。


「――フクッ、フクックハハハッ…我の勝ちだッ…カフッハハハッ…!」


そして一人咳き込みながら勝利を確信し、そう言い…その視線を天井へと向ける。


「次は我が世界に入り込んだ鼠共だ…あの男の連れていた餓鬼共は特に、じっくりと四肢を削ぎ、獣共に犯させ喰らわせてやる…!」


そんな下卑た考えを巡らせ、遂に静かになった彼方の被造物達へと視線を向けた…その瞬間。


――〝ブンッ〟――


「……?」


何かが己の顔の横を通り抜けた…その風を受け、視線を背後にやる……。


そして、見た……その〝正体〟を。


「……は?」


ソレは…己が生み出した蚯蚓の〝首〟だった、ソレが地面の上を無造作に転がり、脱力する…その光景に〝ソレ〟は疑問で脳裏を埋め尽くす。


――何故、何故、何故?――


何故…アレの首が此処に有る、何故…動かない?…と。


畜生であれば、その問いは延々と解かれぬ謎のままだっただろう…しかし〝ソレ〟は違った。


ソレは〝知恵〟を備えていた、聡い知恵を、素晴らしい頭脳を、膨大な知識を…〝答え〟を紡ぎ出せてしまう…〝知性〟を…備えていた。


途端、ソレの手に掴まれていた〝勝利〟は嘲り笑うかの如く手の間を零れ落ち…大地に広がり、その〝勝利〟を一点の方向へと押し流していく…その方向に目を向けた…その時。


――ガシッ――


〝ソレ〟の目に…〝化物〟が現れた。


――ガシガシッ――


巨大な蚯蚓の身体を掴むのは…五本の指を持つ人間の様な手、しかしその手は驚く程に大きく蚯蚓の胴体を掴み包める程に巨大な〝黒い腕〟…。


――ゴゴゴゴゴゴゴッ――


無数の黒い腕は、蚯蚓達の身体を掴むと…まるで、大地の中から這い出ようとするかの様にその腕を曲げ…その蚯蚓の身体から〝黒い靄〟が姿を現した…。


「あ……ァァッ…?」


その姿は…〝狂気〟を表すに相応しい…異形の形をしていた。


――バサッ…バサッ…――


ソレは六対十二枚の、鳥の〝翼〟の様な真っ黒い羽を背に持っていた…しかし、その翼にはまるで目の様な不気味な文様が浮かび上がり、その黒い翼の中で朱く脈動していた。


身体は大きく、虫の様な複腕を胴部に生やし…その尾は百足の様に無数の脚の様な器官を備え、蛇のように身体を擡げ…その貌は六の眼を持った〝竜〟の様に威圧的な姿をしていた。


爛々と輝く六つの眼が〝神〟を射抜く…じっと、じぃっと…値踏む様に、その視線の圧に充てられ、動けぬ神は身体を強張らせ、震え…目を揺らし…掠れた声で言葉を紡ぐ。


「……お前は…何なんだ…!?」


その目は、〝巨大な黒い靄の化物〟の中心に居る…黒い剣の腕を持った翼を手にした一人の男が居た。


その姿はまるで…〝魔王〟の様に絶対的な〝力と恐怖〟を、孕んでいた。


○●○●○●


「〝魔翼の機印(エアロ・ウィング)〟…解除」


背に構築した魔術の翼を解除し、落下の浮遊感に身を委ねながら…私は最後の〝一手〟を解析する。


(異界内部の地形、魔力反応データ…掌握)

(異界に独立性無し、〝核との密接な結合〟を確認)

(先刻の攻撃による異界への影響……異界の拡大速度が〝低減〟………結論)

(〝核〟及び〝異界〟への攻撃による〝崩壊〟が〝解決案〟として有効)


解析を終えて、標的を見る…相手は動かずに私を見ていた…逃げる気配は…無い。


「〝終幕〟まで……〝二手〟」


そう結論付け、私は大地に脚を降ろし…着地と共に駆け出して――。


――ダンッ――


「畳み掛けるとしようか!」


尋常ならざる速度で、肉体を躍動させ…〝異界の神〟へと斬り掛かった。

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