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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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魔人教授と白獣の助手

――ジュオォォォッ――


「ッ……此処…は?」


膨大な魔力の昂りと、ソレに付随して〝異界〟に駆け巡る強力な熱気…その熱気を跳ね除け、私は〝辿り着く〟…。


「ッ…孝宏!」

「ん?……おぉ!…やぁやぁ字波君ッ、随分と遅かったねぇ!」


――ピキッ――


私の声にその人物は何事も無かったかの様に此方へ振り向き、軽く手を振る…彼の生存に一先ずの安堵の後、私は彼へ問い質す。


「コレは一体…どういう事?」

「どういう事か…見ての通り、〝凄まじい熱反応〟がこの一室を起点に吹き荒れたのだよ」


その溶解した鉄と硝子化した大地は崩れ去りながら…やがて元の〝世界〟に戻ると…其処は暗い夜と寂れた廃工場の冷たさだけが残る。


「此処に居た魔術師達は?」

「皆死んだよ…少なくともあの魔物は〝金級〟が相手をするにはあまりに〝狡猾〟だった…金剛級で組めば問題は無かったかもね」

「……倒したの?」

「勿論だとも、丁度一夜の相棒が命懸けで取り巻きの魔獣を処理してくれた上、彼の魔術が突破口に成った…いやぁ、〝トドメだけ貰うようで気が乗らなかったが、銀級の私でも倒す事が出来て良かった〟♪」


彼はそう言い、私を見る…その目は〝悪戯っ子〟の様な笑みで歪んでいた。


「…えぇ、分かったわ…そう報告しておく」

「宜しく頼むよ…それじゃあ、私はコレで…」


そう言い、彼は鼻歌混じりに其の場から去る…。


「……気の所為…いや…」


そんな彼の様子に…抱いていた疑問と言う結び目が〝解かれる〟様な気がした…。




●○●○●○


――カツッ…カツッ…カツッ…――


「え〜今回の講義は〝魔術〟に於ける属性変化について――」

「今日は君達に、近年発表された新型の〝魔術式〟について議論を――」


学園に入り、自らの研究室に向かう道すがら…各教室毎の内容に耳を立てる。


「いやぁこうして他の教室の講義を耳にするのは中々新鮮で良いねぇ…」


――タッタッタッ…――


「……」

「〝アル〟…分かってるね?」

「…チッ」


道行く教室の〝人々〟を見る…その白猫…我が使い魔、〝アル〟へそう釘を差しながら私は自らの古ぼけた研究室に足を踏み入れる。


――ピシャンッ――

――ブンッ――


そして、研究室の扉を締めこの一室全体に防音結界を張り振り返る。


「コレで良し…さて、それじゃあ早速…〝調べるとしようかな〟…君の知見も役に立つかも知れない…是非見てくれ」

「チッ…何故〝我〟がこんな事を…」

「君が私の〝飼い猫〟で有り、〝助手〟だからさ!…さぁ高級猫缶に手を伸ばしたければ働き給え!」

「噛み殺すぞ〝腐れ主〟め!」


毛を逆立て怒りを表すアルを無視し、私は以前魔道具屋で買っておいた〝水晶〟に血を一滴垂らす。


――ポタッ――


「…〝記憶投影〟」


そして私がそう口にした瞬間…水晶に垂れていた血はそのまま飲み込まれ、水晶の中心から魔力の光と何百もの情報の羅列が浮かび上がる。


「さて、昨晩の〝夜門〟…君の居た〝異界〟だが…コレが何か分かるかい?」


その情報の一つ…〝奇妙な紋様〟が描かれたその映像を引っ張り、アルへ見せる…すると〝アル〟はその紋様にピンと来たのか、周囲の資料から一枚の紙を取り出し、私へ見せる。


「この〝結界術〟…とやらに良く似ているな?」

「その通り…だからこの〝夜門〟は〝結界術〟の括りで間違い無い…しかし結界術は決められた範囲に沿って展開され、〝内外〟の違いは有れど〝阻む事〟しか出来ない魔術だ」


まぁ結界術の流用で自らに都合の良い環境の疑似再現は可能だが…問題は其処ではない。


「……この〝夜門〟は〝妖魔〟を生む」

「そう…ソレは本来の〝結界術〟には有り得ない事だ」


妖魔の誕生は幾つか方法が有る…例えば、〝生き物〟が〝瘴気〟に充てられての〝変容〟…或いは〝瘴気〟が〝溜まり〟…其処から生まれる〝誕生〟…〝夜門〟は既存の結界術とは訳が違う。


「私はこの妖魔〝誕生〟を、〝結界〟によって隔絶された環境の中で瘴気が溜まった事で起きる〝偶発的〟な物だと思っていた…だが、違った」


私はそう言い、また別の情報を引っ張りアルに見せる。


「〝夜門〟は〝核〟と成る妖魔が必要だ…ソレの住処を起点に侵食を始め、〝妖魔〟を生む…その生み出された妖魔は〝核〟の妖魔の眷属と成る〝眷属化〟の術が刻まれていた…〝眷属化〟とは〝契約魔術〟の一種、〝主従契約〟に於ける物だ…しかし本来ならばこの契約は双方の合意が無ければ行えない……〝本来〟ならば…だ」

「む…待て」


私の説明に何か気付いたのか、アルは私を制し言葉を紡ぐ。


「我は貴様の使い魔に成ると合意した覚えが無いぞ?」

「素晴らしい、其処に気付くとは…その通り、私は君の意思に関係無く〝契約〟出来た…何故ならば、私が契約したのは〝君の本能〟…〝魂の無意識〟と言って良い物と契約したからだ…私は〝君の生命を取り留める事〟を契約に君を〝使い魔〟にした…生命の持つ〝生存本能〟…無意識と言う意思に合意させて契約した」


そう、その〝抜け道〟に私は可能性を見出した。


「恐らくはその〝無意識との契約〟がこの〝夜門〟にも適応されているのだと私は思う…〝生誕を保証する〟代わりに〝眷属化する〟と言う…瘴気溜まりから生じた薄らな自我と契約を行使したのだろう…だから生まれた妖魔は〝核〟からの命令に逆らえないのだろう」

「……成る程」

「では、その目的は?…一体この〝夜門〟は何の為に生まれたのか…仮にコレが〝何者か〟の手によって作り出されたとして…私は二つ程仮説を立てた…一つは〝夜門の兵器化〟…コレが一番可能性が有ると踏んでいる」

「その理由は?」

「先ず〝夜門〟の発生プロセスは〝瘴気溜まりの異界化〟と〝核と成る妖魔〟に始まり、そしてその〝異界化〟の対処法は〝核〟の破壊…核の強弱に左右されるとは言え、少なくとも君の様に〝金級〟を倒せる妖魔が生まれた以上、十分兵器運用は可能だと考える、〝核が将〟で、〝眷属が兵〟と言う〝兵器〟…コレなら少なくとも自軍、自組織の〝魔術師〟は減らすこと無く相手の魔術師には対応に余力を割かせる事ができるだろう」


コレを発明した人間は相当なロクデナシだろうね…少なくともアインシュタイン博士の様な〝人類の明日〟を夢見た研究者では無いだろう。


「もう一つは?」

「む?……そうだね、もう一つの候補を仄めかしていたな…コレはまぁかなり〝穴だらけ〟だよ…コレを例えば論文に出したなら即詰められて胃に穴が開く程度には穴だらけだ…だが世に完全は無い…だから敢えて言おう…ソレは〝異界化による世界の破滅〟だ」

「ッ!」

「コレは夜門の〝侵食〟と言う過程に重きを置いて思考した結果だよ…兵器運用には〝ある程度〟の戦力が有れば良い…だから〝異界化〟と〝眷属生成〟だけ有れば良い…〝侵食〟は脅威度を簡単に知らせるための物、〝魔術師を誘き寄せる罠〟と考えれば良い…だがね、それにしたって〝侵食〟は下手をすれば己等すら巻き込みかねない〝危険〟だ…最悪の場合自国以外が〝異界化〟してしまう可能性すら有る…だから、この〝仮説〟が浮かんだんだよ…最も仮説足らしめる要因はこの二つと〝頻発化〟する原因が未だ掴めていない事だけどね…」


其処は今後の究明課題だ…。


「さて、この可能性は後ほど〝魔術師局〟に匿名で送り付けるとして…少し休憩しよう、ちょっと待ち給え、猫缶とミルクを用意しよう」


根を張りすぎても疲れるだけだしね。

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