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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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偶像に捧ぐ祈りは無く

――ドドドドドッ――


轟音と共に延々と垂れ流される弾幕、それが織り成す光景から感じ取れる意味は1つ…一切の加減無く敵を殺すと言う〝殺意〟だった。


(〝第一刻印(オブザード・スコープ)〟術式は正常に〝捕捉中〟…〝第二刻印アンリミッド・バレッド〟の展開数を上方修正、〝第三刻印(オペレート・エイド)〟の一部機能停止、余剰分を第六刻印へ…〝第六刻印(マナ・ドレイン)〟は継続)


私の腕を広がる4つの術式の〝刻印〟が私の思考に連動する様に脈動する、無論コレは単なる飾りでは無い、れっきとした意味が有る。


そも、私如きの魔力量ではこの規模の魔術を長時間運用する事等出来はしない…出来て数秒、百発撃てれば上出来な代物を、何千発と放つには相応の〝要素〟が在る。


一つは〝目を象った文様〟を中心に、私の掌まで刻印を伸ばす〝第一刻印〟…周囲の生命の〝魔力反応〟、〝生態反応〟を視る〝観測の眼印〟。


二つは〝無限を模した輪の文様〟を中心に、私の身体から空間と言うキャンパスへその刻印を拡張する〝第二刻印〟…魔弾を魔力尽きるまで生成し放出する〝無尽の砲印〟。


三つ…〝心臓を模した文様〟を中心に私の上半身を血管の如く這い回る〝第三刻印〟…刻印同士を接続する〝中継点〟で有り、供給される魔力の質を濃縮し純化させる〝基盤の供印〟


四つ、〝大地の根を模した文様〟を中心に、私の下肢へ伸びる〝第六刻印〟…周囲の瘴気、魔素を魔力に浄化、変換し自身に貯蓄する〝吸魔の霊印〟…。


物体に〝魔術式〟を付与する〝付与魔術(エンチャンター)〟の技法と、癒やし、力を与え、魔力を譲渡する〝精霊魔術師(ドルイド)〟の術を取り入れたこの〝刻印〟だからこそ、瘴気と魔力に満ちたこの異界で限定的な〝無尽の攻撃〟を行使出来るのだ…それでも魔力生成と消費の差はギリギリ負けてるのだが。


「――さて、この弾幕でくたばってくれれば話は速いが……」


残念ながらそう言う訳にも行かないらしい…知っていたが。


――ドロォ…――


視覚を通して刻印が観測する光景を視る…燃え上がる程黒い〝瘴気〟が弾幕の中で渦巻き…強い憤怒と粘り付く憎悪が膨れ上がり…その根本に居る〝悪魔〟は…私を〝捉えていた〟…。


――………――


そして、その憎悪は盃に注がれた酒が限界を超えて溢れるが如く、プツリと…限界を迎え起爆した――。


「――と…見せ掛けて実際は〝背後から奇襲〟」


かに見えた…しかし、その瞬間私は後ろへ目をやると…其処には音も無く現れた〝マスティマ〟が、私の首を刈り取らんと鋼の刃を纏った爪を伸ばしていた…。


「もう遅いわッ!」


己の行動を読まれながら、私の行動を嘲る様にそう吐き捨てるマナテマ…しかし。


「〝遅い?〟――いいや、もう既に〝防御〟しているとも」

「ならば守ってみせ――」


その爪が私へ触れ、マスティマが私の言葉に返し終わるより早く…彼は〝一歩〟…歩を前へ出した……瞬間。


――カチッ――


肉々しい異界、血海の大地に似つかわしくない、機械的で固形的な〝異音〟が微かに響き――。


――ズドォォンッ――


「『ガァァァァァッ!?!?!?』」


マスティマの身体を火達磨にしながら、地面に仕込まれた〝罠〟が作動する。


「吠えてる暇は無いぞマスティ君――良いのかね、そんなに出鱈目に動けば――」


――カチッ――

――ドドドドドッ――


「グボオォォォッ!?」

「こうなるよ?」


そして始まる〝猿踊り〟、ふらつき歩けば槍が下から飛び出し、避けようと歩を引けば乱れ暴れる風の刃…吹き飛ばし、弾き飛ばし、地雷から地雷へと飛び移る様は、正しく〝滑稽の極み〟だった。


「さて、姑息な奇襲が見破られ、手痛いしっぺ返しを食らった気分はどうかね?」

「ッ――〝喰い殺せ〟!」


私の挑発に彼は身を焼く炎を振り払いながら血の大地を殴り付けてそう叫ぶ…その瞬間。


「おっと、コレは!」


――ドドドッ――


ただの血と肉だった物体が明確な悪意を以て私へ肉薄し、歪な生命の群れが私に雪崩掛かる。


「――流石にこの数は手間だね…」

「ハハッ、フハハッハハハ!!!…此処は〝我の世界〟だ!――我が意思こそが絶対の法則ッ、我が声こそが絶対の信託!…この世界の支配者は、神はッ、〝我唯一人〟だけだ!」


肉の群れは大地の罠をも轢き潰しながら、私をも飲み込まんと迫る。


「――仕方が無いか…〝此方も手札〟を切るとしよう」


――カチンッ――


眼前を覆う肉の津波から逃れる術がない事を悟り、私は渋々ながら自らが隠し持っていた手札を切り、ソレをこの空間に〝見せ付ける〟…。


「――〝其の刃に癒やし無く〟、〝祈りに無垢は無い〟、〝祈り捧げる神は居らず〟、〝信仰は疾うの昔に潰え果てた〟」


我はそう〝言葉を紡ぐ〟…その懐から真っ黒な〝十字架の剣鞘〟を取り出しながら。


「〝赦し無く〟、〝救い無く〟、〝慈悲は無く〟、〝希望は無い〟…〝其処に有るはただ不浄を殺す剣〟」


呪詛の様な祝詞は、その言の葉に籠もる魔力を剣に啜らせ、その黒い剣と鞘はその真っ黒に淀んだ剣身を曝け出す。


「〝憎悪の槌より生まれ〟、〝狂気の焔より産き〟、〝復讐の生命を授かりし者よ〟、〝その本懐を果たせ〟」


――ドオォォォォォッ――

――ビキビキビキビキビキッ――


黒い剣身からは、ドス黒い〝魔力〟が噴き出し、その剣はまるで私の身体と一体化したかの様に、結合し黒い痣が蝕み刺すような苦痛が左腕全体へと広がる。


「〝穢れ裂く(ロスト・ヴァーチュ)復讐の剣(・アヴェンジス)〟」


そして……長剣から大剣へと見紛う程の魔力の剣を握り……私は横へと振り抜いた…。


――ザァァッ――


静寂……音は無く、ただ〝無〟が刹那の世界を満たす…その光景はまるで夢物語の如く非現実的で、しかし今実際に眼の前に現れた現実として〝(マスティマ)〟の眼へと刻み付けられる。


一切の抵抗無く、振り抜かれた剣は〝斬り裂いた〟…肉の津波を一振りに斬り伏せ…その生命を食い散らし…その躍動を鎮める。


「何だ…何だその剣はァ!?」


そして…無音の刹那に、悍ましき異界の神の…醜悪の悪魔の叫び声が劈き響いた。

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